聖獣 Ⅵ 魔法も少し
めちゃくちゃかわいいなー。
まぁけっして若くはないんだけど、狐にしては赤みを帯びたふわふわな柔らかい毛の耳と尻尾。すぐそばで、手取り足取りで聖獣の力のコントロールを教えていく。時々、魔法を解除したり、また魔法をかけたりの繰り返しで、徐々に力の本質をとらえてコントロールする方法を覚えていく。結果的に一つ目と二つ目の方法同時にやるのが効果的だったようだ。
雪ちゃんは普通にしゃべられるようになっていたが、犬歯のコントロールがうまくいかず、時々頬の肉をひっかけてしまうようだった。
とはいっても一番大事なのは聖獣化した自分、人間である自分、どちらも同じくらい自信をもってはじめて力のコントロールがうまくいく。聖獣化していても忌避を感じないように、堂々とかつ聖獣化の状態でも体の手入れは怠らないようにしなくてはいけない。
そんなこんなを話して、少しずつわざと聖獣化と人化を繰り返しながら根気よく、自分の力だけでどちらもこなせるようにさせていく。
雪ちゃんは俺がいろいろ教えているときも半聖獣の姿、まぁ耳と尻尾だけだけど、それを見ていて徐々に心を解きほぐしたのか、数日たったころから聖獣化の状態でも毛艶がとてもよくなって、すごくいい匂いがするようになった。聞くとシャンプーとコンディショナーを使って聖獣化した状態で洗ってみたのだそうだ。さすがに聖獣化した状態で全身を自分では洗えないので、母親に手伝ってもらったそうだが、ふわふわの毛並みそしていい香りの雪ちゃんの体に顔を埋めたい衝動を抑えるに必死で、かなり眉間にしわが寄ってしまった。
雪「何か問題でも?」
彼女に心配されてしまった(^^;
心配のお返しに、魔法のひとつでも教えておこうかな。
というのも、聖獣化のコントロールは集中力もいるし、感情面の変化に敏感で簡単にどちらかに傾いてしまう恐れがある。喜怒哀楽のそれぞれの場面でも力をコントロールする必要があるけど、かなり難しく訓練が長期にわたって必要だ。なので、魔法で補完してやれば、多少の感情の揺さぶりがあっても、人化が解けたり、逆に聖獣が人化したりということを防げるはずだ。
とはいっても、いきなり人化の安定化させる魔法や、姿かたちに変化を与える魔法は難易度が高すぎるはず。予想で言ったのは、実は教えたことがないからわからない。地球の制限である封印が解かれた状況ならだれでも魔法ができるはず?いや、自然な成り行きでそれぞれの力の保有者が少しずつ増えて、最終的には混然一体となるのが神化の流れ。封印が解かれても、だれでも簡単に魔法が使えるようになったとは限らない。
そこで、簡単な水魔法を応用して練習していくことにした。
まずはマグカップ一杯の水を2つ用意してもらった。
まずは一つ目。
マグカップの水面上に爪楊枝ぐらいの水の針を1本作る。
水に対して形状固定の魔法をかける。
このままではぬるい氷の針と同じだ。
これを維持したまま。マグカップの中に渦巻き状の水流を作る移動魔法の練習。
これは魔法の並列起動の練習でもある。
ここまではできるかなー?
雪ちゃんの後ろに回って、彼女の手に自分の手をのせながら魔法の力のコントロールを体感してもらう。
うぅーん。雪の頭のケモ耳が頬にあたって気持ちいい。
何度か、そんなことをやってると雪ちゃんもこれをできるようになった。
次は水の針の中に同じような水流を作り出す。
これはすぐにできた。
水でできた爪楊枝はかすかに竜巻のようなうねりが見えた。
さて、ここから難易度が増してくるはず。
この爪楊枝ぐらいの水流でできた竜巻を無数に出現させる。
俺「とりあえず同じ小さな竜巻を100本ぐらい作ってみて」
さて、今度は正面にまわってメグが一人でこれをできるかじっと見つめる。
マグカップの表面に1本立っている小さな針上の水の竜巻。これが1本から2本、3本と増えていく。あぁーこれは失敗だな。
5本目から6本目でなかなか次の竜巻がでてこない。そして、無理に竜巻ができたかと思うと最初の竜巻がピチョンと水面に引き込まれて消えてしまう。
雪ちゃんはかなり集中している。
俺は何も口出さず、その様子を眺めていた。
最終的に10本目ができるかどうかのところで、だいぶ疲れてきたようなので、声をかけて休憩に入った。
俺「10本も作るのはすごいなー、なかなかできないよ」
雪「でも100本ぐらいって言ったよね」
俺「そう100本 ぐ・ら・い!!」
雪「???」
俺「イメージがものすごく大切なんだよ」
そういって、見本を示す。
俺がマグカップの水面を見据えると、マグカップの水面上に一気に100本ぐらい?いやそれ以上の細かな竜巻があらわれた。
単に、水流でできた竜巻を1本なら、形状固定と渦巻き状に移動させる魔法で十分だけど、これを100本となると、二つの魔法×100では200の魔法を並列起動することなる。雪ちゃんがやろうとしたのはコレ。簡単な魔法であってもコレは非効率。
この場合、一本の針ではなくて、ブラシのように林立する形状をイメージして形状を固定。その中に竜巻状の水流を無数に作りだすイメージができるかどうかが成功の秘訣。
ちなみに、水に対して形状固定の魔法をかけるのは、最終的には人化した状態を形状固定として魔法をかることの基礎ともなるので大事な練習。水に対する形状固定は生物に対することにも応用が利くのだ。
見本を示すと、雪ちゃんはすぐに何かを理解したようだ。さすが秀才。中学校で同級生だったころは成績学年トップの彼女。
彼女のマグカップにも同じような針状のものが出現した。
もう、ほとんど成功かな。
俺「これで何をしようかというと・・・」
俺は魔法で雪ちゃんを聖獣化させた、そして同時にマグカップの中の水を空中に浮遊させブラシ状の形にして、それを移動魔法で彼女の毛並みにそって動かすようにした。
雪ちゃんはかなり驚いたようだったけど、俺の魔法のなすが儘に水ブラシで撫でられている。あぁ直接撫でてあげたいなー。
ということで、先ほど作った水ブラシに移動魔法をかけて使うと、聖獣化していても誰かに洗ってもらう必要はない。水ブラシにシャンプーやコンディショナーを混ぜて先端から少しずつ出るようにしてもいいし、いろいろ使い勝手がる魔法だ。水ブラシの形状は一つの魔法としてまとめてイメージして出せるようにしておくと、いくつもの魔法を組み合わせてその都度作るより簡単だ。
ということで、ここで詠唱が出てくる。
俺「ここで水ブラシを一つの魔法としてイメージを定着させる詠唱が必要になります。」
俺「水ブラシの詠唱はCallistemonです。移動の詠唱がmovereなので、モーベル カリステモンです。」
ちょっと教えるの大失敗です。詠唱のことすっかり忘れてた(^^;
なので後付けですが適当に詠唱作ってしまった。
順番マズったなー。これじゃ魔法は無詠唱が可能で、詠唱はただのタグ付けだっていってるようなもんだもんなー。実際、俺やるとき詠唱してなかったし(^^;
安全のためにも正直に言って、口留めしておこうかな。
でも、詠唱魔法にしても魔法自体まだ表ざたになるまでは数年かかりそうだから、とりあえず人前では使わないように念を押すだけに留めて今日の治療?教室?は終了させた。