聖獣 Ⅴ
さて、3つの提案をしたものの、実はこれ以外にもいろいろ人化を促す方法はある。例えば3つ目の聖獣化をコントロールできている人と結ばれるというのも、聖獣化のコントロールだけでなく、不老不死者、賢者の力のいずれか、または俺のように神化した人間と結ばれることでも可能だ。ただ、後々わかることだけど不老不死者もそれなりの数はいるはずだけど、完全に地下に潜っている。不老不死者に出会えることは不可能に近いだろう。聖獣化に関しても、発生はしているけどコントロールできている人間がどれほどいるか?おそらく大半が雪ちゃんのようにコントロールできずに聖獣化してどうしてよいかわからない状態だろう。仮にコントロールできる人間がいたとしても、不老不死者たちと同じく隠れてしまって見つけることは困難だ。魔法を使える人間も然りだ。これは権力者や大富豪の中に散見できるが、彼らに助けを求めることはできないだろう。彼らは魔法の力を隠しながら行使して今の地位を手に入れたり守っているのだから。まして神化した人間なって俺以外にいるかどうかもまったくわからない。神の記憶でも2000年に俺が神化した時点では俺が最初で後しばらくはないだろうとわかっていた。なんでも、人類の神化は自然な時の流れの中で進み、俺の役割は、本当に小さな波紋を広げて全体の調和をできる限り維持することにあるのだ。
とりあえず、今日はいきなり一つ目の提案で雪ちゃん自身で力のコントロールを得るなんてものが難しすぎていきなり壁にぶつかってしまいそうなので、確実に人に戻っていけるという自信をつけさせるためにも2つ目の提案の魔法を少しだけ使うことにした。
俺は雪ちゃんの前に座って顔を近づけた。
うぅーん、やっぱりかわいい。もふもふしたい。首筋からほっぺの毛や耳のあたりの毛並みをなでなでしたい。
そんな下心をとにかく抑えつつ...
俺「力を流すのでそれを感じ取れるように気持ちを落ち着けてくださいね」
困った。神の記憶では、魔法の発展は最終的には無詠唱だけど、人が直接起動する場合は50年から100年間ぐらいは詠唱型が定着するとの判断。でも、魔法の詠唱なんてまったくわからない。神の記憶をたどっても、そもそも神はその力を使うときに詠唱も何もいわないし、意志だけで力を行使できる、ゆえに神なのだから。
とりあえず、魔法っぽく聞こえるであろう、動植物のラテン語の学名を適当に羅列してごまかすことにした。
「Saussurea.....」
何やら呪文めいたただの単語の羅列をぶつぶつ呟きながら彼女の毛並みを確かめるように頬から首筋、頭から両前足、そして背中から後ろ足を撫でた。
おそらく彼女も力の流れを感じてくれていると思うけど、聖獣化を解くのにかなりの力を流し込む。そして、それを練りながら余分なものを吸い取るように自分へ戻す。戻すときもそのままではなくて流れを整えながら自分が利用できる形のもの、そしてあるべき場所にゆっくりと流しながら戻していく。
ほとんどの部分が人に戻った。
戻らなかったのは耳と尻尾だけ。実はわざとだったりもするけど、すべてを戻してしまっても、自力で戻す方法を身につけないと意味がないのでとりあえず、少し残しておきましょうと説明した。
俺「力の流れは感じましたか?その流れを意識して忘れないようにしてくださいね」
今日はもう遅いので明日以降、スケジュールを調整して頑張っていきましょうと告げて家に帰ることにした。
家に戻ると両親がぎょっとした顔をしている。
親父「その耳どうした?」
あっ!!耳と尻尾そのままだった(^^;
俺「あぁ(^^;雪ちゃん家で仮装させられた(^^;、それだけだよ」
慌てて自室に駆け込んだ。