聖獣 II
身近でも聖獣化が起きてきたか。まさか、中学の時の同級生の雪ちゃんがとは...。
しかも、中学生のころのクラスのアイドル。俺もかなり憧れていたけど、無理だと諦めていた彼女。まぁ家が近いし商店という商売柄、学校以外でもよく顔を合わせていたけど...
同級生の両親に居間に通されたけど、物が散乱して散らかっている。時折奥の部屋から大きな物音がするが、雪ちゃんのお母さんはすっかり怯えてしまっている。親父さんの表情もかなり険しい。
さて、どう切りだしたものかな?
俺「いつからですか?」
「...」
俺「大丈夫ですよ。なかなか相談できることではないと思いますし、病院や公的な所で解決できることではないとお考えでは?」
「...」
俺「まだこちらの意思は伝わるんですよね。でも、何もしなければ、やがて意思も通じ合えなくなりますよ」
これは本当のことだ。聖獣化はコントロールできない状態ではもとにもどることができなくなるらしい。完全な精神体にまでなれる俺ならそんなことはないけど、肉の器の変化に対して精神が固着している普通の聖獣化では元に戻るのにはかなりの訓練が必要だからだ。
俺「何でも屋のdiosマート、神の商店ですから(笑)ご心配なく」
少し、魔法を使った。まぁほんの少しだ、相手の気持ちをほぐし警戒心を解きほぐす程度の精神魔法。
雪ちゃんの親父さんはポツポツと語り始めた。
雪ちゃんの聖獣化が始まったのは1か月ぐらい前かららしい。
急に毛深くなったらしい。最初のうちはカミソリで顔や体の毛をそっていたらしいけど、だんだん全身に、そして毛の伸びる速度も速くなってきて間に合わなくなってきたらしい。それで、2週間前から部屋に引きこもるようになっと聞いたという。実家には雪ちゃんの親父さんが買い物に来た火曜日の夜に戻ったらしい、本当は週末に戻るつもりだったらしいけど、日に日に獣の姿に変容する妻に耐えられなくなったらしく、だんながはやく実家に戻るよう促したらしい。
ここまでは、だんなの話がもとなのでらしいという伝聞調だけど、実際には聖獣化はもっと長いスパンで起きるはずだから、兆候はもっと前からあったはずだ。
実家に戻ると急激に変化が始まったという。まずは耳の位置が変わり始め、形もまるで犬か猫のように三角に頭の上に移動、臀部に尾が生え始め、少しずつ顔の中心がとがり始め、口が裂けはじめたという。歯も犬歯が鋭く見えるようになったといういうが、これはかなり前から変化していたはずだ。おそらく口が裂けはじめ、鼻先が尖り始めることで犬歯が目立つようになっただけだと思う。
さて、聖獣化は間違いないとして、問題はどうやって本人に会って、聖獣化を戻すかということだ。
おそらく、本人はもう人の言葉を話すことは難しいと思う。まぁ慣れれば聖獣化していても人の言葉を発することができるはずだけど、無理だろうなー。
精神魔法は使いたくない。雪ちゃんは憧れの人だったから...
中学のときに神の力を得ていたらたぶん使ったと思うけど、僕を好きになってもらうために(^^;
かといって、強引にいっても大丈夫かなー?
正直、神の記憶の力を使って出される回答は、精神魔法と強引に行く方法が最適と出てくるが...
悩んだ挙句だした結論は。
俺「ご両親は雪ちゃんを最後まで守ろうと考えていますか?」
「それはもちろん。ただ、黙っていてもどうしようもないし、かといって相談するわけにもいかないし」
俺「今後も一切他言無用にできるならお力になることができますが」
「何か解決方法がありますか?治す方法がありますか?」
俺「治すという方法はありませんし、治す必要もありませんが、人の姿に戻す方法はいくつかあります。ただし、これまでの経緯とこれから起きることとその結果を表に出すことはできませんが?」
「もちろんです。」
俺「では見ていてください」
俺は聖獣化の力を使った。実は自分から使うのは初めてだった。聖獣化を授かったときは授けてくれたペルーの子供にいたずら半分に獣にされただけだったのだが(^-^;
髪の毛は一瞬で銀色になり頭には大きな三角の耳。少しズボンを下げて大きな銀色の尻尾。俺の聖獣化はどんな生き物にも変わることができるし、通常の聖獣化と違い質量保存の制約もない。とはいっても、あまり変なものに聖獣化しても受け入れられないので、先ほど知覚魔法でスキャンした骨格から類推してキツネに聖獣化した。完全な聖獣化だと服を脱がなきゃいけないし顔かたちまで変えるとそれもまた相手に警戒されるので、ちょっとアニメに出てくる獣人風ぐらいにとどめて聖獣化した。
雪ちゃんのご両親はかなりおどかれたようだったけど、すぐに僕はもとに戻すと、念を押すように他言無用であることを告げた。