聖獣 I
金曜日の夜。店の営業は11時までだけど、明日は早朝の市場の仕入れはないし、午後7時に店のほうは両親に代わってもらって、先日約束した近所の中学の時の同級生雪ちゃんの家に向かった。どうせ、7時を過ぎると店の惣菜は売れ残りだから、大きな折に詰め直して酒のつまみ用に持っていくことにした。
残念ながら、ほかに友人を二人誘ったけど、会社勤めの友人は週末飲み会とかで来られないことになって、俺一人で行く事になった。少し気まずい。40歳にもなって雪ちゃんって呼ぶ歳でもないんだけどな。やっぱ神になったせいかな?時間や歳に頓着しなくなったな。
雪ちゃんの家に近づくと怒鳴り声が聞こえたような気がしたけど...
気のせいと思って玄関のチャイムを鳴らした。
しばらくすると、玄関に人影が見えて、同級生のお母さんが戸を開けてくれた。
少し顔色がすぐれない。そればかりか「おじゃましまーす」といって玄関に入っても何を言い出そうか悩むようなそぶりで言葉を発しない。
何かあったのだろうか?
すると、雪ちゃんの親父さんが、奥からやってきて済まなそうに、
「いやー、なんか雪のやつ体調がすぐれないらしくて、ゴメン、先に連絡しておけばよかったんだけど」
「ゴトン、バキッ!!」
その時奥から何か物をぶつけて壊れるような大きな音が聞こえた。
雪ちゃんのお母さんは慌てて奥のほうに行ったが、親父さんのほうは
「スマン、スマン」と小声で言うばかりでどうも様子がおかしい。
そのときふっと獣の匂いがした、臭いという嫌な感じではなくて、気の安らぐような匂い、いや同類の匂いといったほうがいいだろうか。
確認のため、神の力を使うことにした。賢者の力のうちの今のところ超常の力、わかりやすく説明するために魔法ということにしておこう。
知覚魔法って言ったらかっこいいのかな?離れた場所の状況を探る魔法。レントゲンのように物を透過して対象物を見る魔法。
神の記憶で情報のフィルターをかけながら知覚魔法を発動させることで、壁などを透過して対象物のみを見ることができる。
まぁまだそのフィルターの加減がうまくないから、ほとんどレントゲン写真にように知覚されるんだけど、驚いたのは奥の部屋にいるのは同級生の雪ちゃんではなくて、なんらかの大型の動物らしき骨格の生物だった。
衝撃だったけど、神の記憶にある聖獣だとすぐに判断ができた。
俺「最近、大きな生き物を買われたんですか?」
「あぁ、まぁ...その...」
俺「最近、おかしな事件が多いですよね。都市伝説のような」
「うぅ...」
俺「先日買った週刊誌の「狼男、キツネ女都市伝説の真実」実在が疑われる事件の数々!!読みましたか?なかなか面白い考察でしたよね」
「面白くなんかないだろ!!」
少し驚いたが親父さんが大声を上げた。
これは確定だな。
俺「別の生き物になりかけた方がいるんですね?」
親父さんは無言だったけど、しばらくして雪ちゃんのお母さんが
「少し上がって休んでいってください」と声をかけてきた。
先ほどよりかなり顔色がよくない。