機内
東カナダ政府専用機は機体は小さいが豪華だった。映画や海外ドラマに見る富豪の専用ジェットよりは大きく、旧合衆国の大統領専用機よりは小さいが、中の雰囲気はまさしくそのような感じだった。欧州諸侯国連絡会議も政府専用機を持っているが、諸侯国の大勢の外交官が乗ることを想定して造りは民間航空機とほぼ同じ。違いは全席ファーストクラスになっているのと、小さな会議室があるくらいだ。ちなみに欧州諸侯国のそれぞれの首脳で首脳専用機を持っているのは全体の5分の1以下だ。しかも持っていても前出の富豪の専用ジェットのような小型機がほとんどだ。多くは民間航空機の借り上げで対処している。
目的地のアメリカ共和国の首都ワシントンへは2時間足らずで到着する。
僅かの時間だけど魔法の現状について考えてみる。なんせ、神の力の賢者の力は過去や神々同等の知識があっても、今現在の情報やこれから起きることを確定させるだけの便利な機能はない。
ここ数年で航空機にも高速化、安全と省エネのための魔法を使った魔動機器が搭載されて空の旅も快適になった。ただ、まだまだ技術は未熟の域を出ていない。それでも、地球の制限が解除されてからまだ10年と少ししか経っていない今、機械と魔法との応用が進んでいるのはかなり早い進み方といっていいと思う。この方向で政治や人々の考え方、旧時代の言い方をするとイデオロギーというやつが進んでくれていたらよかったのに。技術と人間の思考の進み方に乖離が出始めている。今回の問題は過去の兵器である核兵器だが、これが逆に先に進む側の選民意識で同じようなことが起こりかねない。本来それを止める手立てが聖獣化だが、これも3つの力の融合がまだ先のことだから、それまでの間はあてにならない。まさしく人類の歩んできた歴史とその蓄積された知識、そして人の持つ愛と平和を求める心に期待したいが、歴史が繰り返してきた現実を思うと危なげと感じてしまう。
そして、何度も言うが魔法という呼び方自体が便宜上、そうなっているだけで神の力のひとつ。国によって魔法、魔術、魔技、神術など呼び方も様々だ。国是によって呼び方が微妙に異なる。日本語で普段慣れていると違いが微妙に思えてしまうが、人類至上主義の国では、魔法の魔の扱い方は悪魔を意味していて、同じ魔法使いでも、デーモンとかイービルどちらも悪魔といわれている。東カナダや多くの国の魔法使いは英語で言うところのウィザード魔法使いであり、ウィッチクラフト魔術であるが、魔法最先端の研究を奨励している魔法師中心の国では分類がいくつかできはじめて一言に魔法使いと括らないようになっている。魔動機技師マギクラフト、錬金術師ニューアルケミスト(中世の錬金術師ではないという自負からニューを必ずつける。つけないと侮蔑的と思われる)などほかにもいろいろあったと思うが、今も増え続けてるし統合もあって覚えきれない。
一部の小国では神術といっているが、これが一番正しいのだろうけど、今の技術レベルで神術というのは少し違うような気もする。俺自身も便宜上魔法といっている。媒体つまりデバイスなどを使って発動するときは魔術といっている。どちらにしても、本来は詠唱も魔法陣も必要なく本人の意思とそれを実現するための物理、正確には地球の制限解除がなされてからの新しい物理に基づいた意思の行為が発現したものが神の力、今は魔法と呼ばれているものだ。これは新しい物質あるいはエネルギーの変化過程つまり物理を知っていれば無詠唱で発現することが可能なのだ。
まだ人類はそのすべてを知りえていない。今までの知りえている物理現象を過程として発現したい形を明確にさせる必要があり、長い詠唱や本来デバイスや媒体に刻む魔法陣を紙や地面、最近では中空に描いて発動させるのだ。
しかし、無詠唱のもととなる新しい物理は今までの物理とそう大きく違うところはないし、絶対的な約束事もある。光を超えるスピードを発現すること、空間を捻じ曲げること、時間を逆行したり早めたりすることは絶対的不可能で、大きな変更点は、今までの元素に対になる魔法属性の元素が存在し、新しい物質の創造が可能になったこと、それに関連していくつかの化学反応や物理反応が容易になった点だ。核融合や核分裂反応も同様で魔法を応用したものはすでに安全に実用レベルに達している。
いずれにしても、今回の取り残された者たちの問題が無事片付いたとしても、今度は先行者の対策も必要になるのは頭痛の種だ。いっそのこと宇宙進出の速度を一気に早めたほうが得策かもしれない。前回の交渉会議でも触れたが、今回の問題解決で各国に恩を売ることができれば国際的にこちらの思惑について指示を取りつけることができるかもしれない。
まぁこの問題、できる限りのことをしようと思う。地球の死産で独りぼっちにはなりたくないし。




