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神になった商店主  作者: 雪蓮花
魔法
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情報収集

東カナダの首都モントリオール。当初はアメリカ共和国同様人類至上主義派の急先鋒の地域だった。しかし、合衆国時代から内戦を恐れる不老不死者のうち比較的富裕層は欧州へ移民する準備のためにこの地域に滞在したり経由するが、それら相手の商売でこの町は潤って栄えた。富裕層の移民と市民の間に交友が生まれて、かつての人類至上主義の牙城のひとつだったこの都市は、融和の象徴的な都市へと生まれ変わっていた。政府要人もバランスよく4勢力が配置されており、聖獣学校や魔法師学校も整備されているが、極力4勢力が一緒に学び融和をはかるため、義務教育の12年間は共通学校に通うようになっていた。また街づくりも特定地域に勢力が固まらないよう気遣われている。ただ、軍人は圧倒的に聖獣と魔法師が多かった。不老不死はやはり臆病なので軍人には向かない。徴兵制を布こうという政策も発表されたが、発表直前に自国の不老不死の国民が一斉に欧州へ行こうと空港に殺到したことから中止となっていた。国是としてはしばらく人類至上主義だったためアメリカ共和国側との国交は続いている。

モントリオール郊外の空港に併設されている空軍の格納庫に欧州諸侯国公使館の外交特権車両で乗り付けた。

中の事務所には外務武官の制服に身を包んだ青年が1人と背広姿の青年が2人立っていて、我々が入るなり敬礼した。武官の制服の青年がアイザック大佐だろう。

事務所には東カナダ連邦の外務大臣クレマン卿が待っていた。

外務大臣のクレマン卿からメンバーの紹介と今現在までの共和国内の内情についての説明と、東カナダ連邦政府とのかかわりについて話があった。

やはり、前回の交渉会議の間から首相顧問のジェイコブと軍の中将ローガンはクーデターを企てていたようだ。ただ、ローガンに至っては交渉会議の最中はまだどちらにつくかは決めかねていたようだが、交渉会議中に本国からの指示で行ったミサイル攻撃や同盟や金のつながりで得た傭兵を使った襲撃など次々失敗する中でクーデターを起こすことを決意したようだった。ジェイコブが娘のソフィアを俺に預けたのもローガンの決意を確認してのことだったのだろう。

交渉会議終了後、ジェイコブたちは直接国交のない共和国へ帰るのに東カナダを経由するのだが、この時に東カナダにもクーデター支持の約束を取りつけたようで、東カナダはクーデター勃発後暫定政権発足とほぼ同時に暫定政権支持の発表を行っている。

しかし、問題は暫定政権発足直後に起こり始めた。軍部は首都のテレビ局や中継基地、ニューヨークなど大都市の同様の施設などは押さえたものの、国土に張り巡らされたすべての光ケーブルを守るまでの力がなかったのだ。確かに衛星放送や旧来の電話線もあるのだが、携帯端末の時代、各基地局同士は光ケーブルで繋がっていて、旧来のネットワークと違って拠点防衛だけすれば守られるものではなくなっていた。もちろんインターネットの強みで多少の光ケーブルの切断は問題ないのだが、次々切断されると復旧も難しくなり、防衛範囲も広くなり全てが後手に回るといった状態に陥っていた。点を守るのは強力な軍の強みだが、線のほんの一部を切られるだけでダメージを与えることができるネット関連はゲリラの標的になりやすかったのだ。それでもクーデターを起こした軍事政権は東カナダに向かう海外向け光ケーブルは死守できたが、大西洋を渡る光ケーブルは人類至上主義派の過激派に次々切断。欧州への通信、ネットも東カナダ経由で繋がりにくくなっていたのに加えて、国内の携帯基地局への光ケーブルの多くはゲリラによって切断もしくは盗聴フィルターが仕掛けられていた。人類至上主義派は過激派を使いゲリラ戦、そして、通信網を破壊、もしくはエリア通信網、つまりケーブルテレビやラジオ局などを使って人類至上主義のプロパガンダを流しているという。

情報が錯綜する中、ラジオ放送などの解析で人類至上主義派はボストンに拠点を構えているという情報も得ることができた。

外務大臣クレマン卿から概要の説明が終わると、メンバー同士の作戦会議が行われることになった。正直、俺はルドルフから「どうにかして欲しい」という曖昧な指示しか受けていない。皆は俺から先に作戦の概要を話してほしそうな雰囲気だったが、まずは東カナダの武官としてアイザック大佐が同国から受けている指示について問いただした。なぜなら、俺がしたいことに彼らの指示が当てはまるかどうか判断したかったからだ。

俺「アイザック大佐、貴殿が我々の同行にあたり貴国政府からの指示について明らかにしてほしい。私としては、同じチームとして同行するために、同じ目的を同じ手段で行えるのか先に確認しておきたい。」

アイザック大佐「東カナダ政府よりの指示はあなた方の護衛、および共和国内の人類至上主義派の動向調査、および場合によってはその殲滅にあります。」

俺「つまり、可能であれば敵地のど真ん中のボストンへも強硬的に向かうということですか?」

アイザック大佐「いえ、強硬ではなくて隠密的にということです。外務大臣からはあなたとご一緒であれば可能とのことをうかがっておりますが」

俺「確かに可能かもしれませんが、クーデターが起きたとはいえ、貴国が真っ先に国として認めた以上、政治的に難しいのではありませんか?」

アイザック大佐「確かに政治的には難しいのですが、やらなければならない可能性が出てきたといいますか、大きな懸念について先に暫定政権で確認する作業も必要なのです。場合によっては確認する時間すらないかもしれません。」

俺「どういうことでしょう?」

俺は念のため強力な隠ぺい魔法を発動した。

外務大臣クレマン卿「それについては私から。ご存知とは思いますが、旧合衆国は核兵器を大量に保有しておりました。合衆国の分裂後は核兵器不使用条約により各勢力とも核兵器を使用しない条約に調印しましたが、今回のクーデターで一部の軍部が人類至上主義派に核兵器を譲り渡した疑いがあるのです。どれもミサイルではないのですが、数が問題でして小型の原子爆弾から大型の水爆までゆうに200発は超えるとの情報です。それを人類至上主義派はゲリラを通じて共和国内に分散させ自爆テロを決行しようとしているのです。軍事政権側も当初は疑っておりましたが、すでに共和国の地方都市で数発の核兵器が押収されたとのことです。」

俺「正確な数の把握は?」

クレマン卿「共和国のほうで現在精査しているとのことです。」

アイザック大佐「核弾頭は今のところ魔法への対策はされていないようなので、魔法師が起爆を止める魔法を使うことができそうですが、これもまだ噂の段階ですが、魔法の発動をきっかけに起爆する仕掛けを開発したとの情報もあります。」

俺「それは確かに場合によっては確認の時間もないかもしれない由々しき問題ですね。それでも、取りこぼしのないようにしなければいけないので、まずは首都ワシントン入りが必要ですね。当然、軍事政権側も回収作戦を展開するでしょうし、作戦のすり合わせも必要かと」

クレマン卿「先方からは軍部はボストンに手を出せない事情があるとのことです。すでに住民が人質になっているようなのです」

俺「なるほど、それは他国に頼るしかなさそうな事情ですね」

アイザック大佐「では、実際のボストンでの回収作戦に入る前に、ホーエンベルク卿の魔法のほうの実力についてお教えいただきたいのですが」

俺「そうですね。皆様の安心になれればよいと思いますのでお見せしましょう」

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