欧州からアメリカ大陸へ
北アメリカ行きの便はほとんどが混乱していて欠航が相次いでいた。それでも政府関係者ということで東カナダ連邦行きの便に乗り大西洋を渡る。
カナダは2年前に東のいくつかの州が独立して東西に分かれていた。西カナダ民主共和国と東カナダ連邦。かなり前から今回の世界の大変化とは別にフランス系住民の独立の話が出ていたが、南のアメリカ合衆国同様、人類至上主義派と魔法、聖獣派の軋轢が生じて独立運動が過激化した。しかし、南の不老不死の人々が難民、移民になり海を渡るために東西カナダに殺到。そのため、独立はしたものの、実際には移民、難民の対応に追われて、アメリカの対立ほど深刻なものにはならなかった。実際、対立はなく平和条約も締結し従来通りの行き来もある。ただ、それぞれ東西に首都置いてそれなりに安定的な発展が見込まれるので再統合の話はあまりでていない。
今回は、当初人類至上主義派だった東カナダから直接、問題の発生しているアメリカ共和国、旧アメリカ合衆国の東側の都市ボストンに入る予定だ。東カナダは人類至上主義のをかかげる国以外では唯一アメリカ共和国と国交のある国だ。元人類至上主義の国だった腐れ縁と、隣国でもあるから人類至上主義ではなくなった現在でも形だけの友好国となってる。クーデターの首謀者と繋がりがあるとも噂されているが、これは人類至上主義派が流した噂との話もある。クーデター発生前はもっとも多くの空路を持っていた。クーデター発生のため軍事政権側が掌握しているニューヨークと首都のワシントンだけが安全に航空機が離発着でき、それ以外の都市への空路は全て閉ざされた。すでに、不老不死者の多くは難民、移民として国外脱出していて、残った人々の中で新たな不老不死者や聖獣、魔法師は囚われの身となっているので、航空機を使用する人は少なくなっていた。
まずは東カナダ連邦で情報収集をする。
東カナダ連邦にある欧州諸侯国公使館に入る。これは欧州が小さな王国や諸侯国、ギルド連合国に分裂したが、大きな外交上のやり取りのため、外務卿連絡会議という組織を作り、連合して各国に公使館を置いている。旧EU大使館に相当する。当然、外務担当の宮中伯の俺も関係しているはずなのだが、二つの顔を使い分けている事情で、今までルドルフはアメリカ大陸関連の仕事を回さないように気を使ってくれていた。ちなみに、日本にも香港にも同様の公使館があるが、ルドルフ、うちの国は俺もいることから公使館の利用は付き合い程度で直接大使館を置いている。
欧州諸侯国公使館は慌ただしかった。やはりうちの国以外にもアメリカ共和国に人を送るべく人選を行っていたようだが、ここにきてその人選のことで大きな問題が出てきていた。諸侯国なのでうちの国が香港、日本に独自に大使館を持つのと同じで、東西カナダにも独自に大使館を持つ国もあれば、商業ギルド連合国などは外務部よりも通商部が外交上の権限を持っているところもある。しかも、共通しているのは不老不死者は危険な所に行きたがらないから、お抱えの魔法師や聖獣を使うところもあれば、金で魔法師や聖獣を雇うところもある。いわゆる傭兵的なものがいたり、それぞれの思惑で指示されているからまとまりがない。で、結局バラバラにアメリカ共和国に向かうことになるから、個別に最新情報を与えなければならないという激務に追われていた。なんせ諸侯国の数はギルド連合も個別に数えると旧ドイツだけでゆうに100を超えているから。
公使館の二等書記官が対応してくれた。
俺「かなりの人数が共和国へ向かうようですが、目的ははっきりしているのですか?」
二等書記官「いえ、それぞれの本国からの指示で、こちらは情報を提供しているにすぎません。こちらとしては、欧州諸侯国外務卿連絡会議からの要請でホーエンベルク卿のみに諸侯国全権大使の身分で共和国へ向かって欲しいと指示を受けています。」
俺「さすがに独りきりというわけにはいかないと思いますが」
二等書記官「私と他数名が同行します。」
俺「他数名というのは?」
二等書記官「東カナダ連邦の軍人ですが魔法師のアイザック大佐とその部下が一時的に軍籍を離れて東カナダ外務部の武官という形で同行します。」
俺「つまり、国交のある東カナダの外交特権を持つ武官に護衛してもらいながらの訪問ということですか」
二等書記官「表向きは」
俺「表向き以上のことをしなければいけないのですね。」
二等書記官「そうならないことを祈っています。私自身も不老不死なので死ぬような危険は冒したくないのですが」
俺「そのことに関してはルドルフ様から伝え聞いていると思いますが」と笑う
二等書記官「ええ、話は聞いておりますが、それでも不安になるのが不老不死者ですからね」
二等書記官「では、大佐との顔合わせもありますし、ここではありきたりの情報しかお知らせできませんので移動しましょう」




