商店主飛び回る
海龍城の神崎商店2号店は雪にまかせて俺は実家の神崎商店Diosマートに戻っている。海龍城にある2号店のほうはソフィアも住み込みで店を手伝いながら、雪に聖獣のコントロールを教えてもらっている。雪の時ほど聖獣化も進んでいなかったので比較的簡単にできそうだ。ソフィアの聖獣の姿はオオヤマネコのようだ。なかなかのかわいさだ。
店のほうは短期のアルバイト的な者に任せていたが、大きな問題は起きてはいなかった。小さな問題としては少し治安が悪くなり駐車場や店の入り口付近に深夜になると若者がたむろして朝にはゴミが散らかっているという。
これは、少しお灸をすえる必要があるかな。こういう治安対策用の安全で留守や就寝中でも発動できる魔法というのも考えておくべきかもしれない。
それと、2号店のこともあるし、きちんと店を任せられる人を見つけないといけない。おそらく今後数十年の短い期間で神崎商店の店舗数も増える見込みがるし。
さて、魔法は使える。転移魔法が使えるといっても、実は転移魔法には大きな制約がある。まだ魔法に目覚めた人でも使える人はほとんどいない。というより、転移魔法というよりただの移動魔法なわけだけど。俺の場合転移と言えるくらい高速で移動でき、かつ僅かに制約を超えることができるくらいなので移動魔法というより転送、転移魔法ともいえる。その制約とは目視できる範囲ということだ。つまり、さすがに香港からここ日本のド田舎まで直接転移することは俺でも不可能。ただ、俺の場合の僅かに制約を超えることができる点は、通常の高速移動魔法と違い、おおよその場所が目視できれば建物内ぐらいなら中の見えていない部屋の中へでも転移が可能ということ。実際、前にルドルフたちを助けたときも、山の上から自宅の部屋の中までは転移ができた。そして、もう一つ正確には転移魔法とまでは言えない制約が亜光速までしか速度が出ないということ。あくまでも空間魔法ではない。というより神と同じ力があっても空間を捻じ曲げることはできないし、光の速度と同じになることはできないのだ。このことは不老不死の存在意義と大きくかかわることなのだ。限りなく光に近い速度で物質を転送することはできても、直進性しか持っていないというのもこの魔法の制約だ。なので、俺が転移というか転送魔法で香港から日本に戻ることもできなくはないけど、何度も繰り返して見える範囲ギリギリまで移動しての繰り返しになるのだ。そして、俺以外の人間のうち僅かに使える魔法は認識できる速度しか出せない制約もある。一般人は音の速度ですら体験する機会は少ないし、まして光の速度に限りなく近い速度なんて知るこはできない。つまり音速ジェット機の速度を体感したことがある人がこの魔法を発動すればその速度までは可能だけど、それ以上は不可能。俺はこの体験がなくても神の賢者の力で亜光速までを知っているから可能なのだが。
なので、最近は飛行機の移動がほとんだ。たまに大急ぎの時や気分転換、そして何より費用をかけたくないときは目視できる一番遠くまで移動できる場所を探しながら香港とここを往復している。先日は富士山頂を利用したが距離は大きく稼ぐことはできたが、さすが真冬の富士山頂にいきなり着いたときは気温差と気圧差でショック死するかと思うほどだった。まぁ不老不死だから死ぬことはないけど、痛覚含め人間の感覚はちゃんとあるから場所をよくよく考えないといけない。それと目視できるギリギリ範囲だから対馬から朝鮮半島経由で遼東半島から青島半島へ飛ぶのだが、これも大気汚染や気象条件によってはさらに遠回りと魔法回数の繰り返しを余儀なくされる。意外に不便な魔法だ。近距離用にしか使えない魔法だ。
で、香港と日本とを飛行機や魔法で何往復かしているうちに、ニュースが飛び込んできた。
アメリカ共和国でクーデターが起きた。首相は軍に捕らえられ、軍部が完全に政権を掌握したらしい。同国内の放送局も占拠されて、軍事政権側の政見放送が流れている。内容は即時停戦と不老不死、魔法師、聖獣の容認、差別撤廃だという。陸軍中将のローガンが軍事政権のトップのようだ。
ルドルフから緊急で欧州に来るよう電話があった。
欧州は小国に別れはしたが、いくつかの国同士で緩やかな連合や連邦を作り、共通通貨や貿易自由化などをやっていたが、アメリカでの突然のクーデターで、通貨が大幅な値下がりをしていた。アメリカも同様だったが、その値下がりした分の金はアジアの小国に集中しはじめた。しかし、もともと輸出で稼いでいたアジア各国は突然の通貨高騰、欧州の通貨下落で経済的なショックを受けていた。
さすがに欧州まで転移魔法を繰り返すのは難儀なので飛行機を使うことにした。
ルドルフ「卿がこちらへ向かっている最中にアメリカ共和国の軍事政権が暫定政府の閣僚を発表した。ジェイコブ殿が外務大臣となったようだ。しかし、国内の治安状況がかなり悪いらしい。」
ルドルフ「あちらへ向かい直接交渉しようにも、正直言って不老不死が大半のわが国では交渉へ行く勇気を持ったようなものがいないのが実情だ」
俺「ジェイコブ殿が外務大臣となったのであれば心配はないのでは。一応、海龍城には娘さんがいますし、娘さんの安全もリチャード殿の鉄壁の防衛があればまったく問題ないはずです。娘さんのことで脅される心配はないはずですし」
ルドルフ「情報が遮断されつつある」
俺「軍部の政権掌握はうまくいかなかったのですか?」
ルドルフ「通信省が人類至上主義派に牛耳られているうえに、実際の通信網をつぎつぎ物理的に破壊して使えないようにしているらしい。実際、TV放送もインターネットも暫定政権発足の発表の途中で遮断されてしまった。かろうじて衛星通信で政権側と連絡をとることができたが、大きな中継基地は攻防の真っただ中らしく、戦況は思わしくないそうだ」
俺「完全に孤立化するつもりかもしれませんね。」
ルドルフ「外務担当の宮中伯として何か良い策はないだろうか?」
宮中伯の肩書があるとはいえ普段の外務関連では何も関与することがない俺にそういわれるということは、行ってどうにかして欲しいということだろう。まぁ不老不死レベルの高い俺以外じゃ普通の人間でも行きたがらないだろう。ましてレベル4以下の不老不死者は戦争と聞いただけですぐに遠くに逃げ出すだろうから。
俺「現地へ行ってみましょうか?」




