三者協議 II
食事は我々の乗った円形のテラスに小型の円盤型のテラスのようになったものに乗ったウェイトレスによって運ばれてきた。驚いたのはウェイトレスはみな若い女性の半聖獣。俺が驚いた様子で見ていると、リチャードが説明した。
リチャード「日本のお客様の受けがとくによくてね。しかも、力が強く防犯上も役に立つ。彼女らは自分の姿に誇りをもって仕事をしてくれるから。この衣装も、日本人が好むデザインで自ら提案してくれたんだ」
なるほど、少し前に流行ったメイド喫茶のフリフリの衣装にも似ているが、材質やデザインはとても洗練されている。
前菜はフォアグラベースのパテとトリュフベースのパテが限りなく細く煉られ中が透ける程度に球状に固められ、中心部に真っ赤な甘いトマトソースが中空にあって輝く不思議なもの。
スープは奇抜なものだった。ベニテングタケという毒キノコの幼菌があしらわれた真っ赤なスープ。魔法で毒となるアミノ酸が変性されて食用に適した状態になっている。
メインは香港ではなかなか入手できない新鮮なアトランティックサーモンだが、一見すると普通のサーモンの刺身。ただ、我々不老不死者が不用意に若返ってしまわないように、たんぱく質の一部が魔法で脂肪やアミノ酸などに変性してある。時々、寿司の好きな俺が自分でもやる魔法調理だが、これに気が付いた料理人がいるとは思わなかった。不老不死者にとって刺身は食べたくても不用意に若返ってしまう可能性のある食べ物。人前で不老不死がばれることを嫌う不老不死者たちはなるべく食べないようにしている。
デザートもシンプルだけど野心的だ。アイスの天ぷらとかはよくあるが、一口大の白いアイスは真逆で中心部に熱いチョコレートソースが仕込まれている。これももちろん魔法による調理だ。
俺とルドルフそしてリチャードの隣にはそれぞれウェイトレスがついている。
リチャードが「コーヒー」というと、隣の半聖獣のウェイトレスが腰をかがめて飴玉のようなコーヒー色の球体をリチャードの口に近づける。これも魔法で状態固定したもののようだ。
俺も隣のウェイトレスにコーヒーを一口いただいたが香りも逃されておらず、とてもおいしく感じられた。
リチャード「このまま、かわいらしい従業員に囲まれて話をしてもいいのだが、内容はなかなか難しいものと推察しますが?」
俺「そうですね。できれば3人だけでお話を」
ウェイトレスが立ち去るのを見計らって、俺は透過魔法と無効化魔法をかけた。
透過魔法は周りから我々が見えないように。無効化魔法は外側から探知、知覚、攻撃含めて全ての魔法が無効になるように。
物理攻撃に対しては、リチャードのこの庭の防御システムで十分と判断したし、俺は自分自身とルドルフに物理攻撃の防御魔法を常時かけているので心配はしていない。
俺「お二方は3つの力の存在理由をご存知ですか?」
ルドルフは首を横に振った。
リチャード「必然で現れたと考えています。時同じくして、一部の物理法則が変わったり、今まで見つかっていなかった未知の鉱石が発見されたり、全て同じ原因によるものだと考えています。」
俺「その推察は正しいですが、その先はお分かりになりますか?」
リチャード「3つの力が少しずつ融合するのでは?という憶測というか希望もありますが、実際あなたを見ると現実になるのでは?という考えに至ります」
俺「何かその憶測の根拠になるものがありましたか?」
リチャード「私の会社、といっても直属の部下たちだけで、末端まで行き届いているかは疑問ですが、我々は魔法師、聖獣、不老不死者、人とチームを組んで仕事にあたります。その中で、若干ですが聖獣が魔法の力らしきものを使ったり、不老不死者が魔法を使ったり、魔法師が半聖獣になたということもあります。人がそれらに変化する確率もチームを作った場合はより高くなることもわかっています。」
俺「結論から申し上げて、人の目指す先に至るためには、あなたの仕事でやっているようなチームを組むことが望まれます」
俺「3つの力はやがて融合しますし、そうしなければいけません」
リチャード「私の疑問は、それは何によって望まれていることのか?です。あなたですか?それとも神ですか?」
さすが世界でももっとも成功した不老不死者。鋭いところを突いてくる。
俺「私は宗教は信じていませんが、とある宗教の教えでは、神は自分に似せて人を作ったといいます。外見だけでしょうか?」
リチャード「中身、力も似せて作ったということですか?」
俺「作ったとはいえませんね。人はご存知のように進化の過程で、必然的に発生しました。偶然ですが必然的に」
リチャード「どういうことでしょう?」
俺「望んで自らが自らを作ったということです。神は自分に似せてといいますが、そもそも人が神なのですから。自分で自分に似せて作り続けた結果が今の人という存在です」
リチャード「しかし、それではなぜ今まで神の力の部分が抜け落ちて、まるで何かにせかされるように変化したのか?」
俺「唯一、人以外の力が介在したとすれば、それは地球そのものです。地球という存在は母体と同じなのです。ですから我々は胎児と同じ。胎児であれば、自ら食するわけでもなく、呼吸するわけでもない。それが、この3つの力が発現する以前の状態。我々は成長した、そして地球という母体から生まれ出でる準備の段階。呼吸や自分で栄養をとるための準備をしなくてはならない段階に至ったということです」
リチャード「なるほど、推察するに呼吸の準備にあたるものが不老不死、自ら栄養を摂る準備が魔法の存在ということですかな?では聖獣は?」
俺「まさしくその通りです。聖獣は少し特殊でして3つの力が揃うと実感できるのですが、強力な魔法の力、永遠の生を維持するために欲の管理が必要になるのです。今までの自らの理性、外的な倫理という概念を超えた方法でやらなければ、到底高みには至らないのです。そこで、欲を分離したものが聖獣です。欲はその多くが必要なものですが、中には生を濁らすものも多くあります。それを削ぎ磨くために分離してあるのです。」
リチャード「それで、あなたの存在は?」
俺「私にこの3つの力を授けてくれたのは、わかりやすくそれぞれ「父・子・精霊」と名のっていましたが、おそらく人の存在そのものだと感がえています。それは過去からあったものでもなく、未来からもたらされたものでもない、人が過去から未来永劫の範囲で存在しているのと同じ存在だと。彼らのわかりやすい言い方では神となりますが、私自身の実感としては神というより、はやり人。ただ、一足先に生まれたての人という認識でいます。」
リチャード「神同様の方を前に不遜な言い方で申し訳ないが、それであなたは何を求めておいでか?」
俺「少しだけ、皆様のお力で方向の修正を願いたい。今の状況では人は地球の母体で死産という可能性がでてきたので。実際には時間的余裕がまだまだあるようなのですが、時間をかけて改善できる状況には見えないというのが本音です。さらなる本音を言いますと、私自身も不老不死者として死にたくはないわけでして、いろいろ知ってしまった身としては、このままの方向では少し不安になってきたというわけです」
リチャード「具体的には?」
俺「ここで黙って聞いているルドルフ様にも関係することですが...ルドルフ様、リチャード様は不老不死者の性格についてどのように思われていますか?」
ルドルフ「この力が授かる前に不老不死にあこがれたこともあるが、その時は生命に対して不遜になるかと思っていたが、実際は真逆だった。普通に限りある命だった時より不安感が強くなったな。どこまでも生きられる命なのに、ふとしたことで奪われる可能性があるということに。加えて他者の命も重く見えるようになった」
リチャード「私もたしかに不安感が増しました。実際、本土政府に隔離されていた時は非常に不安で、隔離が解かれて山に逃げこもうとも考えましたが、同じような不安を抱える仲間を探し、聖獣や魔法師の力も借りて今に至っています」
俺「先ほども少し申しましたが、不老不死の力の役割というのはとても大事なことです。今からそれをご説明します。その中で、お二方になによりご協力いただきたいことがお分かりいただけると思います。聡いあなた様方であれば、これを聞くだけで何をすべきかおわかりになるかと思います。
俺は不老不死の力の役割について説明した。




