三者協議 I
香港はここ1、2年で大きく変容をとげた。中国の国内では相変わらず聖獣や魔法の使える人々の隔離政策がとられていたが、事実上、これ以上の隔離政策は不可能なレベルにまでなっていた。普通の旧来の人類は不老不死者を人類側に積み増したとしてもそれでも半数に届くかどうかの状況だ。すでに、旧人類の割合のほうが少ないのだ。もちろん、聖獣や魔法の使える因子を持ちつつも気が付かない人々も多くいるが、管理できる上限はとっくに突破していた。そこで本土政府は協力的な魔法師や聖獣たちは香港に入ることを認め、そこで力を振るうことを黙認する代わりに本土政府に有利な情報の提供、あるいは情報以上に世論の操作、世界における本土政府の主張の正当性を認めさせる活動を条件にしていた。このせいもあって、香港では巨大企業が躍進、さらにアメリカ大陸の紛争が巨大な利潤をもたらし街は熱狂の渦の中にあった。すでに高さ1000メートル越えの摩天楼が10数基立ち並び、海上には高さ2000メートルのビルが建設中である。魔法や新素材オリハルコン、アダマンタイトの出現が、僅か2年でこれらを実現させた。さらに技術的に軌道エレベーターの建設も可能なところまできている。問題は軌道エレベーターを作れるような財力のある国、もしくは地域は、世界中で香港を含む数か所しかなく、大国の時代は終わりを告げようとしてた。そのことは、狭い地域にさらに金やあらゆる財があつまる要因になっている。
高さ2000メートルの巨大な建造物。このビルのオーナーとルドルフと3人で建設中のこのビルの1500メートルの建設現場にきている。すでに1000メートルまでは完成し街として機能している。1200メートルまでの200メートルが空中庭園で、そこから上が現在建設中。高さは1500メートルまで進んでいる。その先端部分に訪れている。
オーナーはリチャードと名のっている。今回は表向きはルドルフのお付きというか護衛で同行している。同じ不老不死者でかつ魔法が使えるということでお願いされたということにして、今後のことで重要な話し合いをするためだ。まぁ仕事上は一介の田舎の商店主がこんなビルまで建てる大企業のオーナーと知り合っても何のメリットもなさそうだけど。
リチャードはそんな俺でも「どんなに小さくても立派な城を持つ同じ同志だ」と言っていたが、お世辞なのか本心なのか。
まぁ今回の行動は神として多少はなにかしたほうがよいのでは?と疑問に感じ始めていたからだ。
一通り建設現場を見学して、高さ1000メートルの第1層の上にあたる空中庭園まで戻ってきた。ここの浮遊テラス。魔動機構を組み込んだ円形のテラスの上で会食をする。
ルドルフ「お会いすることができとてもうれしく思います」
リチャード「王国の皇太子殿が当社の、しかも建設中の我が海龍城にお越しいただける栄誉は一介の平民出のわたくしとしては、これ以上の喜びはありません」
ルドルフ「私共は平和を愛しておりますが、世界はなかなか平和とは遠い所へ行ってしまいそうで...そんな中、御社の活躍に平和をもたらし、さらなる発展のヒントがあるのではないかと思い、一度訪ねてみたく思っておりました」
リチャード「いえいえ、私どもの発展は残念ながら、はっきり申し上げまして大陸の戦争のおかげです。私どもの財は平和の真逆の理論で集まってきた限りなく黒いものです」
ルドルフ「この度、同行した隣の翔と申す者は、貴殿は戦争を利用して財を集めるが、これだけの財を効率的に集め、それを組織的に運用するには、内部的に極めて平和的な我々の求める理想的な仕組みがあるはずだと申して私がここに来ることを勧めたのです。」
リチャード「翔殿は同じく商いをするものと伺っておりますが、私以上の高い理想をお持ちであると推察します。」
俺「私の商売などあなたの商いに比べたら、波に洗われる砂浜の砂粒みたいなものですよ」
俺「それにしても素晴らしい庭園です。私の求める理想に近いものが、少し形は違いますが実現していますね」
リチャード「ただの庭ですが、はたしてそのようなものがあるのか?私も気が付かないで実現できているものがあるかもしれないのでぜひお教え願いたい。」
俺「あなたは我々と同じ存在だと思われますが、この庭の防犯システムは、極めて強固。しかも、魔法技術、科学技術、魔動機構、全てを動員してあなたを守るよう配置、監視されている。もちろん、普通の人にはわからないし、かりに魔法師が探査魔法を使ってもわからないように隠ぺい処理もされている」
ルドルフ「そんな」
ルドルフは恐怖を感じたようだ。不老不死のルドルフにとって魔法も科学技術も恐怖の対象でしかない。
リチャード「そのようなシステムなど、まだ建設中ですし、何かのお間違いかと...」
俺はリチャードの席の真上に展開されいる防御魔法の隠ぺい魔法に気が付いていた。おれは魔法でそれを強制解除したが、とたんに、リチャードの上空にだけ青白い光の魔法陣が出現した。
そのとたんに、辺りは濃い霧に包まれた。
一瞬で向かいに座るリチャードの姿は見えなくなったが、ゆっくりと霧は晴れていった。リチャードは驚きの顔でこちらを見ている。
俺「催眠ガスですか」
リチャードの座っている場所だけ円筒状にガスに満たされない場所ができていた。
リチャード「不老不死者ではなくて魔法師なのですか?しかも無詠唱で?今のは防御魔法?」
俺「もちろん不老不死者ですが、魔法も使えます。さらにいうと聖獣にもなれます」
ルドルフ「えっ、聖獣の件は知らなかった」
俺「申し訳ありません。聖獣はプライベート以外あまり使わないので」
リチャード「3つの力をお持ちの方と会うのは初めてです。大変ご無礼をいたしました」
リチャード「3つの力をお持ちの方はどれだけいるのでしょうか?」
俺「その件についてご相談したいというのが今回の訪問の目的です。」
リチャード「よろしいでしょう。ただ、今のことで少々この空間の防犯体制に自信がなくなりました。別の部屋を用意しましょうか?」
俺「いえ、私も魔法を使い盗聴などの防御はしますのでご安心を」
リチャード「大切なお話の前に少しお食事を楽しみましょう」




