商店主貴族になる
秘密にすることはないといわれても、いろいろ隠ぺいしてクマに襲われたのは1人だけということになったんだけど、彼ら曰、登山の途中で軽く襲われて、それを助けてくれた。軽傷だったので家での応急処置で十分であったということにしようといった。父や信頼できる不老不死の同志たちには、致命傷だったことを告げるから、名誉市民と叙勲を受けてほしいといわれた。
俺も欧州に不老不死の同志ができることはありがたいことだし、喜んで受けることを伝えた。
その1か月後、カールの家のある欧州の小国、とある公国から招聘されて、ちょっと遅くなったけど、妻の雪との新婚旅行を兼ねて欧州へと旅立った。
まぁ雪だけでなく、俺の両親と雪の両親とで全部で6名での旅になったんだけど。
公国に到着して王宮に入る。王宮といってもそれほど大きくない。派手さはないが歴史を感じさせる空間だ。そこで、カールから叙勲のために歴史好きの、しかも日本人なら好むだろうと思う衣装も用意したからと言われて別の部屋に入った。用意されていたのは金ボタンや襟の金の刺繍のまぶしい詰襟のブルーの衣装。この年でコスプレするとは思わなかった(^^;日本人好みの衣装って、絶対なにか勘違いしてる。
まぁ救いは叙勲にあたって来賓している方々は全て不老不死者。カール含めてルドルフ、ヘンリーとその両親や近しいい貴族の当主たちで20人前後。
驚いたのは叙勲は小さな城が公国内に1か所。別の国に廃城だけど城とブドウ畑の領地が1か所与えられるというものだった。面積は狭いけど、維持費のかからない程度の中で探してくれた伯爵位の領地だった。伯爵としてはずーっと下の位だけど、外国人でこの待遇は異例中の異例。ただ、面積の狭い領地、ブドウ畑ひとつと小さな古城ひとつだから格は高くとも文句は出ない。そんな最適な物件を探してくれたのだ。城は公国内だからカールの家のものだったけど、ブドウ畑はルドルフの家の所領で、さすが元皇帝一族だけあって、実は城よりも格上で、こちらが伯爵位をもつ領地になっている。
ブルーの詰襟の衣装には叙勲により、いくつかの勲章などが付けられていく。
かなり恥ずかしい状況だが、俺の家族のためにもありがたく受けることにした。
欧州の旅は充実したものだった。多少、EU崩壊で荒れているところもあったが、基本的に欧州の地位や権力のある人は不老不死者が多いので、平和を好む。
というか、争いや対立を極度に嫌う。小国に分裂しそうな状態だけど、市民の意見に、これらの指導者はまったく反対しないのだ。独立と市民が言えば独立するし、同じ国内の別の指導者も不老不死者であれば反対しないのだ。
やはり聖獣や魔法使いと違い不老不死者は独特だ。
アニメや小説では生き飽きた者や命を大切にしない者、享楽的、退廃的、サディスティックな表現で不老不死者を描くことが多いが、実際は真逆の性質を持つのが不老不死者だ。
まぁ俺みたくそれこそアニメや小説のようにどんなことをしても死なない存在ならそうなるのかもしれないけど、普通の不老不死者は殺せないわけじゃない。頭を吹き飛ばされたり、心臓を細かく破砕されて蒸発させればレベル3以下なら殺せる。そう考えるとテロで爆殺されたりするリスクは普通の人と同じようにある。さらに彼らを臆病にさせるのは、不老不死は何事もなければ永遠に生きることができるから、生命の重さが全く違うのだ。死に対する恐怖も普通の人の何倍も強い。虐げれても、何をされても生きてさえいれば、本当にいつかは楽しいこともあるとわかっている。生きてさえいれば死を避けることができるから。そして、死を避けることができれば、いつかは楽しいことがあり、また同じように苦もあり、また楽しいことがある。それがわかるから家族や同胞をしっかり守る。それだけでなく、恨みや妬みをかいたくないから、それ以外の人々にも甘い。
だから東洋の不老不死者たちは山にこもり仙人のように人と関わらずひっそりと生きる。でも、欧州じゃそれがかなわない。人口密度の高い欧州では、生きるためにはそれなりの地位、権力、財力が必要になる。その中で、人々の恨みや妬みをかわしつつ、地位、権力、財力を持てる存在は王侯貴族ぐらいしかない。
しかし都合よく王侯貴族に不老不死の力が授かったものだなーと思っていたら、どうやらそうではなくて、不老不死者が保護を求めてきて、見返りに不老不死の力を共有したらしい。それがきっかけで、最初の不老不死の貴族がコミュニティーを作るために、ぶっちゃけSEXで不老不死を王侯貴族間に広めたようだ。カールの奥さんも不老不死者で貴族とつながりはないらしいけど、ほかの王侯貴族のとりなしで奥さんもどこぞの男爵家の令嬢ということで結婚したらしい。ちなみに、最初の不老不死の貴族は俺が拝領した領地の小さなブドウ畑の近くに広大なブドウ畑とでかい城館を持っているルドルフの家に連なる伯爵家だ。不老不死貴族間のとりなし役で、俺もこれからいろいろ世話になる人で、とても人のよさそうな老人だった。
さて、欧州に下地はできたし、家に帰ったら両親たちと話をしなきゃいけないな。




