不老不死の治療
俺の趣味は登山。
といっても地元の山だけ。自営業、家族だけで店舗経営しているので連続の休日はなかなかとれないので、休日は地元の山に登る。Diosマートになる前、両親がまだ神崎商店としてやってたころは、まだ店主じゃなかったし、店は両親主体でやってて、けっこう休んで海外旅行で山も登ってた。そのおかげで、神の力も得たのだけど。
今日は雪と地元で一番高い山に登る。一番高いといいても標高は2000mちょっとの山だ。近年クマが増えて困っているが、最近では聖獣が潜んでいるとも噂されている。事前の探知魔法では聖獣はまったくいなかった。
頂上まで登ってちょうどお昼になった。あと数年で魔法も魔法の道具も普及するだろうから俺たちも多少は外でも魔法を使うようになった。といっても周りに気づかれない程度だけど。もちろん山登りはちゃんと自分の筋力で登った。まぁ荷物は重力魔法で軽くしてるんだけど。しかも、リュックの中から取り出すふりして、空間魔法で自宅冷蔵庫のキンキンに冷えた飲み物を取り出したり、いろいろ便利に使っている。
聖獣化している人たちと同率で魔法を使える人、不老不死者も増えているはずなのでたぶん、そうやって隠れて魔法を使う人もいるかもしれない。ただ今のところ俺以外は詠唱が必要だから、ぶつぶつ呟いている人がいたらそれは魔法の使える人だろう。今日の山の頂上にはそういった人は見当たらない。
珍しく外国人のグループがちょうど下山を始めるようだ。欧米人と思われる4人のグループだ。珍しいな。欧米は今盛んに国の内部が荒れているのに。
雪と二人で温かいお弁当。リュックの中でもぞもぞ、自宅の電子レンジに弁当を入れて温めて取り出す。雪の分はうまくいったけど、俺の分をやるときにタイミングを逃して「チーン」レンジの音がリュックから鳴り響いてしまった(^^;
雪がくすりと笑う。
まぁはじめからリュックの中で魔法で温めればいいのだけど、横着してしまった。
お昼を食べてゆっくりと下山を始める。
この山は頂上の少し下、9合目と8合目の間ぐらいに山小屋があるのだけど、そこで何か騒ぎが起きているようだ。
遠目の魔法で現場を見ると人がクマに襲われている。襲われているのは3人か4人。3人が倒れこんで、1人にクマが襲い掛かっている状態だ。
俺は荷物を雪に預けて全力で走った。全力というのは語弊があるかも。人間としての能力の範囲で全力でという意味だ。俺が現場に着いた時には4人目が倒されて、クマがその4人目にの腹部を噛み割いているときだった。いつも山に入るときは熊撃退スプレーと鉈は持ち歩いている。周りに人がいるので、おれはまずは鉈で腹部に顔を埋めているクマの鼻の付け根を思い切りたたき割った。クマは倒れた人から顔を離しこちらを睨む。こちらに向かって立ち上がって前足で俺を攻撃しようとした瞬間、クマの動きが止まった。後から追いついた雪が魔法でクマの心臓を止めたのだ。おれは慌てて鉈をクマの心臓の部分に突きさした。
熊はその場に倒れこんだ。
すぐに熊に襲われた人々を助けようと駆け寄ったが、ドイツ語で何やら叫んでいる。神の記憶を使って翻訳したが「病院には連れて行くな!!」を連呼している。傷口をよく見ると、クマの爪で掻き削られてブチ切れた血管は修復しようと蠢いている。他の2人もほぼ同様だ。おそらくレベル2~3の不老不死者だ。ただ、残り1人は喉を噛みつかれて即死の状態だった。
俺はあわてて知覚魔法を使って周囲の人々からこの惨状の情報のうち亡くなった1人分を除いて遮断した。同時に念のためスマホとかに録画されている可能性も考慮して電子記録も消すための魔法を発動した。そして、目星をつけた1人の登山者にだけ精神魔法で救急に電話をかけさせた。
他の登山者は亡くなった1人を遠巻きに見て、そのうち2,3人が救護しようと駆け寄って、いろいろやっている。こちらは知覚の外側にいるので誰も気が付かない。
俺は神の記憶でドイツ語を繰り、彼らと話をした。
彼らはとにかく病院はダメだという。とにかくできるだけ人目を避けて、簡単でいいから傷口をふさいで欲しいといっている。
しかたがないので、転移魔法を使った。
3人と雪と俺、5人をDiosマートの2階自宅に転移した。
3人のうち2人はクマにかなり食べられて内臓は1人、顔面を噛みつかれて眼球を欠損しているのが1人。不老不死とはいえ痛みは普通に感じるし、これだけの欠損は不老不死とはいえかなりの苦痛、いや死ねないだけ普通の人間よりも大きな苦痛があるだろう。もちろん、これだけの怪我でも不老不死のレベルによっては致命傷とまではならないが、相当に長時間苦しみが続く。精神魔法で痛みを感じさせないようにして、回復魔法で不老不死の回復力を増幅させる。軽症、といっても普通の人間なら致命傷の人には雪に言って傷口をふさぐために台所に行ってラップを持ってきてもらう。大きな欠損がない傷であればラップで塞ぐだけで不老不死者のレベル2以上なら大丈夫だろう。
そして、不老不死者が体の欠損を伴うような傷を負った場合の回復方法は、極めて簡単だ。生の良質なたんぱく質だ。
おとぎ話でバンパイヤやドラキュラが血を吸う話がよくあるが、これは怪我をした場合の欠損を回復させるもっとも簡単な方法で、決して常時血を吸ったりしているわけではないのだ。生の良質のたんぱく質、その他の栄養も摂れるといいので、刺身とか生のレバーとか、別に人間の血じゃなくてもかまわない。しかも、普通の人ならおなかを壊すような生肉でも不老不死者ならその心配もない。とりあえず、雪に店の棚から生のレバーとか焼肉セットとか生肉中心に持ってこさせた。
1人は軽傷だったのですぐに回復した。夜には傷跡も残っていなかった。残り2人も出血は止まったが、透明ラップの中では眼球や筋肉など血管が蠢きながら再生している様子がうかがえた。
俺に不老不死を授けてくれた「父」なる存在以外の不老不死者はじめて会った。
当然、不老不死の実際の再生を見るも初めてだった。
神の記憶で知っているとはいえ、興味深いことだったし、これからの展望も開ける出会いだと思った。




