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その5

サーシャとサ一シャの表示があまりにも見分けがつかない為、やむを得ず(偽)という表示をつけました。雰囲気ぶち壊しですがご容赦ください。

塔の中心部分にエレベーターがある。その中に入ると、1階か100階かにしか止まれなかった。恐らく、この先100階部分を寝床にする奴がいて、そいつが今回の犯人なのだろう。エレベーターのボタンを操作し、サーシャはすでに剣を抜いていた。

チン!エレベーターが100階に到達する。扉が開き、エレベーターを降りると、途端に

「フン!!!」

と巨大な大男が襲ってきた。

「!!」

サーシャは飛び退き、部屋の中央へ移動した。

大男の攻撃は、止まることなくエレベーターに直撃し、エレベーターの中の小部屋はビリビリと雷のような稲妻を見せつつ、100階下へ落下した。

「······」

口を半開きにし、それを見ていたサーシャ。と、

「あ〜ぁ···」

後ろから声がした。サーシャは振り返る。

奥から現れたのは、サ一シャだった。

「エレベーター壊しちゃったらあたしらも移動大変じゃん···。まったく、ちょっとは自分で考えなさいよね?」

大男は無言でたたずむ。

(偽)サ一シャは、ため息をつくと、サーシャに向き直る。

「まったくさ、相方が使えないとお互い苦労するわよね」

サーシャは警戒を怠らない。

「なんの話だ」

(偽)サ一シャは不敵な笑いを浮かべた。

「あんたの相方、クロトだっけ?あんなに大騒ぎしたら、『もうすぐサーシャちゃんがここに来ますよ』って言ってるようなもんだと思わない?」

サーシャはフレリスを確認する。クロトはブルの街にいるようだ。

「あぁん、違うわよ。あいつ、実は結構強いでしょう?捕まえたりしないわ」

でも···、とクスクス笑う。

「偽の情報に、おもしろい程食いつくからおかしくて···ついちょっと遊んじゃった」

楽しそうに(偽)サ一シャは笑った。

「ごめんね、嫉妬しちゃう?かわいいんだもの、彼···」

ヒュッ!!とサーシャの剣が空を斬る。

(偽)サ一シャはヒラリと躱すと、天井にむき出しになっている骨組みに腰掛けた。

「話を最後まで聞かないおばさん程、イラつくものってないわよね」

片膝を立てて器用に骨組みに座り、(偽)サ一シャは続ける。そしてパチンと指を鳴らした。

「やっちゃおっか?」

途端、巨大な大男がサーシャに向かってきた。

サーシャも剣で応戦する···と、

「!?」

サーシャは大きく後ろに飛び退いた。

どういう事だ!?

サーシャの攻撃が、大男に当たらない。剣が通過してしまうのだ。だが奴は確かに存在し、さっきはエレベーターを破壊した···。

なぜっ!?

片足をプラプラさせながら(偽)サ一シャは歌うように言う。

「無理よ〜、だってそいつ、プレイヤーじゃないもん〜」

なに···。

ガキッ!と大男の巨大なハンマーが、サーシャにヒット。ダメージは500程度で、致命傷ではない。···が、こちらが全くダメージを与えられないとなると話は変わってくる。

プレイヤーじゃない···?


 見た目だけに、騙されちゃ駄目だ···


ワイエットのあの言葉、こいつはもしかして···。

「ペットか···」

「ピンポ〜ン♪」

確かペットに『傭兵』という種類の、おっさんのような見た目のものがいたはず。こいつはそれに比べてもずいぶん大きいが、ペットなら合点がいく。プレイヤーに、ペットを攻撃する手段はない。だが、ペット同士なら···。サーシャがセラルに目をやる。

その隙をつき、

「今よ、『影踏み』!!」

(偽)サ一シャが叫んだ。ピシ···ッ!とサーシャの動きが止まる。

「···なっ···!」

ストン、と(偽)サ一シャが降りてきた。手に、もこもこの白いカチューシャを持っている。

「あんた、『身躱し』覚えているんでしょう?」

サーシャは、なんとか体を動かそうとしていた。なぜ、なぜ!!なぜ動かない···!!

カチューシャを口に当て、(偽)サ一シャは不敵に笑う。

「ペットにもしレベル表記があったらって、あんた考えたことある?」

そーっと優しく、サーシャの頭にカチューシャを乗せる。

「もし表記されたら、それはきっと300とか、そんくらいになるんでしょうね···」

カチューシャを乗せた手を、そのままサーシャが手に持つ剣に回し、そーっと取り上げる。

サーシャは剣を構えた格好のまま、中腰で固定されていた。頭に乗せたカチューシャが、ピコピコ可愛らしく揺れているのが、かえって異様だった。

「『影踏み』も、プレイヤー同士には修正入ったけど、運営って腑抜けよね。傭兵はプレイヤーの習得可能なスキルすべてを覚えられるのに、こっちに何の修正も入れてないんだから。おかげで、楽しいショーが、いつでも目の前で見れちゃうんだけど···ね♪」

ザク···と、磨き上げられたサーシャの大剣の切っ先が、サーシャの細い太腿に突き刺さる。

「ウグゥ···っ」

歯を食いしばっても、漏れ出てしまう悲鳴。

「あら。我慢なんてしなくてもいいのに。安心して?ここには誰も来ないわよ」

(偽)サ一シャは、一旦剣を抜くと、再び腿の上を剣先で走らせる。

「···っあぁ!!」

クスクス笑いながら、(偽)サ一シャは言う。

「あぁ、切り落としてしまいたい···でも、ダメダメ。もう少し一緒に遊びましょうね···」

ツツツ···と、大剣をへそのあたりから上へ切り込んでいく。

「あ···あぁ···っ!!」

サーシャの、努力の賜物の大剣、その柄から、血がポタポタポタっと滴り落ちている。

サーシャの頭上を、セラルが旋回している。が、(偽)サ一シャは、サーシャの剣の一本を抜き取っただけで、残りの二本の剣と、太腿のナイフはそこに装備されたままだ。武器換装はできない。

ハッハッハッ···と、浅い息遣いになってきたサーシャを、(偽)サーシャは優しく撫でる。

「痛い?本当?だってまだ、HPバーの1/10くらいしかダメージ受けてないわよ?」

困ったわね〜、と笑っていた(偽)サ一シャは、突然顔を険しくさせた。

「まさかここに···?でも、エレベーターは壊れてしまったのに···」

サーシャにも、うっすら聞こえる···あれは···。

「さあああああしゃあああああ!!!!」

クロト!!

チッと舌打ちした(偽)サ一シャは、ペットに命令をした。

「それを奥の部屋に移動して、早く!」

奥の狭く暗い部屋に、為す術もなく移動させられたサーシャ。

もう影踏みを解除しても、動くことすらできないでいた。ぐったりと、ペットの大男に体を預けている。

「あ〜ぁ、もう少し遊びたかったのにぃ。しょうがないか」

(偽)サ一シャは、サーシャの右腕を躊躇うことなく切り落とした。

「がっ···あぁぁぁ···!!!」

サーシャはもう、反応すらできない。

「その代わり、彼と一緒にイイコト、しちゃうわね♡」

そして更に左足を切り落とし、持っていた大剣をポイっと投げた。それはザックリとサーシャの腹に突き刺さる。

「それはもういいわ。そのうち勝手に強制終了で消えるから。あんたはそのドアに潜んでいて、これを···」

サーシャの頭についていたカチューシャを抜き取る。

「彼の頭につけるのよ。いいわね」

パンパン、と手を叩くと、(偽)サ一シャは隣の部屋に移動していった。


バァーン!!と、クロトは扉を開けた。

ここが最上階か!?

「おまえ、まさかこの階段を全部走り登ってきたのか?」

奥からサ一シャが歩いてくる。クロトは険しい顔をゆるめた。

「サーシャ!良かった···あぁ、そうだ。エレベーターが壊れててさ、まいったよ。でも······間に合って良かった···!」

フ···と笑うと、サーシャはクロトに近寄る。

「さすがだな、嬉しいよ···」

クロトは身をひく。その動きを見てサ一シャは続ける。

「この奥に、追い詰めたんだ。もう少しだぞ。共に討とう、先に行けるか?」

「···あぁ、···いけるぜ」

ドアに、先立ってクロトが立つ。

その後ろに立つ(偽)サ一シャの顔は、醜い笑いで歪んでいた。

···と、

「なっ!!!」

(偽)サ一シャは大きく後ろに飛び退いた。その腹に、細剣が深く突き刺さっている。

クロトが、脇から刺したものだった。

(偽)サ一シャのHPバーが、半分ほど減った。

「な···にをするんだ、クロト···」

シュンッと大剣を装備したクロトは、(偽)サ一シャを睨みつけている。

「お芝居はその辺にしとけ、偽物。笑えねーよおまえ」

(偽)サ一シャはズブブ···と細剣を抜き取る。

「なんでバレた···いつ···。まさか、フォントを変えていたの···?」

偽サ一シャは、実は伸ばし棒の部分が漢数字の1だった。フォントを変えると一目瞭然のそれは、〈MSゴシック〉だと見分けがつかない。ワイエットはその事を言っていたのだが···、クロトは肩をすくめた。

「ワイエットみたいな奴だな。フォントなんて食ったことねぇよ俺」

クロトは大剣を横一文字に構えた。剣の向こうから険しい視線が光る。

「俺のサーシャはな、助けを素直に喜ぶような奴じゃないんだよ。しかも、例え俺だろうが矢面に立たせるような可愛らしさは持ち合わせていないんだ。おまえには···わからないんだろうな」

チッと舌打ちして、(偽)サ一シャはペットを呼び寄せる。

「ザザ!こっちに来な!こいつにそれをつけておしまいっ!!」

ドアが開き、ザザと呼ばれた大男のペットがクロトに襲いかかる。

「っ!」

だが当然、クロトの攻撃でさえ、ザザに対しては効果がない。

「なんだ···こいつは···っ!?」

応戦虚しく、カチューシャをつけられるクロト。

そこに、横から細剣を突き刺す(偽)サ一シャ。剣は、クロトの体を貫通している。

「···っ!!」

途端にクロトの顔から脂汗がにじみ出る。吹き出す血しぶき。HPバーが一気に減っていく。

「はぁぁぁん···我慢強い男は好きよ···ね、クロト···」

グリグリグリ···と剣を回す(偽)サ一シャ。

「···っ······」

顔を歪めさせるクロトに、ボタボタ···ッと血の滴る音が重なった。


次回で完結します。明日投稿致します。


ー用語解説

影踏み:体術スキル。相手の行動を封じる。自身も動けなくなる。諸事情あって、プレイヤー同士の使用が禁止された。

身躱し:体術スキル。自分と同等レベルの者の体術スキルが効かなくなるスキル。LFOの体術スキルを廃らせた原因。

もこもこカチューシャ:チートツール。つけられるとダメージが実体に痛みとなって伝わってしまう。見た目のかわいさのギャップがイタい。

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