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その1

こちらは、以前公開いたしました『ラームフルオンライン(本編)』を踏まえてのお話となっております。以前からの登場人物に、あまり説明がないのはその為です。ご了承ください。

大男に両腕を掴まれた青年は、その頭に不似合いなカチューシャを装備していた。

そして、青ざめた顔で懇願する。

「ま、待てよ。たいしたモンは持ってねぇんだ、本当だよっ!」

コツ···コツ···と、黒のハーフブーツが見えた。が、ここからだとそれ以外を見ることができない。

少女のような声が響く。

「それで構わない。今あるアイテムと金をすべて渡せ」

チッ···と青年が舌打ちする。すると少女は浅く笑い、背中にある三本の剣のうち一本を持つと、青年の太腿に、ピッと剣を走らせた。

「ウ、ウワァァァ!!!何するんだっ!!」

ダメージ表示は10程度。が、青年は今にも死にそうな顔をしている。

「わかった、やめてくれ···。全部渡すからっ!」

少女はフンと鼻を鳴らしトレードを出す。

「最初からそうすればいいものを」

青年は持ち物すべてと所持金すべてをトレード画面で少女に渡した。

すると少女は、システム画面をしまうと、おもむろに青年の腕を切り落とした。

「ぎゃぁぁぁぁぁ!!!!!」

木霊する叫び声が響く。その痛々しさは、まるで現実かのようにいつまでも続いた。


      ☆☆☆劇場版☆☆☆

  ☆☆☆ラームフルオンライン☆☆☆


ここはインダコ裏にある闘技場。

観客席は満員。ざわざわと、会場全体が落ち着きなくざわめいている。

普段猛者が戦いをするフィールドが、今は真っ暗に照明が落とされている。

と、中央に、バン!とスポットライトが当たる。

そこには、黒のハーフブーツに黒のショートパンツ、白のボタンシャツに鎧をつけ、太腿に三本のナイフ、背中に二本の大剣、一本の細剣を背負った少女がうつむき加減で立っていた。

「さーしゃーーーー!」

観客から叫び声。

スポットライトが二つに割れる、と、もう一方に大男が出現。

少女は大剣を装備し迎え撃つ!!

ギィンギィンと、まるで舞っているかのような剣技。遂に大男の剣を切り飛ばし、舞台は再び闇に落ちた。

ドン!!と音楽が始まる。途端に舞台は色とりどりの照明で照らされる。

そこにいたのは先程の少女。だが、装いは大きく変わっていた。

紐のような華奢な赤いヒールサンダルに、かろうじて下着を隠している超ミニスカート。それはふんわりと広がり、中にレース状のひだがたくさん詰まってスカートそのものをプルプル震わせている。形の良いおへそはそのまま見えて、幅広のピンクのリボンが、はちきれんばかりの胸を真横に覆い、その先は背中で大きな蝶結びとなり、そのままスカートより下でひらひら舞っている。普段たらしたままの黒髪は今はアップに結ばれ、たくさんのリボンで飾られている。手に持つは大剣ではなく、マイク。

大きく両手を振って観客に愛想を振りまいていた少女はマイクを口に当て、言った。

「みんな〜♡今日は集まってくれて、ありがと〜♡」

ワァァァと、ライブ会場は大盛り上がりだ。

闘技場、入り口にある看板には

 『サーシヤ 歌の祭典 

        今宵貴方を夢の世界に』

と、掲げられている。


画面は変わって、ここはサーシャの自宅。

大きなウインドウ越しに、ノリノリでこのライブの生中継を見ているのはクロトだ。

「サ・ァ・シャ!サ・ァ・シャ!」

観客と同じ動きで盛り上がる。

「うるさいぞ、クロト。せめて自分の家で見ろ」

不機嫌この上ない声を発したのは、黒いハーフブーツ、黒いショートパンツ、白のボタンシャツに使い込まれた鎧をつけた、サーシャその人だった。

自宅の中ゆえ、武器一式は装備していない。肩に乗るセラルは、器用に丸まりスヤスヤと眠っている。

自宅のいつもの椅子に座り、ステータス画面を出しながら仏頂面でクロトを見ている。

「なんだよ、いいだろ。このライブ超人気なんだぞ?さすがサーシャ様だぜ」

サーシャはため息をつく。

「奴のキャラ名は『サーシヤ』だ。私ではない、間違えるな」

唇をぷっと尖らせ、クロトは言う。

「なんだよ、一緒だろ。ここまでグラ(見た目)一緒にして、装備も全部揃えて。有名人がキャラ名パクられんのは基本だ。諦めろよ」

サーシャは机に向き直り肘をついた。

「仕様上何の問題もないのは承知している。文句のつけようもない。が、不愉快きわまりないのは事実だ」

クロトは再び画面を食い入るように見ていた。が、はた、と

「待てよ、もしかしてこれは···」

と言うと、机に向いているサーシャに近付き、後ろから胸を鷲掴みにした。

「!!?」

「うん、やっぱり。あっちのほうがサイズがでかい」

間違い見っけ♪と満足そうな顔のクロトの鼻面を、


 ズバシッ!!


と、サーシャの裏拳がヒット!

ぎゃぁぁぁとクロトの叫び声。

「おまえ!なにすんら!!」

サーシャは気にも止めずに続ける。

「人の乳を何だと思っている。今度やったらお前の経験値の2%をもらうからな」

ひぃ〜、とソファの影に隠れるクロト。

「そんなことしたら痛いらろ!」

わざとだろう、鼻血をたらしたエフェクトのままクロトが叫ぶ。

「大丈夫だ、ゲーム内のダメージで痛覚が反応することはない。存分に経験値を減らすがいい。なんなら朝も夜もなく、レベル差35以上まで下げ続けてもいいのだぞ」

おにぃー、あくまぁー、と言うクロトの叫び声をBGMに、再び机に向き直る。

サーシャは今、ステータスの計算をしていた。どのステータスも必須だ。だが、レベルが130あるサーシャですら、すべてのステータスに満足に振り分ける事は困難である。何かを削り、何かを増やす···。当たり前だが正解のないこの作業は、永遠に続くと言っても良かった。

クロトはライブ映像を見ながら

「おぉ〜、もう少し···」

とか、

「も、もう一声···」

とか言いながら、画面の下の方から覗き込んでいる。いつまでも嫌味たらしく鼻血を垂らしたままのクロトを見かねて、サーシャは回復薬をその頭にぶつけてやった。

かと思うと、

「そういえば、サーシャ」

と、ソファに飛び乗りサーシャに声をかける。

クロトはソファの背もたれに顎を乗せ、サーシャの方を見て言った。

「おまえ、ホントいっつも同じ格好だよな。だからパクられんだろ。着替えとかしねぇの?」

椅子に座り、クロトの方に後ろを向く格好になっていたサーシャは、そのまま肩をすくめた。

「ここはゲームの中だ。着替える必要はないだろう。興味もないしな」

すくっとクロトは立ち上がった。

「馬鹿者。よそおいとは、自分の為にするものでは、ない!!」

ドォーン!と仁王立ちのクロト。呆れた顔のサーシャ。

「せめてスカートとかはけよ、な。たまにはさ。はいた事ないだろ?」

サーシャは遠くを見つめるようにして

「昔、あった。が、似合わなかった。それだけだ」

と呟く。

クロトは片眉を上げ、インベントリを開く。

「似合う似合わないは俺が判断してやる、これを見ろ!」

ばーん、と取り出したのは、アイテム名『すけすけネグリジェ』

キャミソールの肩に、かろうじて布の存在が見て取れる程度の素晴らしき透明度。丈も短く、恐らく太腿はおろか下着すら隠しきれないだろう。

「······」

唖然とするサーシャ。

「おまえは馬鹿か。そんなもの着れるわけなかろう、と言うか着る為に存在しているものではないだろう···」

クロトは首を振り、同時にネグリジェをふりふり、言った。

「アホはおまえだ、サーシャ。この『すけすけシリーズ』は超人気商品なんだぞ!!これなんか一番人気ですげぇ高かったんだぜ!俺は!これの為に!······2%を犠牲にしてでも!!!」

ずずずい、と詰め寄るクロト。

サーシャはというと立ちもせず言う。

「セラル、『武器換装』だ」

それまでスヤスヤ寝ていたセラルは、カッ!と目を開く。その目は真っ赤に光り輝いている。

ピィー!!と高く鳴き、セラルは黒光りの武器に換装され、そして


 ギィヤァァァァァ!!!!


悲痛な叫び声。しばらくしてドアが開き、頭にセラルを突き刺したクロトが、ポーンと外に投げ捨てられた。

ドアには仁王立ちのサーシャ。

「しばらく頭を冷やすがいい。このエロがっぱめ」

バン!!とドアが閉められた。

クロトは頭に突き刺したセラルそのままに

「ちぇ、もうちょい考えないとダメか···」

と呟いた。


ここ最近は流石に警戒している奴が多いのか···。

表沙汰にはなっていないが、もうすでにかなりの掲示板で話が出ている。

「ひとけのない場所でソロで移動するとヤバイ目に合う」

掲示板上では皆、「口裂け女でも出たか?」と取り合ってないが、実際は誰もが「自分だけは安全を確保しよう」と躍起になっているのだろう。

それでも···、と少女は浅く笑う。

もうしばらくはこれで稼げるだろう。あの鈍感な奴が間抜けな口を開けている間は···な。

目の前を大男が一人で歩いている。

フ···と笑うと、サ一シャは手にカチューシャを持ち、背後からそっと近付いた···。


連日投稿して参ります。


ー用語解説

LFO(ラームフルオンライン):フルダイブタイプのMMO。ダイブシップという、パソコンの進化バージョンでログインし、ゲームを楽しむことができる。ダイブシップは、ヘッドギアタイプやそのものの中に入り込めるフルシップタイプなど様々ある。


キャラクター名:LFOでは同一の名前で複数のキャラクターを作成することはできない。完全早い者勝ち。


デスペナルティ:死亡した場合、現在貯まっている経験値の2%が減ってしまう。『デスペナ』と呼ぶことが多い。貯まった経験値を元にした計算である為、レベルを下げるほど減らすのは至難の業。


HP回復について:対プレイヤーのダメージはスキルでの回復ができない仕様。回復アイテムなら可能だが、大抵のPvPイベントで使用、持ち込み禁止とすることが多い。


セラル:サーシャが所持するペット。ゴリニチという種族で体色によって特性が違う。セラルの色は黒。特技は『武器換装』


武器換装:ペット、セラルの習得している特技。装備者が武器の一切を装備しない状態で攻撃をしようとすると自身の体が武器化する。その武器の性能は育成ランクに依存する。

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