問1.いつもの宿題
僕は小学生になってから、いつもうんざりすることがあった。それは宿題。それも毎日何かの宿題があることだ。どうしてやらなくちゃいけないの? これってきっと、みんな思ってることだよね。そんな毎日を繰り返していたら、何だかんだで5年に上がっていた。
「はぁ~~宿題って終わりが見えないよ」
「何だよ駿汰、今さらそんなこと言うなんて遅くね? もう5年生じゃんか。終わりも何も、中学も高校に上がってもずっと続くんだぜ~」
「ええ~~? そ、そんなぁ」
「そんなこと言ってるけど、駿汰はマジメに忘れないでやってるじゃん。オレなんていっつも、忘れて親に怒られるんだぜ」
僕は怒られたくないからやってるだけなんだよ。でも、やっぱり嫌なものは嫌だよ。何とかならないのかなぁ。せめて毎日はやめて、週一回だけにしてくれるだけでいいんだよ。誰か願いを聞いてくれないかなぁ。
僕は5年生になって、あと2年もすれば中学生になるってことに、ちっともワクワク出来なかった。それはだって、宿題があるから。先生はどうしてこんなにもいっぱい宿題を出すんだろう? それも一つじゃなくて必ず、二種類以上も。低学年の時は宿題をするのが嫌になるなんてことは、あんまり感じなかった。
だけど、高学年に上がるにつれて難しくなってきてそれが段々、嫌だなぁって思えて来て、だから僕はいつもひそかに願ってた。宿題なんて、日に日に少なくなってそのうち消えてしまえばいいんだ。そんな夢のようなことを願ってたんだ。
そんな夢のような毎日が送れるようになるなんて、この時の僕は全然思えていなかった。
「忘れちゃ駄目でしょ! それは怒られて当たり前なんだからね。分かっているの?」
「へいへい、音海いいんちょのお出ましか~おっと、そろそろ先生が来ちまう。そんじゃ、駿汰、また後でな~~」
「ちょっと、わたしの話は終わってないのに! もう~~駿汰くん、あんな不良と友達なんてダメだよ!」
「大地は不良じゃないよ。むしろカッコいいし、うらやましいよ。だって、宿題を忘れて来ても楽しそうにしてるし」
音海は低学年の時から、ずっと同じクラスの女子。すごく真面目だから、委員長もやっていて宿題も忘れたことが無い子だ。頭もよくて、僕は分からない時は音海を頼っていた。
ちょっぴり怖いけど、僕には優しいし可愛いし、何より宿題を見せてくれる! だから僕は頑張れて来れたのかもしれない。
「いい? 駿汰くんは、わたしが認めてあげてる真面目で優しい男の子なの! 不良になったら承知しないんだからね! 約束してね? そろそろ一時間目だから戻るね」
「う、うん」
先生が入って来て、いつものように宿題を集めることになった。後ろから手渡しで前の席に集められて、先生の元へ集まって行く宿題。
その間はほんのちょっとうるさくなる時間。僕の席は廊下側の真ん中くらいで、隣は音海。だからすごく安心しているんだけど、彼女はいいんちょだから静かにしていて、僕もそうするしかなかった。
「よーし、集められたな! ん? 1人だけ出してないぞー誰だ~?」
大地かな? なんて思ってたら、僕が思うよりも先に「オレじゃないです~~!」っていう声が聞こえて来た。今日はちゃんと出していたんだ。
僕のクラスは40人。宿題は39人しか出していなかったみたいだ。先生が誰だー? なんて声を上げたけど、誰も手を挙げない。そりゃあそうだよね。正直になんて言うハズがないよ。
「今言えなくてもいいから、後で先生のとこに来るようにー!」
なんて先生が言っているけど、行くのかな? 僕だったら行かない、行きたくないよ。でも、嫌は嫌だけど宿題を忘れるなんてことは今まで無いから、僕が出していないなんてことはないんだ。
一時間目はそんな感じで何となく終わって、放課後になって先生が声を張り上げた。
「誰も来なかったんだが、出してなかったヤツの名前を言うのは良くないことだから、今日の宿題は連帯責任で多く出したぞー! 明日は全員持って来いよ~~」
えええ~~~!? 僕を含めてみんなで声を出していた。一体、誰なんだよ。しかも一人だけなんて。ただでさえ多いのに、また増やされたなんて冗談じゃないよ。明日はみんな、忘れずに持ってきて欲しい。
宿題を忘れて、全員が提出しない。先生はそれが誰なのかを言わない。それが先生の優しさだと思っていたけど、次の日もまさか続くことになるなんて、今日の時点の僕も先生も、全然予想出来なかった。
これは単に宿題を忘れただけで済むような問題、そんなことじゃなかったんだ。