74 怪人の正体
祐介は最後に、赤沼琴音に会う為に、琴音が潜伏しているビジネスホテルへと向かった。琴音がここにいることは赤沼家の人間には秘密になっている。
琴音は相変わらず美しいが、少しばかり疲れた様子であった。それがかえって、彼女の美しさを際立たせた。
「琴音さん、ひとつ、お聞きしたいことがありまして……銀色の仮面を被った怪人の絵についてご存知ですか?」
「怪人の絵……」
琴音は少し考えて、すぐにはっと顔を上げた。
「アトリエにある、あの怪人の絵ですか……?」
「ご存知ですか……」
祐介は静かに、身を乗り出した。
「ええ、あれは父が昔描いたものです。あれをわたしが見たのは事件の起こる十日前のことです。その時、赤沼家の者はみな出かけてしまって、邸宅には父しかおりませんでした。それでわたしは赤沼家の本邸の近くまで来ていましたので、みな、出払った時刻を見計らって、アトリエで父と会ったんです。その時、父はその怪人の絵のことをわたしに話してくれました……」
なんということだろうか。琴音はあの怪人の絵のことを知っていたのである。しかし、祐介に驚きはなかった。祐介もまたあれが何か想像はついていたのである。しかし、この謎が説明つけば、もはや謎は残っていないのである。
「琴音さん、何だったのですか、あれは……」
「あの怪人は、父の小さい頃の記憶と言いますか……あるいは、思い出とも言いましょうか。父は小さい頃、江戸川乱歩などの少年ものの探偵小説が大好きでした。父はそれらの本を寝る間も惜しんで読んでいたようです。そして、その作中に登場するような恐ろしい怪人に強く憧れていました。そうした怪人の中でも父がひと際好きだったのが、仮面を被った恐ろしい怪人だったそうです。父は童心に返って、半年ほど前にその絵を描き上げたそうです。だからこそ、レトロな探偵小説に出てくるような、銀色の笑った仮面を被った怪人を描いて、さらに黒い帽子を被せたのです」
「すると、あの怪人の絵は……」
羽黒祐介は、静かに頷くと、その途端に最後の疑問が解けて、もはや謎はどこにもなかった。
*
羽黒祐介はこの時、赤沼家殺人事件に複雑に絡み合っていた謎が、ものの見事に全て解き明かせたことを確信した。それにしても、あらためて考えて見れば、なんという残酷で悲劇的な真相なのだろう。祐介は、この禍々しき殺人事件の真相が明かされることに、喜びよりもむしろ深い悲しみを感ぜずにはいられなかった。しかし、祐介は、琴音の為にも事件の真相を明かさねばならないのである。
かくして、羽黒祐介は赤沼家の人々を血に染めた、残酷なる真犯人に王手をかけるべく、明日正午に赤沼家本邸に容疑者を集めて、勿論、琴音も同席してもらって、衆人環視の元で事件の真相を暴くこととしたのであった……。




