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67 羽黒祐介の閃き

 そうして、羽黒祐介が、琴音の話を聞いている時であった。まさにその話の中から、あるひどく風変わりな思いつき、それこそ、事件の最も驚くべき真実というものが、突如として顔を出したのであった。祐介はあまりのことに自分の脳というものを疑った。ところが、その思いつきというのが、どうも真実らしいということは、その推測を考え進める内に、一連の事件の、さまざまな不思議な事柄の説明が上手くつけられていくことによって、結局のところ、これこそ最もつじつまの合う真相であることが、次第に確信となっていったのであった。

 まったく、この琴音という証人がいなければ、このような思いつきは想像もつかなかったことだろう。祐介は、この思いつきが果たして正しいのか、早く確かめたい気持ちにかられた。それでも、琴音に聞きたいことはまだいくつもあった。根来は、アリバイを確認したいだろうし、犯人に心当たりがあるか聞きたいものだろう。

 たが、祐介にはそんなことをしている時間はないように思えた。もう、事件の核心というものが推測され、真犯人が推測された今、果たして、それが合っているのか、間違っているのか、その詰めをしたいという気持ちが込み上げてきたのである。

 この事件の全貌が、次第に明らかになってくる。祐介は、居ても立っても居られなかった。

「あなたは金剛寺で、村上隼人と会ったその時に逃げ出したそうですが、それは何故ですか?」

 根来の事情聴取は続く。

「わたしが生きているということはこれまで秘密でした。父が死んでからも……わたしはいつ自分の姿を現して良いものかわからなくなってしまいました。そして、隼人さんに会った時も、自分という存在がいきなり他人に露見したことが、恥ずかしく、そして恐ろしいことに感じました。大変なことになってしまった、という気持ちでわたしはその場からただ逃げ出したんです」

「その気持ちで、今回も、山の中に逃げ込んだのですかな?」

「わたしは一年前に死んだ人間として影を潜めていました。わたしはただ、太陽が眩しいのが恐ろしかったんです。日の光に当てられることが、そして世間の注目を集めることが、そして死んだはずのわたしが隼人さんと再会するということが、どれほど恐ろしく感じたことか。わたしは今までの人生において、そんな瞬間はなかったのですから……。わたしがどれほど、このことが恐ろしかったのか、おそらく、刑事さんたちには想像もつかないでしょう……」

「まあ、何となくは分かるが……それで、あなたはアリバイはあるのですか……?」

「ありません……」

「ふむ……それで犯人に心当たりは……?」

「ありません……」

 琴音は、意識して喋ろうとしていないだけとも思われた。しかし、その口を開かせるのは並のことではないように思われた。

「羽黒さん、どうしますかね。彼女、赤沼家に帰らしても良いのですか?」

 根来は眉を吊り上げて、困ったような、何とも言えない微妙な表情で、祐介の方を向いた。

「このことが収まるまでは、赤沼家の人々には会わせないほうが良いでしょう。それよりも、その秘密の地下室というのが少し気にかかります。ひとつ、床を開いて、中を見てみようじゃありませんか」

 羽黒祐介の目は爛々と輝いていた。

「なるほど、それは名案だ。で、どこにあるんです。その秘密の地下室に通じる床っていうのは……」

「わたしの……部屋の中です……」

「琴音さんの部屋ですね」

「ええ、それまでは部屋を自分の部屋として使っていたのですが、鞠奈と二人一役をする回数が増えて、その部屋に変えたんです」

「早速行ってみましょう……、その部屋に……」

 祐介は黙って頷いた。

 重五郎と蓮三を殺害した真犯人に、祐介が王手をかける瞬間は、刻一刻と迫ってきていた……。

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