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15 Mの怪人の意味

「それで、その村上隼人は今どこにいるんです?」

 根来刑事は、自分が思いついた村上隼人犯人説を固めたいらしく、稲山執事から村上隼人の情報をさらに聞き出そうと躍起になっている。

「わたしに聞かれても知らんですな」

「何分、一年前のことだから、わたしもよく覚えてないですからね。どこに住んでる青年でしたか」

「この付近の住民ですよ。琴音お嬢様の自殺のあとは、世間体が悪くなって、一家揃ってどこかへ越して行ったんです」

「そうでしたか。確か、彼は琴音さんの幼なじみとかいう話でしたかな」

 根来は、記憶を探りながら話す。全くもって曖昧な記憶なのに、よくも間違えずに会話が成立しているものだと、我ながら感心する。

「確かにそうでしたが……。まあ、琴音お嬢様のことはあまり今から掘り返さないでください」

「しかし、わたしは掘り返すのが仕事でしてね……」

「うむ……」

 じっとりとした気まずい静寂の時間が流れた。稲山は何と言ったら良いのか分からなくなって沈黙した。根来はそんなことは気にしないで、この説を補強するための手がかりを探しはじめた。

「あの時は、重五郎さんが二人の交際に反対したということでしたかな」

「最終的にはそういう形になりましたな」

「最終的には、というと……」

「あまり言いたくないのですが……」

「言ってもらわんと困りますなぁ!」

 根来がそう言って鋭く睨みつけたので、稲山は怖くなってしぶしぶ口を開いた。どのみち去年一通り喋ったことだ。今から喋っても、おかしな風に捉えられることもないだろうと腹をくくったのである。

「最初にまず淳一さんが交際に反対したのです。それで、旦那様は最終的には、淳一さんの意見に賛成してしまったのです」

「すると、重五郎さんが殺されたのは……少しだけ辻褄が合わないか。この交際に反対したことで、殺されるはずなのは、どちらかと言えばまず第一に淳一さんなわけですねぇ」

「なんて恐ろしいことをおっしゃる」

「ふむ。恐ろしいは恐ろしいですな……しかし、そもそもこれは殺人事件ですから……」

 するとちょうどその時、粉河刑事が例の手紙を持って現れた。根来は待ってましたとばかりに、それを受け取り、テーブルの上に広げた。

「これですね、手紙というのは」

「その通りです」

「何々?」

 根来は眉をひそめて、手紙を睨みつけた。


            *


赤沼家の人々よ

琴音は自殺したのではない

お前たちに殺されたのである

間もなく一年という月日が過ぎようとしている

琴音を殺した赤沼家の人々は、わたしの手によって殺されることになるだろう

雪の夜に気をつけろ

                Mの怪人


            *


「つまり、赤沼家の人々を殺すという内容ですな」

 根来は、手紙に目を通して、そう呟いてから、すぐさま、ある共通点に気づいてはっとした。

「このMの怪人のMというのは、村上隼人のイニシャルのMではないですかな! おいッ! 粉河ッ!」

 粉河刑事も、その言葉に驚いて、慌てて手紙を覗き込んで満足げに叫んだ。

「根来さん、間違いありませんね!」

「ああ、犯人は村上隼人だッ!」

 根来は、満足げに叫んだ。ところが……。

「村上隼人のMですって……?」

 稲山は、露骨に納得できなそうに少し首をひねって、それでいて控えめな口調で訊ねた。

「刑事さんたちは、犯人が殺人予告状に自分のイニシャルを書いたというのですかな……?」

「ん……? 何かおかしな点でも?」

「殺人予告状なのにですよ? それでは自ら、犯人は自分なのだと自供しているようなものではないですか」

 そう言われるとそうだが、なんだか、馬鹿にされたようで悔しい根来は、上手く理由をつけようとろくに考えもせずに、言い訳を見切り発車する。

「ううん……、しかしねぇ、殺人犯とは概してそういうものなのですよ。殺人現場に野次馬みたいな顔をして戻ってきたり、テレビのインタビューを受けたりね。どこかで、俺はこんなことをやってやったんだと世間にアピールしようとするものなのですよ」

「しかし、そういうタイプの事件なのですか、この事件は」

 根来は、稲山が不満げに、しつこく反論してくるのが気に障ったらしく、だんだん腹立たしくなってきた。

「あんたねぇ、さっきからやたら反論ばかりしてきますがね。そういうことは警察が考えますから、少しおとなしくしていてくれませんかッ!」

「す、すみません……」

「分かったらよろしい。まあ、こういうことは警察に任せるのが一番なんですよ」

 そう言いながら、根来は、Mの怪人とは村上隼人のことと完全に決めつけてしまったのである。

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