13 事情聴取の開始
赤沼麗華は食堂の椅子に座って、呆然とテーブルの上を見つめていた。赤沼家の容疑者はこの時、全員食堂に集められていた。そして、間もなく、ひとりひとり順番に応接間に呼び出されて、そこで刑事による事情聴取が行われようとしていた。麗華も、容疑者のひとりである上に、都合の悪いことには死体の第一発見者であったから、警察に犯人と疑われる恐れがあった。ただ、麗華には今、そんなことを危惧する精神的な余裕など少しもなかった。麗華は、父親を突然失ったその事実を飲み込めずに、乾いた感情のまま、ただひとりで夢うつつをさまよっていたのである。
この時、麗華には、赤沼家の人間が父、重五郎を殺害したなどということは微塵も考えられなかった。したがって、麗華の心は、この殺人の犯人は、テレビ出演などをする重五郎の態度を嫌う人間か、重五郎の事業を好ましく思わない人間か、赤沼家の金品を狙う強盗犯か、とにかく外部の人間に違いないという確信に覆われていた。
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さて、まず誰から事情聴取を始めるか。根来刑事は考えた。まず第一発見者の話を聞きたいところだが、次女麗華はまだショックが大きくて、話を聞くのは難しいだろう。それならば、執事の稲山から始めるか。
「誰から始めますか」
「稲山から」
「執事ですか」
「ああ、あいつは今度のことで、何か知っているかもしれない。重五郎が信頼を寄せる数少ない男だ」
「なるほど、さすが根来さんですね」
「いいから、早く呼べッ!」
根来は、苛立った様子で爪を噛んだ。まずは、執事稲山から、最近の重五郎の様子と死体発見時の話について聞き出すことだ。それに稲山のアリバイを聞いておく必要もあるだろう。
さあ、赤沼家殺人事件の事情聴取を始めよう。根来は気を引き締める為に、肩をゆすって、いがらっぽい空咳を吐いた。




