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光明見えず 

 1934年4月から始まった異世界における戦争は、開戦から2年半が経過した1936年10月時点においても終結の目処は立たず、未だに続いていた。


 とは言え、この時点で地球ならびにイルジニア連合軍は、イルジニアに侵攻したモラドア・バルダグ両国の連合軍を大きく押し返していた。


 モラドア・バルダグによる手痛い反撃はあったものの、地球側は近代兵器の性能と物量で優位に戦いを進め、既に占領地域の9割を奪還し、イルジニアの完全解放は目前であった。


 さて、ここまで来ると戦争をどう終わらせるかが課題となる。


 まず前提として、イルジニアの全土奪還と解放は当然のことであり、それは当事者のイルジニアと地球連合も意見として一致するところであった。


 しかし、イルジニア全土奪還後をどうするかの方向性が、依然として統一されていなかった。


 イルジニア解放がなった時点で、二国に対して和平交渉を申し入れるという案にしても、相手に突き付けるのは降伏か講和かと言う時点で、既に意見に相違が発生する。


 相手が侵略してきたことに加え、地球の本国にも攻撃を仕掛けたことを理由に、敵国の本土にも懲罰を加えるべきと言う意見も当然出ており、これにしてもその懲罰の範囲で揉める。敵の帝都や王都への一撃なのか、部分的な占領と領土割譲を要求するのか、全土を占領するところまでいくのか。


 このあたりが国毎、さらにはそれぞれの国の中でも中々意見の一致を見ず、仕方がないので参戦している主要国の国家元首たちが、来年(1937年)初頭を目処に国際会議を行うことになっていた。


 このような国際情勢であるから、現地に派遣されている各国連合軍は、大規模な攻勢は控えつつも、これまでと同様の日常的な軍事行動を継続していた。


「目標、距離1万2千!敵沿岸要塞!」


 この日も日本海軍イルジニア派遣艦隊旗艦である戦艦「霧島」は、モラドア王国のとある中堅都市の沖合に姿を現していた。彼女の周囲には護衛の巡洋艦や駆逐艦も付き従い、上空には96式艦上戦闘機が敵騎の来襲に備えていた。


「霧島」自慢の36cm砲が照準を付けているのは、敵の沿岸要塞である。


「測的良し!」


「長官、いつでも行けます!」


「霧島」艦長の長田大佐が告げる。


「よろしい・・・撃ちー方はじめ!」


 艦隊司令官桜井中将がサッと手を降ろすと、4門の36cm砲が轟音を上げて砲弾を吐き出した。


「だんちゃーく!今!・・・全弾目標付近に命中!」


「砲術長、主砲斉射に切り替え。予定通り5斉射を加えた後に離脱する」


「ヨーソロー!5斉射します!」


 艦長の命令を受け、砲術長は事後斉射を5回だけ行う。5回だけと言っても、最初の試射も含めて合計44発の砲弾を撃ち込むわけであるが。


 今回「霧島」が砲撃している沿岸要塞は、古風なレンガ造りで竜騎士用の滑走路を備えてはいるものの、配置された大砲などは地球で言えば時代遅れも甚だしい後装砲だけの、古臭いものである。


 本来は高価な主砲弾を撃つような相手ではない。副砲や、後続する空母「土佐」の艦載機の爆撃でも充分な相手だ。


 ただし、この任務の目的がそもそも沿岸要塞の破壊ではない。その真の目的は、敵国であるバルダグに対する示威行為であった。


「敵要塞の破壊を確認!」


「よろしい。現海域を離脱せよ!」


「ヨーソロー!針路270!とーり舵!」


 舵が切られてしばらくすると、「霧島」の艦体がググーッと左へと旋回する。


「今回の任務も無事に完了と・・・」


「しかし長官、いつまでこんな仕事続けるんでしょうか?」


 長田が不満気に言う。旧式とは言え、栄えある帝国海軍の誇る戦艦が、敵の田舎要塞相手に主砲を撃つという現実に、彼をはじめ乗員の誰もが良い感情を持っていなかった。


「総司令部が良いと言うまでだろ」


 と艦隊を指揮する桜井自身もまた、面白くない様子だった。


 レグプール空襲以降、大規模な侵攻作戦は生起しておらず、各国が派遣した主力艦によってなる艦隊は、こうしてバルダグやモラドアに圧力を掛ける、嫌がらせに近い任務に終始していた。


(これが本当に戦局に寄与するのか?)


 むしろ通商路の護衛を行っている軽巡以下の小型艦艇や、特設艦船の方がまだ意義のある任務をしているように、桜井はじめ艦隊の将兵の多くが感じるところであった。


(敵にこちらの兵器の威力を見せつけ、厭戦気分を高める・・・わからないでもないが、これではな)


 確かに理屈としてはわかる。わかるのであるが、目に見えて効果が出ているのかわからないだけに、誰もが懐疑的にならざるをえなかった。


 とは言え、艦隊指揮をする者として、そのようなことを口に出来るはずもなく。


「まあ、加俸もらって主砲を撃たせてもらえているんだ。内地の連中よりも幸運だと思おうじゃないか」


「それもそうですな」


 海上に出て航海を行い、さらに戦闘行為を行うことは、内地配備では限られた機会しか巡ってこない。さらに、それにともなう加俸も出る。それだけでも恵まれている。


 そうでも言って、自分たちを納得させるしかなかった。




 さて、やっている当人たちのやる気を今一歩引き出せない嫌がらせ攻撃であったが、では受ける側のモラドアやバルダグの方はどうなっていたかと言うと、実はかなりの打撃を被っていた。


 沿岸要塞を叩き潰されるという物理的な面もあるが、それ以上に精神的な打撃が大きかった。何せ自国の沿岸部への敵の接近を好き勝手に許し、やりたい放題させているのだから。


 特に領邦国家であるバルダグでは、深刻な事態が発生していた。


 敵艦隊が沿岸部に出現し、それも沿岸部の守りの要である沿岸要塞を一方的に破壊されるということは、その地域を守る領主の軍隊が全く役立たずと言っているのに等しい。


 これは実は誤解で、バルダグ国内の基準で言えば役に立たないことはない。ただ異世界の軍勢の戦力がそれ以上なのだ。


 しかし住人からすれば、敵に対して何ら有効な手立てを打てていないことに変わりはないし、また沿岸要塞が消滅することは、その地域における軍事力の空白が生じることを意味した。


「お嬢様!領軍を動かして欲しいという嘆願が!」


 執務室で書類と格闘していた獣人の少女、ヒクネ伯爵家のリアは、執事が扉を開けて飛び込んで来て報告するなり、げんなりした顔をする。


「また~?今度は何?盗賊?海賊?空賊?疫病?」


「盗賊です。西の領境の複数の村から連名で出された嘆願で、ここ最近盗賊が頻繁に出現し、被害も出ているようでして」


 執事の報告に、リアは溜息を吐き、山の中の書類から領軍に関する書類を見つけ出して、パラパラとめくる。そして、捲り終えると再び溜息を吐いた。


「無理ね。どんなに急いでも、あと2週間はなんとかがんばってもらわないと・・・嘆願を出した村には武器を貸し与えるから自力で撃退するか、それとも村を放棄して領都方面に避難するように伝えて頂戴」


「畏まりました。お嬢様」


 恭しく一礼をすると、執事は部屋から出て行った。


 そしてその足音が聞こえなくなると。


「あー!!もう!!」


 リアは天を仰いだ。


「どうしろって言うのよ!」


 沿岸要塞を破壊されてからというもの、ヒクネ伯爵家の領地は大きく荒れてしまった。原因は領軍戦力の大幅な減少にある。


 領軍は字の如く、領主に仕える軍隊である。その任務は多岐に渡るが、領内では治安維持や疫病の際の衛生対応なども任されており、異世界で言えば消防・警察・軍隊を兼務している。


 そのため領軍は時として領民の反乱行為を抑える暴力装置となるが、余程のことがなければ領民の安寧を守る防衛力として存在している。


 その領軍が、沿岸要塞もろとも大損害を受けたのを皮切りに、国王の求めに応じてのイルジニア戦線への出兵や、他の領邦への派遣要請を受けての引き抜き等で戦力が減じてしまった。もちろん、その穴埋めを新たに補充した兵隊で行ってはいるが、ベテランと新兵ではその能力に大きな差が出る。


 そうした領軍に穿たれた穴を、盗賊や海賊、空賊が見逃す筈もなく、兵営から離れた地域の村などが次々と襲撃を受けていた。


 それに対してリアの父親であるギラナも、もちろんそうした事態に領軍の派遣を行うが、充分な数を投入できない状況では焼け石に水で、損害は増えるばかりだ。もちろん、その結果として領主への不満は日毎に大きくなっているのを、リア自身感じているところであった。


 この状況を打破するため、ギラナは王都に飛んで国王から何らかの支援策を引き出そうとしているのだが、異世界軍との間に行われている戦争の戦況を知っているだけに、リアは望み薄と見ていた。


「国王陛下がイルジニアとの戦争を止めてくれれば・・・」


 リアは自分でもあり得ない言葉を口にした。それが出来れば苦労しない。


 バルダグが単独で和平を結ぼうものなら、昨日までの同盟軍であったモラドアの侵攻を招くこと必至だ。


 加えてバルダグ自身も、領邦によって今回の戦争に対する温度差があり、意見の食い違いから最悪の場合内戦となりかねない。


 そうしたリスクがある以上、ズルズルと戦争を続けるしかない状況に置かれ、父親の代理で政務を行うリアは途方に暮れるしかないのであった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新お疲れ様です。 >終結への道筋 少なくともモスクワやヴェネチアを攻撃した魔法技術の何らかの開示は要求しないと本土を攻撃されたアメリカイタリアロシアは納得しないのではないかな。賠償金とか領…
[一言] モラドアとバルダグの内情を知れば、『両国の地方勢力に調略を仕掛ける』のが最良であることに気づくのでしょうが。
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