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未知なる海 ➃

「なるほど、人魚たちのコミュニティがヤリザメに」


「ええ。彼らからその退治に協力するよう頼まれたのですが、こればかりは私の一存では決められませんし、何より潜水艦ではヤリザメと戦えません」


「ギブリ」の士官公室で、シャワーを浴びてサッパリとした大林は、ダンピーニと食事がてらの情報交換を行っていた。


 さすがは元冷凍船と言うだけあって、強力な保冷設備を持っている「ギブリ」の食事は、潜水艦の中で出されるものとは比べ物にならない程に、上質であった。


 冷蔵や解凍品ではあるだろうが、肉や野菜を使っているだけでも、出港後数日を除けば缶詰などの保存食を中心とした食事に変わる潜水艦乗りにとっては、贅沢なものだ。


 それでもって、さすがは本場伊太利亜海軍なのか、味のレベルも高い。職務中であり、ワインを飲めないのが、大林にはつらかった。ちなみに、相対するダンピーニは普通にワインの入ったグラスを手にしている。


「本艦も、仮装巡洋艦とは言いますが、実態は商船に取って付けたような砲を載せただけです。爆雷も威嚇用に搭載していますが、たった4発ではお話にならないでしょうな」


 ダンピーニが言うには「ギブリ」の砲は、旧式の13cm砲4門だけだという。モラドアやバルダグは近代的な海軍を有していないため、これで充分と言うことだ。


 ただし、空から襲い掛かって来る翼竜や翼火竜は脅威なので、高角砲は9cmのものが2門、さらにブレタ製の20mm単装機銃が8挺と、この時期の艦としては強力な対空兵装を有していた。


「では、彼らには悪いですが、やはり援軍の到着を待つしかないですな」


「そうなりますね」


 現在連合軍にとって、人魚は味方でもなければ敵でもない。ただ、今後のこの世界における行動において、打算的なことを考えるならば、むしろ恩を売っておくべき相手だ。


 また人道的見地から見れば、2人ともあのいたいけな人魚の子供たちのためにも、助けてやりたいのは山々だ。


 しかし、有効な対抗手段を持ってない以上、如何ともしがたい。


 大林としては気が少しばかり重いが、2人に今すぐには助けられないと説明するしかなさそうであった。


 ミーアとメルの2人が収容されたのは、医務室であった。そして、大林がその医務室に出向くと。


「何だい、このバスタブは?」


 医務室の中に、明らかに不自然なバスタブが置かれ、その中にミーアが横になり、さらにメルも一緒に浸かっていた。


「お医者さんが用意してくれたんだよ」


 人魚は海水なしの環境でも生きることは出来るそうだが、あるに越したことはないらしい。どうやら「ギブリ」の軍医が、気を遣って用意したようだ。


「で、オオバヤシ。何か用?」


「ああ。ダンピーニ艦長とも話し合ったが、とりあえず俺たちはこの海域を離れる」


「え!?助けてくれないのか!」


 ミーアの顔から血の気が引き、真っ青になる。


「悪いな。助けてやりたいのは山々だが、俺たちには水中のヤリザメを攻撃できる武器がない」


「そんな!・・・なあ、何とかならないのか!俺も手伝うからさ!」


「おじさんお願い!」


 メルも可愛い瞳を潤ませながらお願いしてくる。その目に、大林もダンピーニも罪悪感で一杯になる。


 だが、そうは言われてもできないものはできない。


「なあ、この船もあの海に潜る船も戦うための船なんだろ?その武器でヤリザメどもをやっつけてくれよ!」


「確かに武器はあるが、ヤリザメを撃破するための武器はないんだ。それこそ、やつらが海面まで浮上してくれるなら別だが」


 ヤリザメを撃破する上で難点なのは、目標としては小型となる的を、如何に撃破するかだ。水中にいるのだから魚雷か爆雷が利きそうだが、魚雷は相手の至近で爆発させなければならないし、爆雷は数がない。


 となると、あとは砲と機銃で撃つしかないのだが、そうなると敵に海面近くまで浮上してもらう必要がある。海中では砲弾も機銃弾も効果を挙げられないからだ。


 しかし、相手は生き物であるのだから、そう上手く行くとは思えなかった。


「だったら、俺が囮になって奴らを引き付けるよ」


「そんな無茶、許せるわけないだろ!」


「けど、そうしないと倒せないんだろ!頼むよオオバヤシ!あいつらが、いつ俺たちの住処に入り込んでくるかわからないんだ。入り込まれたら、皆食べられちゃうよ!」


「お願~い!」


「そう言われてもな」


「まあまあ少佐。もう一度何とか出来ないか考えては?」


 ダンピーニの言葉に、大林は「本気か?」という視線を向ける。


「確かに我々の出来ることは限られていますが、だからと言って絶対に出来ないと言うには早いかもしれない」


「しかし・・・」


 大林はダンピーニの顔を見て、再びミーアとメルを見る。2人の縋るような顔を見ては、とても無理とは断言できなかった。


「わかった。もう一度だけ検討してみましょう」


「「やった!」」


「ただ、俺も100名以上の部下の命を預かっている。絶対は、約束できないからな」


 結局大林は折れ、七井ら士官を招集し、ダンピーニら伊太利亜海軍側関係者も交えて、改めてミーアたちの要請に対応できるか協議した。


 すると、集まった士官たちが色々とアイディアを口にする。


「相手は生き物なんでしょ?だったら爆雷をお見舞いすれば、その衝撃でやっつけられるのでは?」


「爆雷は4発だけだ。やってみたとしても、駆除できる可能性は低いぞ」


「だったら、魚雷をぶち込みましょう!当てなくても、近くで爆発するよう工夫すれば」


「そうなると、魚雷に時限発火装置を組み込む必要がある。とてもそんな改造、ここでは出来ん」


「だったら、魚雷の弾頭や砲弾をまとめて、導火線を繋いで簡易爆雷を作るというのは?これなら魚雷に組み込むより簡単な筈です」


「作るのはいいが、どうやって目標の中に投げ込む?目標が近くに来なければ、爆発させても効果ないぞ」


 色々とアイディアは出るのだが、どれも決定打に欠ける。


 すると、とある士官が見かねてこんなことを口にした。


「もう一度ヤリザメの生態を、しっかり見直した方が良くないですか?そうすれば、何か弱点なりわかるんじゃないですか?」


 相手は異世界の生物だ。それゆえに、向こう側の人間である大林が予想もしないようような弱点が、もしかしたらあるかもしれない。


「それもそうだな・・・よし、現状得られている情報を再度確認しよう。それから、人魚の兄妹たちからも、情報を提供してもらうぞ。それくらいは協力してもらわないとな」


 いったん会議は散会し、改めてヤリザメの特徴や弱点がないか調べなおしをすることになった。現在まで得られている情報が再度洗いなおされ、またミーアとメルにも再度事情聴取を行った。


 さらには、敵に傍受される危険性もないので、黎明島やイルジニアの連合軍総司令部にも照会電文が発信された。


 そうして、ヤリザメに関する新たな情報が整理され、それを元に再度作戦会議が開かれた。


「ヤリザメの生態に関しては、地球にいるサメと変わらない部分が多いようです」


「現在得られている情報では、地球の人食いザメと同じで、肉食で獰猛。なおかつ、血の匂いに敏感なようです」


「そうした習性を逆手にとって、なんとか罠に掛けられないものでしょうか」


 そう口にしたのは、七井であった。


「どういうことだ?」


「自分の実家は漁師をしていましたが、漁をするうえで重要なのは、如何に魚の習性を活かして獲ることでした。漁師は闇雲に網を海に入れているわけではないです。その魚が持つ習性を逆手にとり、大漁を掴むものです」


「そうなると、今回の場合はどのような罠を仕掛けるべきだと思う?」


「ヤリザメが一カ所に集まる様にして、そこに爆薬を仕掛ければ。魚雷の弾頭や砲弾を集めて点火すれば、一網打尽も夢ではありません」


「確かに、1カ所に群れたところを撃破するのは理に適っているが、どうやって1カ所に集めるんだ」


「サメは血の匂いに寄ってきますからね。大量の餌を用意すればなんとかなるのでは?」


「餌?そんなもの用意できるか?」


「今から漁をやって、魚を集めれば」


「漁をすると言うが、網はどうするんだ?」


「ロープを解いで、縫い直せばなんとか。人手を集めれば、1日でなんとかなるでしょう」


 ここまで言われると、大林としても行けそうだと感じた。ただし「伊6」単独では無理だ。特にサメを一網打尽にするほどの大爆発を起こすためには、大量の爆発物がいる。


「ふむ・・・ダンピーニ少佐はどう思いますか?」


 大林はダンピーニに意見を求めた。


「お話を聞く限りでは、悪くない。というより、他に有効な方策が見つからないならば、採用する価値はあるかと思います。本船にも元漁師の乗員は何人もいますので、協力するのは吝かではありません」


「そうなると、あとは人魚側の意見を聞かねばなりませんね」


 海中で大量の爆発を伴う作戦を実行するとなれば、実行場所や実行時間を選定する必要がある。そしてそのために、この海域を熟知している人魚側の情報提供が必要不可欠であった。


 もちろん、その人魚はミーアとメルの2人しかいない。


「あの2人に、相談するしかありませんな。大林艦長」


「ですな」


 大林はダンピーニの言葉に頷いた。そしてそれはすなわち、作戦を実行することを決したということであった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新お疲れ様です。 >ギブリ 高角砲は9cmのものが2門とは仮装巡洋艦にしては結構強力。9センチ口径でとなると当時のイタリア海軍でも最新のリットリオ級戦艦などにしか積まない対空砲かな。これ…
[一言] 更新お疲れ様です。 目の前の苦難にあえぐ人魚たちを見かねて日伊即席連合が立ち向かうは眼下の敵ならぬ眼下の槍鮫!! 何もかも足りない中で果たしてヤリザメを殲滅し、人魚たちの苦難を振り払えるの…
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