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海獣部隊の跳梁 ⑦

「大分明るくなってきたな」


「艇長、水深も深くなりましたので、そろそろ大丈夫かと」


「よし、今度こそやっつけてやる!爆雷投下用意!」


 日の出が近づき、周囲が大分明るくなる中、ようやく爆雷を投下しても大丈夫な海域まで進んだ2号艇では、艇長のキテ大尉が改めて爆雷の投下を命令した。


「投下用意。深度調定50!」


「深度調定50了解!」


 爆雷の爆発メカニズムは、水圧によるものとなっている。水雷員が爆雷側面にある深度設定器を専用の工具を使い回し、爆発深度を設定する。


「深度調定よし!」


「よし、投下!」


「投下!」


 駆逐艦の場合は火薬で発射する投射機、またはレールの上をゴロゴロ転がして落とす投下軌条が主に使用される。


 しかし小型の高速艇にはそれらはなく、投下器を使って1発ずつ投下する。


 投下器を操作する兵士がレバーを引くと、爆雷の固定具が外れてドボンと音を立てて海中へと沈んでいく。

 

 投射機と違い、真下に落とすことしかできないので、走りながらでしか使えない。もし停止中に使おうものなら、爆圧によって自分たちも致命的な打撃を受けかねない。


 それからしばらくして、高速艇後方の海中で爆雷が爆発し、轟音と共に水柱を立てた。


「やったか?」


 キテが口にするものの、その声はどこか不安げだ。何せ、爆雷は轟音と水柱と言う、一見派手で敵を倒したようにも見える。しかし、実際のところ目標に爆圧が届いてなければ、何ら効果を発揮していない。加えて、相手が水中にある以上、確実な戦果確認も難しい。


 これが潜水艦相手なら、残骸や遺留品、漏れだした重油などで戦果確認も出来るのだが、相手がちっぽけな人間では当たらなかったのか、バラバラになったのかすら判断できない。


 通常人間などの生物が爆雷を受ければ、その爆圧で普通に死ぬ。だが相手は魔法を使うので、この常識も当てはまらない。


「1発だけではどうでしょうかね?」


 部下の言葉に、キテは決めた。


「ようし。だったら在庫が尽きるまでやってやろう。どうせ8発しか積んでないんだ。出し惜しみせず、やろう」


 スペースが小さい高速艇に搭載出来た爆雷は各艇8発ずつに過ぎない。目に見えない敵に対して、下手な鉄砲数撃ちゃ当たる戦法しかとれない状況で、この数は少ないが、だからこそキテは洗いざらい在庫処分をすることに決めた。


「水雷長、全弾1分間隔で投下だ!」


「了解です!」


 このキテの動きに、残る2艇も追随する。各艇は互いに相手の位置に注意しながら、爆雷を海中に叩き込んだ。


 投下された爆雷は次々と爆発し、高々と水柱を立てる。





 一方、落とされる側のコラとラックはと言えば。


「うひゃああああ!」


 直撃こそ受けなかったが、爆雷の爆圧と轟音に弄ばれていた。そんな状況で2人が死なずに済んだのは、コラの魔法によって空気の幕に包まれていたからであった。


 とは言え、あくまで死なずに済んだというだけで、減殺されているとはいえある程度の衝撃と音は襲い掛かっており、とてもではないが長くは持ちそうになかった。


「ま、マズイ!このままじゃマジで死ぬ!!」


 とは言うものの、水中にいてはマトモに反撃など出来ない。深く潜ろうにも、まだ水深が浅いためにそれもできない。


 こうなると、座して死を待つか、浮上して降伏かの2択がコラの頭を過る。


「降伏は・・・すれば襲われて八つ裂きにされるかも・・・」


 連合軍側に捕まった兵隊の処遇について、コラは何の知識も持っていなかったために、捕まれば犯され殺されるのでは、という考えが思い浮かんだ。なので、降伏は論外だ。


 実を言えば、地球側はジュネーブ条約の捕虜条項を異世界でも適用しており、降伏してもそんなことない(とは確実には言い切れない)はずだ。


 だが、そんなことコラが知る由もなかった。


「だったら、せめて戦って・・・無理だよ絶対」


 水中にいる間、魔力を水中で活動するための魔法に集中しているため、攻撃系の魔法は使えない。もっとも、使えたとしても攻撃系魔法が得意ではないバルダグ人の彼女のそれでは、タカが知れている。


「だったら跳躍・・・もダメだね」


 バルダグ人が得意とする転移系の魔法で逃げる・・・としたいところだが、これをするにはまず浮上して現在発動している魔法を全て解除。さらに、長い詠唱をしなければならない。


 つまり、詠唱完了までは丸裸で撃ってくださいという状況になる。


 もちろん、そんな自殺行為も選択肢としてはありえない。


「ああ!もう、どうすればいいのよ!?」


 考え込むコラ。


 と、突然彼女の頭上に影が伸びてきた。


「うん?・・・ひええええ!?」


 直上に爆雷が降ってきた。


「マズイマズイ!」


 空気の幕を強化して、なんとか受け止めた。これで押しつぶされずに済んだが、爆雷は頭上にそのままあるので、危機的な状況に変わりはない。


「どうしよう、このままじゃ持たない」


 今は受け止め決められているが、長時間はさすがに魔力が持たない。そうなれば、爆雷が2人を直撃する。


 かと言って、捨てても近くで爆発すれば、コラとラックを吹き飛ばすことは間違いなしだ。爆発の様子から、この兵器が一定の深度まで沈むと爆発する兵器であることは、コラにもわかっていた。


「・・・ええい!こうなったら自棄よ!ラック!海面に出て!」


 同じ死ぬならせめて敵と戦ってから。もうどうにでもなれとばかりに、コラはラックに海面まで浮上するように指示した。


 もちろん、頭上には爆雷を抱えたままだ。


「頼むから落ちないでよ」


 コラのその願いは通じた。爆雷は落ちないまま、2人は海面まで浮かび上がることができた。


 彼女たちにとってもう一つ幸運だったのは、高速艇隊の爆雷攻撃が止んだことであった。実はコラが頭上で受け止めた爆雷が、投下された最後の爆雷であった。


「よし、ここ!」


 浮上する直前、コラは魔力を全開にして空気の幕を傾け、爆雷を自分に当たらないようにして落とした。


 直後、浮上すると。


「ラック!全速で逃げて!」


 爆雷の爆発に巻き込まれないために、ラックに全力で逃げるよう指示した。




 一方、2人が海上に飛び出したのは、高速艇側からも確認できた。と言うより、高速艇隊の目の前に彼女たちは浮上した。しかも、旗艦である1号艇から見れば手が届きそうな至近距離であった。


「お!浮上したぞ!」


「銃砲撃戦用意!」


 爆雷を撃ち尽くし、周辺を遊弋していた3隻の艇上は再び活気づいた。機銃に取りついていた兵士は、銃身を彼女の方へと向ける。


 旗艦である1号艇でも、それは同じであった。むしろ、司令のロア以下のやる気が他の艇と違っていた。それは自分たちが敵に一番近いというのもあったが。


「逃がすな!連中に報いを受けさせてやれ!」


 司令のロアからして、ハイモードである。


「どうやら、敵の兵士は女性のようですね」


 ロアの隣に立つエリクソンは、冷静であったが。


「女だろうが敵は敵だ!ガハハハ!」


(ダメだ)


 完全に血走った眼をしているロアたちを止めるのは無理そうであった。一部の乗員に至っては「夜食の恨みを思い知れ!」等と叫んでいた。


(日本人が食い物の恨みは怖いとか言っていたが、まさにその通りだな)


 と、妙な感慨に浸るエリクソン。


 そんな彼に構うことなく、腕を振り上げたロアが「撃て!」と命令を出そうとした、まさにその時であった。


 凄まじい下からの衝撃が、1号艇を突き上げた。


「ウオ!?」


「ワア!!」


 エリクソンとロアは飛び上がり、強かに床に叩きつけられた。


 もっとも、2人はまだ幸運であった。甲板にいた乗員の中には、海に落ちる者が続出したのだから。


「何だ一体!?」


「わかりません。それよりも被害状況の報告を!」


 2人は知らなかったが、これはコラが捨てた爆雷が犯人であった。


 浮上寸前に彼女が捨てた爆雷は、当然その後沈降した。そして、1号艇が至近に来たタイミングで爆発したのである。


 もちろん、コラは全く狙っていない。単なる偶然、戦場で良くある「運が悪かったな」と言える出来事だ。


 幸いだったのは、直下での爆発でなかったために、1号艇は轟沈を免れたことだ。とは言え、タダで済むはずもなく、艇の内部では浸水が発生した。


「機関停止!排水!応急処置急げ」


「2号艇と3号艇に、落水した乗員の救助を命令」


 高速艇隊は大パニックに陥ってしまった。もちろん、こうなると敵を追う余裕などない。最後の最後にしてやられてしまった。


「よくわかんないけど、助かったみたい」


 後方で高速艇隊が大騒ぎするのを尻目に、安堵の息を吐くコラであった。


「さ、帰ろうか」


 昇る朝日に照らされながら、コラはラックとともに基地への帰路を急いだ。


 しかしながら、結局彼女たちが基地に帰りつくことはなかった。予定の日を過ぎても帰還せず、通信にも応答せず、ついに彼女らは行方不明のまま戦死認定となる。


 後に遺族が地球側にも照会をしたが、確実に彼女たちを撃破した記録は残されておらず、結局のところこのペアの運命は永遠の謎となった。


 ただ彼女らが、高速艇隊と戦ったという記録だけが、後世に残されることとなる。


 地球側に衝撃を与えた海獣部隊の兵士と、パートナーを組んだ海獣たちの運命もまた、過酷なものであった。

 


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― 新着の感想 ―
[一言] この話の「帰れなかった」と言う事実しか残らなかったというのは、ある意味で戦死より無常感があり、なんでか悲しくてしんみりしてしまいます
[一言] > 爆雷 こんなやり方もあるんですね、相手の武器を意図したことではないですが返すやり方を今後意図してされたら厳しいですね。沈まなかっただけでも幸運ですが。 海獣部隊はある意味フロッグマンのよ…
[一言] MIA…この場合、ヤバい海獣に襲われたとか、基地ごと地球側連合軍の爆撃or砲撃を浴びたかがあるけど…何があった?
2020/10/31 18:55 退会済み
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