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艦隊総司令部前進!

 1936年4月は、異世界における大戦に新たな動きが起きた月となった。この前月、ようやくのこと新たに参戦した露西亜帝国ならびに伊太利亜王国の連合軍指揮下への参加がまとまり、両国の連絡士官がイルジニア大陸ガランガン近郊にある派遣連合軍総司令部へと着任した。


 この時点では連絡士官の着任だけであるが、東洋に拠点を持つ露西亜帝国はさすがに早く、4月中にはウラジオストクを進発した先遣部隊の1個歩兵連隊と1個戦車連隊が、新海道に上陸する予定であった。また海軍戦力も太平洋艦隊から巡洋艦1隻と駆逐艦3隻が派出され、加えて空軍も戦闘機と爆撃機合わせて30機余りが、輸送船に載って出発していた。


 対して伊太利亜軍については、さすがに遠くヨーロッパからの派遣となるのに加えて、そもそも軍備が遠征に不向きと言うハンデがあったが、それでも5月中には先遣の1個連隊と空軍機50機余りを進出させると強気であった。


「事前の交渉で強気な発言をしまくった手前、弱気と思われることはできんだろうさ」


 須田からイタリア軍に関する情報を聞かされた男が、半ば呆れながら口を開く。イタリア軍に関しては広く流布されているが、詳細な情報を聞かされて他に理由が思い当たらなかった。


 須田もその点については同感であったが、一方で目の前の後任の自信のほどを確認しておきたかった。


「だがそうなると、我々も無様なことはできんぞ水橋」


 そう須田が言うと、向かい側に座る男、新任の敷島鎮守府司令長官水橋秋治中将は笑った。


「もちろんだとも。パスタ野郎・・・失礼。イタリア軍ごときに負けはせんよ。なにせお前が指揮してた鎮守府なんだからな」


 須田は4月1日をもって兼任していた敷島鎮守府司令長官職を解かれ、後任にやって来たのが水橋であった。2人は海軍兵学校の同期である。ただし水橋は駐在武官が長かったせいか、階級では須田の一つ下であった。


 しかしそこは同期の桜。私的な場では俺、お前である。


 ちなみに鎮守府長官との兼任を解かれた須田は、新たに発足した異界派遣艦隊総司令長官へと就任している。この異界派遣艦隊総司令長官職は、これまでの新海道派遣艦隊を発展させた形で編成され、その指揮下にイルジニア方面艦隊と、敷島鎮守府所管の戦力、さらには既にイルジニアに進出している基地航空隊や防備隊をも包括する編成となっていた。


 すなわち、須田は異世界側に展開する大日本帝国海軍部隊全てをその指揮下に収めたということである。


 また彼は地球側各国で編成された異世界派遣連合軍の副司令官であり、名目上は異世界側の全海軍戦力を掌握することとなっている。


 もちろん、彼の上には今年元帥位を与えられた米陸軍のショーンが総司令官として在任であり、また彼自身も人間である以上、実質的に直轄戦力として動かすことが出来るのは、これまで同様新海道派遣艦隊だけである。


 それでも、これによって海軍戦力に関しての指揮系統はかなりすっきりすることとなった。


「何はともあれ、敷島鎮守府をよろしく頼むぞ」


 これまでも須田は派遣連合軍副司令として、イルジニアに滞在する時間は長かったが、大陸方面での戦闘が小康状態になると、敷島鎮守府で指揮を執る機会もあるにはあった。


 しかし今回正式に異界派遣艦隊総司令長官として就任し、艦隊共々イルジニアに常駐することとなったため、敷島鎮守府から正式に離れることとなる。


 須田にとっては名残惜しいことではあったが、旧知の人間に後を任せられるのは僥倖であった。


「おう!あとは任せておけ!しっかりやって来い!」


 2人はガッチリと握手し、互いの武運を祈った。


 翌日、須田は既に前進した艦隊を追って、自らも新鋭巡洋艦「最上」に座乗して、イルジニアに出発した。目指すは、新たに泊地として指定された大陸西岸のルース湾であった。


 現在イルジニア大陸側では、地球側によって数カ所で大規模な港の開発工事が進められていた。もちろん、それは兵站線の確保のため、そしてイルジニア大陸側における艦隊の拠点開発のためであった。


 以前であれば、例えば物資の輸送の場合、その揚陸には艀や上陸用舟艇を間に挟んで運ぶしかなかった。これだと途中で荷物を、不安定な海上で載せ替える必要があり、効率が悪い上に安全性にも問題があった。


 また艦隊については、補給や乗員の休養に関してだけ言えば、補給艦艇や工作艦、各種母艦を前進させてある程度賄うことは出来たが、こうした方法では長期間の運用はできない。


 そのため、イルジニア政府の協力でいくつかの適地となる湾を貸与してもらい、兵站拠点と艦隊泊地としての開発が行われた。


 ちなみにこの工事に関しては、既に前線は北上して敵襲の可能性が低くなったため、軍の工兵や工作隊に加えて、各国の民間業者が参加していた。この中でも特に米国の企業は、その機械力に物を言わせて短期間で大規模な港の建設に大いに貢献した。


 もちろん、米国だけではない。機械化では米国の後塵を拝したものの、新海道と本土と言う自国領土が比較的近い位置にある日本の土木業者は、人手や資材の確保の点でアドバンテージを確保し、これに猛追した。


 これらの港は戦時下であるゆえに、ある程度耐久性には目をつぶり、とにかく短時間で必要量を確保する事を主眼として整備された。


 その結果、1936年夏ごろまでには新たに参戦した2国を含める兵站線と艦隊を賄うだけの港の整備が完了する予定であった。


 日本艦隊が停泊地として指定したルース湾は、1936年春の時点で一部の残工事を残しつつも稼働しており、このため艦隊は前進を完了していた。


 位置的には、総司令部の置かれるイルジニア臨時首都ガランガンより北西に200km地点にある。元々は鄙びた漁村であり、鉄道も来ていない辺境の地であった。しかしそれを補う様に飛行場が整備され、もちろん鉄道の新線建設も進められていた。


 さて、ルース湾に入港した日本艦隊は旧新海道派遣艦隊を中核とする、須田総司令官直率艦隊とイルジニア方面艦隊の2個艦隊である。


 その中でも一際存在感を放つのが、新たに総旗艦として派遣されてきた戦艦「伊勢」である。戦艦「伊勢」は以前の旗艦であった「山城」「扶桑」が空母化改装されることとなったため、その代艦として派遣されてきたものであった。


 その他に重巡洋艦「最上」「三隈」が戦列に加わっている。「最上」型はロンドン軍縮条約で列強側の譲歩により得た排水量に、旧式化した「古鷹」型を海外へ売却することを念頭にして建造された艦で、20,3cm3連装砲4基を搭載した1万5千トン級の新鋭艦であった。


 ちなみに、異世界での大戦勃発による軍縮条約無効化のため、既に「最上」型は6番艦まで起工されて、その建造工事が進みつつあり、また売却予定であった「古鷹」型も改装が行われていた。


 また昭和10年度予算から旧式化しつつある「金剛」型ならびに、空母化する「扶桑」型の代替艦として、世界最大の46cm主砲を搭載した6万トン級戦艦である「大和」型の建造も開始されていた。


 もっとも、これら建造中や改装中の艦艇は今次大戦に間に合うかどうか、今のところわからない。


 現場の指揮官や最前線の兵士からすれば、明日以降に出来る艦ではなく、既に出来上がっている艦こそ必要なのであった。


 そうした意味で、真の目玉となるのは新鋭の航空母艦「蒼龍」であった。排水量は1万7千トンであり、「龍驤」以来の当初より空母として建造された艦である。


「蒼龍」は小型のために実用性の乏しい「鳳翔」の代艦として建造が開始された。当初は砲塔を搭載した航空巡洋艦としての建造案も出たが、先に就役した空母群の運用結果から、水上砲戦用装備を残置しても効果が薄いと判断され、結局完全な空母として建造が進められた。


 また艦橋を左側に寄せた準同型艦の「飛龍」の建造も進められており、そちらが竣工すれば戦隊を組む予定であった。


 常用機は60機を誇り、しかも全て最新鋭の96式艦上戦闘機、96式艦上爆撃機、96式艦上攻撃機となっていた。


 96式艦上戦闘機は、日本海軍がようやく手にした金属製単葉艦上戦闘機である。固定脚ではあるが、これまでの戦訓を意識して初めて13mm機銃を1挺搭載し、また必要に応じて大型増槽や爆弾の搭載も可能とするなど、汎用性を高めている。


 開発したメーカーの技師たちは、試作機段階ではスピードを優先した設計をしていたが、その後戦訓を反映して速度を若干犠牲にしつつも、胴体を大型化して武装の強化や、新たに開発された質の良い無線電話の搭載を行っていた。


 96式艦上爆撃機と96式艦上攻撃機は、どちらとも複葉機である。特に96艦爆は94艦爆の発動機強化版であり、新味に欠けている。しかしながら、両機種とも複葉艦上機としては完成された機体といえ、実用性は充分であった。


 もちろん、これらの新型艦載機は既に異世界側で活躍しているイルジニア方面艦隊の空母「土佐」にも配備が進められている。なお、イルジニア方面艦隊に配備されていた「龍驤」は、小型ゆえの運用性の難が指摘され、本土へ下げられている。


 他に目立つところでは、駆逐艦の一部がそれまでの「神風」型から最新鋭の「朝潮」型に切り替えられたことだ。


 日本の駆逐艦は世界各国を驚かせた特型(「吹雪」型)で驚異的な性能を発揮したが、その後軍縮条約や米英側の駆逐艦更新が止まり、さらに広大な異世界側海域での哨戒活動などを目的とした、1500トン型の「初春」型護衛駆逐艦へ建造が一時移行した。


 その後一部の旧式艦隊型駆逐艦の置き換え用に計画されたのが「朝潮」型で、戦闘力と航続力を兼ね合わせるため、新開発の両用型12,7cm砲6門と5連装魚雷発射管1基という組み合わせになっている。


 その「朝潮」型で先行就役した2隻が、総司令官直率艦隊に配備されていた。


 これら新鋭艦の配備は、数としては少数であったが、これまでは旧式艦ばかりが配備されていた元派遣艦隊の乗員にとって初めてのことであり、その士気上げに大いに貢献した。


 

御意見・御感想お待ちしています。


なお作中に登場する兵器は、極力史実で登場したものを意識しつつ、この世界特有の事象を考慮したものとなっています。この世界では軍縮条約が日本への配慮で、制限が史実よりも緩められています。また航空技術も、史実より多少先を進んでいます。

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新お疲れ様です。 ロシア帝国軍は歩兵連隊と戦車連隊、既に活躍しているロシア兵器の評判以上の活躍が期待できますね。海軍空軍も相応なので面白いことができそうです。海軍はてっきりイルジニア大陸…
[一言] 海軍の場合、同期の桜って言葉があるけど同期同士の繋がりは強かったみたいですね 誰かが戦死した場合は同期が亡くなった奴の家族の面倒みる、みたいな事もあったとか。まあ、だから某蛍の話なんかも「父…
[気になる点] うーん、最初から「最上」が重巡になっちまったのだから、二等巡洋艦の川の名を使うのは不自然な気も。 元「最上」と言う名だったが、今は「〇〇」と改名って、一等巡洋艦の山の名前を付けて欲しい…
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