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敵騎来襲! ①

「独巡洋艦、「オットー・ヴェディゲン」視認!」


「「ヴェディゲン」に信号。貴艦との合同を祝す。これよりよろしく頼むと」


 日本海軍水上機母艦「神威」の艦橋に、艦長兼臨時戦隊司令の六車亮吉大佐の声が響く。


「我が軍の重巡洋艦とほぼ同じ大きさなのに、やはりあの主砲は迫力あるな」


「口径が28cmですからね。もし敵であれば一溜まりもありませんな」


 部下の言葉に、六車は笑う。


「確かにな。だがありがたいことに、今の彼らは味方だ。逆に言えば心強いということだ」


「全くです」


 水上機母艦「神威」は純粋に最初から水上機母艦として建造された艦ではない。元々はアメリカ製の給油・給炭艦であった。


 この時代の帝国海軍の水上機母艦は純粋に建造されたものではなく、ほとんどが別艦種からの改装艦であった。


 とは言え、水上機を多数搭載できる艦艇ということに変わりはなく、現在新海道に展開する艦艇の中で唯一とも言うべき、航空機動戦力である。そのため、各国海軍の注目の的であった。


 ライト兄弟の初飛行からわずか30年しか経過していないが、航空機は飛躍的に発達しつつあり、海上における広範囲の哨戒を可能としていた。そして海上からその航空機を運用できる航空母艦や水上機母艦への期待と注目も日毎に増していた。


 その「神威」。昨日敷島鎮守府を随伴の駆逐艦である「山波」と「松波」を従えて出港し、ドイツ海軍との共同哨戒任務に就く予定であった。


「アレがドイツのポケット戦艦なるものですか。私は今回が初見ですが、「扶桑」や「山城」とはまた違った力強さがありますね」


 そう口にするのは、青色の生地に金色の線が入った制服を着た人物。肩まで伸ばした銀色の髪に、整った顔立ち。パッと見では美形の白人にも見えなくはないが、尖った耳が彼女の種別を如実に示している。


「ラメル少尉。飛行甲板の見学はもう終わったのかね?」


「はい。何もかも新鮮で、貴重な機会を提供していただいた須田提督や六車艦長には感謝しています」


 ラメル・エダス海軍少尉。イルジニア連邦海軍から、観戦や技術取得目的で派遣されている軍人の一人である。しなやかな金髪に、整った顔立ち。そして、胸の膨らみからもわかるように、女性である。イルジニアでは陸海空軍問わず、女性軍人は普通にいるらしい。


「ラメル少尉は見るもの全てに目を輝かせていました。ですから、抑えるのには苦労しました」


 と苦笑して言う下士官。こちらは帝国海軍の軍服を着こんでいるれっきとした日本人であるが、小柄で胸にはラメルと同じく膨らみがある。イルジニア軍とは対照的に、帝国海軍ではまだまだ少数派の女性軍人だ。


 そんな二人を見て。


(時代は変わったもんだ)


 と六車ならず多くの帝国海軍軍人が思うところであった。


 帝国陸海軍における女性軍人の登用は、第一次大戦における女性の社会進出の情報が日本に伝わり、婦人の権利獲得運動と関わっている。婦人の権利獲得運動のさい、一部から上がった声が「女性は徴兵と言う義務を免除されているのだから、大きな口を叩くな!」だった。これに対して「ならば私たちにも男性同様義務を!ヨーロッパでは女性も立派に軍人として御国に奉仕している!」という声があがった。


 陸海軍としては伝統的に正規軍人に女性を入れてこなかった。そのため、「女を入れるなどトンデモナイ」という意見が続出した。また市井でも「女が兵隊なんて」という声が大きかった。一方で、海外から各国で女性が兵士となり、前線を支えているというニュースも伝わり、「女もいざとなれば兵士として御奉公してもいいのでは」という容認論も広がった。


 さらに、追い風になったのが大正時代に起こった様々な権利獲得運動、いわゆる大正デモクラシーと、第一次大戦後も続く満州や新海道の開発による好景気であった。このために、男性労働者は常に不足気味で、軍人への志願者数に落ち込みが発生した。


 徴兵を中核とする陸軍は良かった(実際はこちらも徴兵逃れが横行してそうも言いきれなかったのだが)が、志願兵を中核とする海軍は無視できない影響を被った。


 こうしたこともあって、帝国海軍では試験的に昭和3年から敷島鎮守府限定で女子海兵団と、海兵女子部、各学校の支部に加えて、海軍飛行予科練習生女子部を創設して教育を開始した。ちなみに女子兵には体力の面から、機関科はない。敷島鎮守府限定なのは、半分以上隔離する目的というのが妥当だろう。


 それでも、海兵は第一期生10人に対して80倍、海兵団は1000人の枠に25倍、予科練にも20人の枠に50倍近い女子の志願者があった。


 こうして海軍の中に、女性と言う存在が登場した。当初はその能力が危ぶまれたのだが、男性に劣る肉体的な面を除けば、さすがに厳しい学力試験をパスしただけあり、充分な能力を発揮していた。


 もちろん、寿退官など、男性にはあり得ない理由での早期退官などもあるが、六車の目から見ても女性兵士の実力が男性に比べて著しく劣っているようには見えなかった。彼の指揮下、つまり「神威」には現在航海や主計、航空機搭乗員や整備兵などに合わせて15名の女性兵士が配属されていた。


 また、女性兵士がいたおかげで、イルジニアの女性将兵を容易に受け入れることができたという副産物も生まれている。「神威」にラメルが乗り込んだのも、「神威」がまだ数少ない女性兵士乗艦艦艇であり、女性用居住区が設けられているのが大きな理由であった。


「司令、ドイツ戦隊の後方につきました」


「よし、これより本艦は予定通り。「ヴェディゲン」以下ドイツ戦隊と合同にて哨戒海域に向かう。ドイツ戦隊の後方距離「右上方不明機影!」


 六車が陣形についての指令を出している途中で、右舷の見張り員が叫んだ。


「不明機影?新海道から発進した哨戒機か、民間の魚群捜索機か?」


 新海道からは定期的に洋上を哨戒する敷島航空隊所属の91式飛行艇や90式水偵、さらには民間航空会社に所属する魚群探知用の捜索機なども飛んでいる。


 六車は発見された機影はそれらではないかと思った。


「不明機。艦隊上空を通過する模様!高度低い!1000から500!」


 そこで六車は違和感を覚えた。それくらいの高度なら、発動機エンジンの音が少しは聞こえてきてもいいはずなのだが。「神威」の水上機はまだ発動機を動かしていないし、今日は波音が高いわけでもない。


「不明機影接近!11時の方向!距離2000!」


 六車は肩から下げていた双眼鏡を手にし、その方向を確認する。


「何だあれは?」


 六車は首を傾げた。確かに空を飛んでおり、翼も見える。しかしながら、その翼が動いているように見えた。しかも、シルエットも彼が知る飛行機とは違う。翼も胴体もあるのだが、なんというか機械らしさが感じられなかった。


 そしてその違和感は、同じように双眼鏡で接近する不明機を見ている他の将兵らも感じていることであった。


 だがその中で、答えにいち早く辿り着いた者がいた。


「六車艦長。アレはおそらく翼竜ワイバーンです!」


 エルフのラメルが叫ぶ。


「翼竜だって!?それはあれか。先日イギリス船を襲ったっていう。バルダクやモラドアが使ってる竜のことかね?」


 翼竜に関する情報は、各国海軍に既に通達されていた。ただし、それを脅威に感じている者は少なかった。何故なら。


「はい。間違いありません!しかし、どうしてこんなところに・・・翼竜の体力では、ここまで飛んでこられる筈がないのですが」


 ラメルは唖然としながら言った。


 翼竜に関する情報は、イルジニアからも提供されている。それによれば、生物である翼竜の行動範囲はせいぜい半径300kmだという。それ以上の行動を行う場合は、少なくとも着地して休ませる必要があるという。


 しかし新海道から一番近いモラドア領まででも、3000km以上はある筈だ。飛んでくることは理論上ありえなかった。そのため、誰もが空襲とは無縁だと考えていた。


 ところが、現実には翼竜が新海道の、それも主島である黎明島の目と鼻の先にあらわれた。


「そんなことはあとだ。それよりも、対空戦闘用意!」


 六車は万が一に備えてそう命令したが。


「目標上空を通過!」


 時すでに遅く、翼竜は彼らの真上を悠々と通過していく。そのトカゲを思わせる胴体や、羽ばたく翼もしっかりと見えるほどの至近距離であった。


「逃がしたか!」


 艦隊から離れて小さくなっていく翼竜の影を忌々し気に見送りながら、六車はその飛んでいく方向を推測する。


「南・・・黎明島の方か。通信長に至急!翼竜発見と黎明島方向に飛行したこと、それから推定速度などを鎮守府宛に発信せよ!それから、今さら追いつけないだろうが、水上機隊にも発進準備!」


 六車は命令を下した。翼竜が黎明島の方向に飛んで行った以上、同島上空に侵入する可能性がある。1機(後にこれは同じ読みでも騎に変更される)とは言え、国籍不明機の侵入を許すのはマズイ。


「緊急電発信!」


「水偵の発進準備急げ!」


「神威」艦内が俄かに慌ただしくなる。


「艦長、今後どう動きますか?」


 航海長の質問に、六車は厳しい表情で答える。


「本艦はドイツ戦隊と協同中だ。通信の自由と、水偵の運用はこちらに一任されているが、作戦の続行か中止かを決定する権限は、「ヴェディゲン」のエーベルト少将にある。「ヴェディゲン」から信号は?」


 六車は大佐。エーベルトは少将。事前の打ち合わせで自軍の基地間との通信の自由や、航空機の運用権限については認められていたが、作戦行動自体の権限はエーベルトにある。彼から何か指示がないと、「神威」を含む日本戦隊は当初の作戦を続行するしかない。


「今のところありません」


「了解」


「ヴェディゲン」からは何の音沙汰もなかった。そして数分後に発光信号で送られてきたのは、当初の作戦計画を続行するとともに、付近海域への警戒を強化するために、水偵の発進を要請するという内容の信号であった。




御意見・御感想お待ちしています。


前回更新より1週間以上経過してしまい申し訳ない。まだまだ始まったばかりとはいえ、色々と出したい兵器や魔法を出すまでにどれくらいかかるやら。早く今某アニメで登場しているあの機体とか、あの特撮ドラマをオマージュしたあんな魔法とか出したいのに~

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