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海賊船VS仮装巡洋艦 ①

 バルダグ王国ピレイ公爵領認可の私掠船ムーズイト号は、僚船ケラルト号とともに、異世界人がシンカイドウと呼ぶ島の北東海域を、獲物を求めて遊弋していた。


 ムーズイト号とケラルト号からなる海賊戦隊を指揮する頭領のナロ・レーガルは数世代にわたり海賊家業を生業としてきた一族の出で、生粋の海賊である。


 つい30年ほど前、彼が当時の頭領だった父親の下で船に乗り始めた頃、それまでバルダグ王国内で暴れ回っていたレーガル家に大変革が起こった。それはバルダグ王国(厳密には地方を治める領主)に対して忠誠を誓い、襲う船を異世界人の船に限りさえすれば、これまでの罪を一切問わず、さらには今後も海賊行為を許可するという国家公認海賊の制度ができたことであった。


 この国家公認海賊制度に対する、当時の海賊たちの態度は真っ二つに割れた。制度を認めて国家公認海賊となるか、制度を無視してこれまでどおりの自由気ままな海賊を続けるかであった。


 ナロの父親は、前者を選んだ。


 これは国家や貴族に屈服したのではなく、明確な打算があってのことであった。と言うのも、レーガル家を始めとするバルダグ王国の海賊の多くは、確かに海賊行為も行うが、しかしそれだけで生計を得ているわけではなかった。実際のところ、サバンナに暮らすライオンと同様、魅力的な得物に出会える機会はそうそうなかったからだ。

 

 何せ沿岸部を走る貨物船や、操業する漁船を襲ったところで、得られるものなどタカが知れている。漁村を襲うという手段もあったが、これにしても下手に村を襲い続けると、獲物となる村そのものが消滅してしまうので、そう何度も続けられるものではない。


 そのため、大概の海賊は副業として同業者から貨物船や村を守る用心棒役や、貨物船同様荷物を運ぶ(ただし高価な禁制品などに手を出すこと多し)、さらには漁師よろしく漁業をする者も珍しくなかった。


 しかし実質的に副業が海賊状態であっても、一度海賊行為の所業がバレると、途端にお尋ね者になってしまう。そうなってしまうと、港に入ることすら困難となり、人気のない入り江や、領主の兵隊が来ないような寒村の浜辺しか利用できなくなる。もちろん、商売あがったりだ。


 自由気ままで恐怖の対象のように考えられる海賊であったが、実際はハイリスク・ローリターンな仕事であった。それでも、海賊家業を多くの者が続けたのは、お伽噺よろしく一獲千金を夢見てのことや、先祖代々の生業となっていたからだ。


 それに加えて、確かに同じバルダグ人や、最近同盟を結んだ人間の国のモラドア人を襲うことは禁じられたが、その一方でバルダグ王国から脱出を図る裏切り者や、不逞にも自分たちの領域を侵すエルフや異世界人への攻撃は、許可されていた。つまり言えば、相手は限定されるが、海賊行為が合法化されたのである。


 こうして、ナロをはじめとする公認海賊たちは獲物を変えて、海賊行為をするようになった。むしろ、以前よりも副業ではなく本業に精を出すようになった。


 と言うのも、異世界人の船を捕らえると珍しい戦利品が手に入り、それを売り飛ばせばいい金になるからであった。ちなみに人間の方は魔法も使えないので、大概その場で斬り殺すか、奴隷として売り払うかしていたが。


 ただし、危険が伴わないというわけではない。異世界の帆も上げずに走れる軍艦や、金属製の龍によって沈められたり捕らえられたりした同業者もまた多かった。


 その中で、ナロは上手く生き残ってきた。その大きな要因は、大枚をはたいて雇いこんだ魔術師のおかげであった。そのお雇い魔術師は同盟国となったモラドアとの魔法技術交流で、短時間ではあるが船体を透明化できる魔法を身に付けていた。


 この魔法のおかげで、彼は獲物に接近する場合や、敵に発見されそうになった場合に、上手くその身を隠すことができるようになった。


 もちろん、その魔術師だけでなくその他の魔法が使える者たちも、魔法技術向上の恩恵に預かっていた。特に船の速度を上げるのに必要な風を起こす魔法を以前よりも強化することができ、帆船ながら地球の速度換算で20ノット超えの速度を発揮できるようになった。


 異世界人の漁船や貨物船は帆がないものの、風の魔法を使えば充分に捕捉できる速力しか有していなかった。このため、戦争が始まってからナロの海賊船団は5隻の異世界人の漁船や貨物船を拿捕もしくは撃沈していた。


 その一方で、沈められる同業者の数も増えているのも現実であった。それでもナロはより魅力的な獲物を求めて、危険を冒しながらも透明の魔法などを駆使し、異世界側の警戒線を巧みに突破し、地球の単位換算で新海道の北東300海里まで接近していた。


 この海域は新海道とイルジニアとを結ぶ航路帯であるとともに、良い漁場であることが、これまで捕虜にした異世界人への尋問などから判明していた。


「今回も稼ぐぞ!」


 まだ見ぬ獲物を求め、ナロは舌なめずりした。危険はともなうが、成功さえすれば国から多額の報酬がもらえる。そうすれば国で待つ家族たちも、より豊かな生活を送れる。


 ナロをはじめ、乗員全員の生活が懸かっているのであった。




 1隻の船が新海道黎明島から、イルジニアに向かう航路を速力15ノットで進んでいた。


 全長200m超えの船体に4本煙突という、1930年代に入った現在ではやや古めかしいスタイルの客船の正体は、ドイツ帝国海軍仮装巡洋艦「クロンプリンツ・ウィルヘルム」である。


 この船の経歴は聊か複雑だ。と言うのも、この船はもともとドイツ客船会社の名門である北ドイツ・ロイド社が1901年に竣工させた大西洋航路用の客船で、速度記録のタイトルであるブルーリボンにさえ輝いたことのある、ドイツ客船史にその名を刻んだ名船であった。


 しかしそんな名誉ある船も、前大戦中はドイツ海軍に徴庸されて仮装巡洋艦として活動した。その結果15隻6万tあまりの連合国商船を撃沈した。


 ところが、まだ中立国であったアメリカに寄港中にアメリカが参戦し、そのまま米国に接収されてしまった。そして米国の輸送船として、皮肉なことに米兵を欧州戦線へ運ぶ仕事をさせられたのであった。


 そして休戦後結ばれたベルサイユ条約で、1000トン以上のドイツ船を全て接収するという条件が起草され、危うく連合国側にそのまま持っていかれてしまうところであった。


 しかしながら、この条件は最終的に中立であった日本などの取りなしで、半数まで緩和された。結果比較的古い「クロンプリンツ・ウィルヘルム」は米国より返還されドイツ船籍に復帰することができた。そして、ドイツ商船界の復興に大きな役割を果たした。


 そんな「クロンプリンツ・ウィルヘルム」も1930年代に入った現在では完全な旧式船だ。ヴェルサイユ条約の改定によって新造船の建造が可能となった現在、北ドイツ・ロイド社としてもそろそろ引退させて良い頃合いであった。


 ところが、そんな時に異世界と地球との戦争が勃発し、ドイツも軍を異世界側へと派遣した。この結果多数の支援艦船が必要となり、「クロンプリンツ・ウィルヘルム」も仮装巡洋艦として海軍に二度目の徴庸となった。


 もっとも、実際のところは徴庸とは名ばかりであった。と言うのも、同船はブレーメンの造船所で大改造工事を受け、異世界側で活動するドイツ艦艇、特にUボートの母艦としての任務に耐えられるように、客船時代の設備は徹底的に取り払われ、乗員の休養設備や、各種補給物資の搭載スペースの設置が行われていた。この工事は客船への復帰が不可能なレベルのものであった。


 どうしてこのような大改造になったかと言えば、既に旧式化している「クロンプリンツ・ウィルヘルム」を北ドイツ・ロイド社では返還してもらう必要性を認めていなかったからだ。海軍で使い潰してくれても結構。沈められても、むしろ解体費代が浮くという打算があった。


 それなら素直に売却でいいじゃないか?という話になるが、これはスクラップとして二束三文にしかならない売却よりも、使用され続ける限り多額の傭船料が政府から入る徴庸の方が旨味が大きいからだ。


 ドイツ帝国政府としても、戦後の復興の牽引役であり、現在も英米伊露などとの船会社と激しい競争が続く海運界への支援になるので、悪い話ではなかった。


 そんな世知辛い現実のもとで異世界へ送り込まれた「クロンプリンツ・ウィルヘルム」であったが、旧式とは言え大型の輸送船が加わることは、異世界に展開するドイツ軍にとって朗報であった。イルジニアに展開する部隊への補給が容易になるし、また海軍艦艇の活動領域も広がる。


 もちろん、艦種が仮装巡洋艦とあるように、仮装巡洋艦としての働きも期待されていた。現在の「クロンプリンツ・ウィルヘルム」には旧式艦より降ろされたものを中心に、15cm砲2門と10cm砲4門に数挺の機銃、さらに45cm単装魚雷発射管4門も搭載されていた。加えて海面にデリックで降ろさなければいけないが、偵察と連絡用のHe60型水上機も1機搭載していた。


 これらの武装は第一次大戦時より遥かに強力である。同船が客船への復帰を考えない、徹底した改装が出来た故の重武装であった。しかも、それらの武装は積み荷を模したり、偽装壁によって巧みに隠され、パッと見ではわからないようになっている。


 この重武装を持ってすれば、相変わらず神出鬼没の出現を繰り返すバルダグやモラドアの私掠船に対して、充分に対抗できるはずであった。


 もちろん、旧式となったとはいえ生真面目なドイツ人が徹底的に改造とともに整備したのだから、船体や機関の調子も万全であった。おまけに改装したとはいえ、腐っても元商船。居住スペースなどにゆとりがあり、乗員たちの士気も高かった。


「獣人や魔法使いどもの海賊が来たところで、返り討ちにしてくれるわ!」


 前大戦に従軍経験もあり、予備役から召集された艦長のウルリッヒ・フォン・オストワルト大佐も、「クロンプリンツ・ウィルヘルム」の艦橋でそう豪語していた。


 そして乗員たちの誰もが、彼と同じ気持ちであった。



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