私掠船を叩け!
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第一次イルジニア大陸反攻作戦と、その後の小競り合いが終息に向かった1935年(昭和10年)秋頃、イルジニアに展開する地球連合軍と、イルジニア連邦軍は戦力の再編に取り掛かっていた。
戦力の再編とは言うが、実質的には増強である。各国で承認された臨時軍事予算によって増産された航空機を擁する空軍や、増強された陸海軍部隊が配備されたためだ。
この内海軍部隊においては、各国海軍より派遣された巡洋艦や駆逐艦を中心に編成された高速巡航艦隊と、潜水艦部隊、さらには仮装巡洋艦部隊が新たに編成、配備されていた。
高速巡航艦隊は、1~2隻の巡洋艦と3~4隻程度の駆逐艦で編成された部隊である。これらの部隊は既存の艦隊からの抽出艦や、新たに回航された艦艇からなっていた。
この高速巡航艦隊の任務は、モラドアやバルダグ領地、特に沿岸地域へのゲリラ攻撃に、索敵、そして異世界の海洋調査も含まれていた。
光の柱出現以来、地球側はこの世界に存在する国家をモラドア、バルダグ、イルジニアの三ヵ国しか認知していなかった。それらの国でさえ、その資料は乏しかった。難民やイルジニア経由で入手した情報は断片的であり、今次戦争で捕虜を得たことで少しずつ重要な情報を得つつあった。
正面の敵からして、地球側が知っていることは少ない。しかしながら、モラドアやバルダグの捕虜や鹵獲した資料から、これら3か国とは別に、さらに遠方に複数の国の存在が認められた。もちろん、未だにこれらの国々と地球側は接触していない。
そこで高速巡航艦隊には、そうした未知の国に対する偵察、調査、場合によっては各国政府からの委任状を持っての接触ならびに交渉の任務をも託されていた。もちろん、当座の任務は目前の敵国であるモラドア、バルダグへのそれが優先であり、あくまで副次的なものである。
そうした面で言えば、むしろ期待されているのは潜水艦部隊であった。潜水艦部隊は、ようやくのこと実戦投入の目途が立った部隊である。この異世界における潜水艦運用は、長年考案はされていたものの実施には移されていなかった。
というのも、異世界の海には未知の海獣がいる。これらへの対策を施さずして出撃させるのは危険であった。そのため、潜水艦はこちら側にやって来ても、せいぜい新海道周辺の海を遊弋するだけであった。
とは言え、現に戦力としてある以上、何とかして使えないか研究も行っていた。当初は潜水艦と言う機密性の高い情報を扱うために、各国軍がバラバラに研究していたが、非効率な上に研究成果を活かせないという弊害から、最終的に連合軍司令部の下に技術研究局を置いて一本化すると言う形で落ち着いていた。
さて、後の時代に登場する強力な電池搭載艦や原子力潜水艦に比べ、この時期の潜水艦は潜航可能時間が短い可潜艦と言うべき代物であった。しかしながら、海に潜れることに変わりはない。
捕虜からの情報で、既にモラドアはイルカなどの海獣を利用した水中部隊を投入しているのが確認されている。これに対抗する意味からも、潜水艦(潜航艇)の実戦化は用兵上からも強く望まれていた。
そのため技術研究局は海獣対策について、2つの方針に絞り込んだ。それは海獣を倒すか、或いは近づけないというものである。
倒す方法としては水中潜望鏡や水中観測塔、水中発射型の臼砲、ロケット推進兵器、高速潜航艇、誘導魚雷などが研究されたが、潜水技術、誘導技術のどれをとっても未熟な現状では、完成の見込みは立たなかった。
そのため、近づけない方法が一番実現性が高いものと目された。と言うのも、これに関しては潜水艦に関する技術研究以前に、海獣に対する対策として民間も含めて戦前から研究されている分野であったからだ。そのため、研究に関してある程度の蓄積がなされていた。
もちろん、戦時下と言う1分1秒でも時間が惜しい状況である。技術研究局では、軍民問わず戦前の研究を引き継ぎつつ、より積極的に様々な方面にアプローチを掛けた。その中には、これまで予算の制約などから招聘が難しかった著名な生物学者や音響研究者の姿もあったのだが、こうした幅広い人材を集めたことが役に立った。
生物学者の指導のもと、大々的に海獣に関する情報や標本の捕獲・飼育に始まり、つづいてその生態調査の研究が行われた。もちろん、全ての種に対してこれをやっている余裕はなく、特に危険度の高いシーサーペントや、クラーケン、ビッグワームなどに的が絞られて行われた。
またこの研究には各国から配分された予算のみならず、戦前から研究を行っていた会社も含めた複数の民間企業からも多額の資金が投じられた。これは技術研究局の予算が限られているというのもあったが、それ以上に異世界側を有望な市場として期待する民間企業にとっても、自社の商船や漁船を防衛するのに役立つと理解されたからだ。
こうした研究が実を結び、一定の音波や光、或いは鳴き声を模した音を発信するなどで、少なくとも危険度の高い3種は避けられることがわかった。
そしてその研究結果に基づき、音波発信機や水中においても動作する強力な投光器などが急遽開発された。もちろん、潜水艦用と水上艦船用が別個に開発された。
戦前からの研究があったとはいえ、1年余りで実用の域に達したところに、如何に地球側各国がこの分野に集中的な資金や人的資源を投下したかが窺える。
とにかく、こうして完成した海獣避け装置を搭載した潜水艦が続々と新海道に到着し、連合軍司令部の指揮下に入った。潜水艦部隊も、巡航艦隊と同様な任務に投入される予定であった。
最後の仮装巡洋艦部隊とは、文字通り仮装巡洋艦から編成される部隊だ。
仮装巡洋艦とは、要するに徴庸した商船に武装を施して巡洋艦の代用艦とした艦のことだ。日本でも日露戦争でバルチック艦隊発見に活躍した「信濃丸」が有名であるし、前大戦では独海軍の仮装巡洋艦が各地で出没して、連合軍交通線にダメージを負わせている。
と活躍はしているものの、基本船体は商船のままであるし、武装を施すと言っても正規の巡洋艦に準じたものを搭載するわけにもいかない。
それこそ軍艦と商船の性能差があまりなかった木造帆船時代ならまだしも、軍艦と商船の性能が隔絶している現在、仮装巡洋艦で正規の艦艇と戦おうなどと考えてはいけない。
そのため、基本的に仮装巡洋艦の用法とは通商破壊や偵察、船団護衛というのが相場である。
しかしながら、この異世界においてはこれに加えて囮船としての私掠船狩りという任務が付け足された。
私掠船とは、言うなれば海賊船のことだ。モラドアやバルダグ政府の公認の元で、両国に近づいた地球側の漁船などを襲って、船や乗員、搭載物資を奪っていた。
これに対して地球側連合軍は戦前から艦艇を派遣して、民間船の保護を実施していたが、何せ広い大海原である。全ての船をカバーできるはずもない。加えて私掠船自体も、大概単独か多くて2~3隻での行動で、しかもモラドアやバルダグの沿岸部各地に拠点を持っているため、神出鬼没であった。
正式に開戦した現在、地球側が出向いて直接その拠点を叩くことは出来るのであるが、さすがにそこまで艦艇の数に余裕はない。
戦時下にある現在、モラドアやバルダグ近海に出漁することは禁じられており、漁船は出ていない。
しかしながら、私掠船側もそうなると儲からない。なので、開戦後その出没海域がシフトしてきていた。
この時期、その出没する海域は新海道から見て北西の、バルダグ大陸との中間点にあたる海域と、そしてイルジニア大陸の沿岸部であった。
前者の海域はこれまで私掠船が到達していない、バルダグから遠く離れた海域であり、開戦後も漁船の出漁が許可されていた海域であった。が、1935年夏ごろから突如としてバルダグの私掠船が出現し、地球側漁船を襲撃し始めた。
後者の海域は、連合軍が反攻作戦によって前進し、モラドア・バルダグ連合から解放されたイルジニア大陸西部が主であった。また狙われたのは地元イルジニアの漁船や、武装が貧弱な連絡任務等に就いていた連合軍の舟艇などであった。
もちろん、これに対して連合軍側は私掠船を撃破するべく艦艇や航空機による索敵を実施したが、何故かほとんど発見できなかった。
そのため、イルジニア軍関係者や捕虜に情報を照会すると、その答えとして上がってきたのは「魔法で姿を隠している可能性がある」であった。
つまり、私掠船が魔法を使って姿を隠しているということであった。
こうなると、幽霊船や透明人間を追うようなものである。後にこの問題は赤外線探知機やレーダーの投入で解決するが、この時点では目視頼みだったので、発見は半ば不可能であった。
そこで、逆に敵がこちらの前に姿を現すように仕向ける。第一次大戦の際に、擬装武装船(Qシップ)でドイツ潜水艦Uボートをおびき寄せ沈めたように、仮装巡洋艦をエサにして私掠船をおびき寄せ、沈めようということであった。
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