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反攻作戦終了後 ④

 ゲーク准将率いる竜騎士隊は、目標の異世界軍の駐屯地に接近した。


「周囲への警戒を厳にしろ!」


 と念話で部下たちに指示するが、基本的に周囲を用心深く見回す以外にやれることはない。


「さあ、来い!」


 ゲークは自分の上空を飛んでいるであろう、照明班の働きに期待した。


 しかしながら、あと少しで目標と言うところで、ゲークにとって思いがけない事態が起きた。突然、闇の中の空中に小さな光源が出現した。


「あれは?」


 その光源自体は小さく、ゲークたちの姿を照らし出すには至らない。ゲークはもっとじっくり、その光の正体を見極めようとした。しかし。


 その直後、ゲークらの乗った翼竜が悲鳴を上げて姿勢を崩す。本来であればこうした場合、竜騎士であるゲークらが手綱をしっかり持って、翼竜たちを宥めるのであるが。


「眩しい!?」


 下から照らされた強力な灯に、ゲークたちは幻惑される。


 さらに、空中の数カ所に新たな光源が発生し、ゲークたちは暗闇から一転した眩い光の世界の中へと放り込まれてしまった。


 こうなると、もう大変である。編隊を組むどころか、自分自身がどう飛んでいるかさえわからない。どちらが上か下なのか。降下しているのか上昇しているのかさえわからない。


 人間がこうなのだから、夜に強い翼竜たちも完全に視界を奪われ、パニックに陥る。


「おい!バカ!あばれ・・・!」


 1騎の竜が光に驚き、視界を奪われて暴れた挙句に地面へと激突した。


 さらに。


「クソ!これじゃ何も・・・ガハ!」


 1騎はどこからか放たれた機銃弾で御者を撃ちぬかれて、操る者もないまま夜空へと消え去る。


 ゲークの翼竜もあと少しで地面に激突と言うところまで降下したが。


「上がれ!」


 光の奔流から抜け出し、なんとか視界をわずかばかりとはいえ回復したところで手綱を引き、間一髪上昇させることに成功した。


 しかしゲークはそこで油断せず、高度を緩く上げながら視界が戻るのを待った。


 ようやく視界が戻ってきた時、ゲークは目標から大分離れた空域を飛んでいた。そして、自分たちをパニックに陥れた元凶を目撃する。


 地上から伸びる複数の光芒。異世界軍が保有する探照灯と言う、機械仕掛けの投光器だった。強烈な光で夜空を照らし、目標を探し出す。ただし、当たらなければどうとでもなる。それがゲークらの常識であった。


 しかし今回は夜空に延びている光の数が明らかにこれまで報告されたそれよりも多い。さらに、先ほどは的確にゲークらのいる位置に照射してきていた。


 その探照灯の光芒だけではない。空中にはゆらゆらと浮かぶ光も見えた。異世界軍が使用する光弾の様な周囲を照らす武器だ。モラドア軍の光弾よりも遥かに眩しいそれが、相当な数がゆらゆらと空を漂っていた。


「これ程の迎撃、これまでなかったぞ!」


 これまでも探照灯を敵が有し、翼竜に向けて照射してくるという報告は、ゲークも確かに受けていた。しかしながらその数は少なく、またこちらの攻撃を受けてから照射してくるので、全く効果はないと部下たちから聞いていた。


 だが、今彼の眼前に広がる光景は、明らかにその報告とは異にするものであった。敵は竜騎士隊を捕捉するために、これまで以上の装備を配置したのが見て取れる。


 さらにゲークを驚かす事態が起きる。煌々と照らされた夜空に、明らかに自分の部下ではない翼竜のシルエットを認めたのだ。


「何!?」


 そしてその翼竜から、光線が伸びる。ゲークはそれが、異世界軍が使用している機関銃と言う連発銃の軌跡であるとすぐに気づく。


「翼竜に機関銃だと!?・・・エルフどもか!!」


 異世界軍に翼竜はないはず。それでもって騎上に異世界製の武器を搭載しているとなると、イルジニア軍の竜騎士以外には考えられなかった。


 イルジニア軍が異世界連合から装備を供与されたという情報は、ゲークの耳にも入っていた。


 しかし彼が知る限りでは、イルジニア軍の竜騎士隊は緒戦において大打撃を被っており、もはや戦力としての体をなしていないというものであった。現実に異世界軍を中心とした反攻作戦が開始されて以降も、イルジニア軍の存在自体は確認できたが、竜騎士隊の出現は確認されていなかった。空を飛び回ったのは、異世界軍の飛行機械であった。


 だからゲークらの頭に、イルジニアの竜騎士が出現する、しかも飛行に困難がともなう夜間にということは、想像すらできないことであった。


 しかもイルジニアの竜騎士は、明らかに機関銃を搭載している。本来翼竜には、それほど重量物は搭載できないはずだ。だからこそ、ゲークらは小型爆弾や光弾による嫌がらせに終始している。


 だがイルジニアの竜騎士たちは、翼竜に重量物である機関銃を搭載したようだ。


 そして異世界の利器を手に入れたイルジニアの竜騎士は、やはり異世界軍の協力の下で、夜間と言うのに的確な迎撃を行っていた。夜空を照らす多数の探照灯や吊光弾によって、こちらの姿を照らし出し、攻撃を加えてくる。


 ゲークが指揮していた地上攻撃部隊は既に壊滅し、さらに敵の姿を確認するため続行させた照明部隊も、現状では全く状況がわからない。


 試しに念話による通信を試みたが、帰ってきたのはパニックに陥った部下たちの上げる怒声や悲鳴だけであった。


 本来であれば、ゲークはすぐにでも戦場に舞い戻り、部下の救出にあたるべきだった。しかしながら、それは自殺行為であった。戦場の状況も敵の戦力も把握せずに突撃などしても、返り討ちに遭うか、そうでなくても自分も混乱に巻き込まれてしまう可能性が高いからだ。


 そして今は夜間。例え時間を置いても、状況を把握できる可能性は無に等しかった。


「すまない・・・」


 ゲークは戦場からの離脱を図った。部下たちに詫びながら、今日たった今得た情報を絶対に持ち帰ると心に誓って。




「着陸灯を点け!着陸灯を点け!」


 前線に近い連合軍飛行場の滑走路。その滑走路に、松明で作った急ごしらえの着陸灯が点灯される。警備兵や整備兵が火を持って走り、一つ一つ点灯していくのである。


 前線に近い飛行場は、反攻作戦終了後も各国の航空部隊がローテーションを組んでの哨戒飛行などを行っているため、日常的に離着陸が行われる。しかしながら、夜間航法が未熟なこの時点においては、夜間着陸はそう頻繁に行われるものではなかった。


 しかしこの日は夜間着陸があるらしく、着陸灯が点灯されていた。それだけでなく、管制塔や指揮所、駐機場や格納庫の灯までもが煌々と点灯し、飛行場全体を照らし出していた。

 

 その飛行場に、小さな光点が接近してきた。ほとんど音もなく、まるで飛行機が着陸するように高度を落としながら滑走路にアプローチするその光点が、滑走路の灯に照らし出されると、人を乗せた翼竜の姿になった。


 高度と速度を落としながら滑走路に進入した翼竜は、脚をつけると少しばかり走って止まる。そしてただちに誘導員の誘導で滑走路から出された。


 着陸した翼竜は、動物らしく歩きながら竜騎士隊用に宛がわれたスペースへと向かった。


「お疲れさまでした!首尾はどうでしたか?」


「大成功だ!モラドアの竜騎士どもをバッタバッタ落としてやったさ!」


 鞍から降りた所で調教兵に声を掛けられたイルジニア連邦空軍第一竜騎士団司令官ログ・ナンカ大佐は上機嫌で答えた。

 

 彼に続いて着陸した11騎の翼竜に乗った竜騎士たちも、ナンカと同じく鞍から降りると上機嫌で戦果を報告していく。困難な夜間飛行と戦闘による疲労の色は見られるものの、戦果をあげたことによる高揚感がそれを覆い隠していた。


「猛訓練した甲斐があったってもんだ!」


 異世界軍からの出撃要請に基づき、ナンカらイルジニアの竜騎士たちは、夜間飛行に加えて異世界軍との連携や、供与された装備や武器の扱いになれるために、猛訓練を強いられた。そのために、重傷を負った竜騎士や翼竜もいたくらいだ。


 しかし、それによってもたらされた戦果は大きなものであった。


 当初は異世界製の小銃と、離着陸時に使用する電池式のライト程度しか装備せずに出撃していたが、それでもこれまで一方的に攻撃を仕掛けてくるだけであったモラドア軍竜騎士隊に迎撃を行い、攻撃の阻止に成功するなど成果を上げた。


 その後出撃の回数を踏むごとに、訓練で体得した搭載装備を増やすとともに、地上に展開する異世界軍との連携を進めた。


 そして今日の出撃では、ナンカを含む指揮官が乗る翼竜に試験的に電池式のドイツ製小型無線機を搭載し、地上の異世界軍と限定的ながら通信手段を確保した。そしてその地上には、これまでの倍以上の数の探照灯を用意した。


 これは空中からの要請で、地上から敵を照らし出す作戦であった。さらに上空からやはり異世界製の吊光弾を搭載した照明部隊、また事前に敵の接近を察知する前進索敵隊を用意した。そして攻撃部隊として軽機関銃と銃手を乗せた攻撃型翼竜を配備という、これまでにないこれら大規模戦力投入を行って待ち構えた。


 この結果少なくとも3騎以上の敵騎を撃墜している。朝になれば墜落した敵の確認が行えるので、より正確な戦果確認ができるはずだ。


 この日ついに、地球連合とイルジニア軍は夜間に暴れ回っていたモラドア軍竜騎士隊に手痛い一撃を加えたのであった。


御意見・御感想お待ちしています。


今回イルジニア軍が採った戦法は、実はある戦争映画のワンシーンを頭に思い浮かべながら書きました。

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