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反攻作戦終了後 ③

「一体敵は何なんだ!?」


 モラドア軍准将ルべコ・ゲークは、麾下の竜騎士隊から上げられた報告書を読んで、苦々しい顔をした。


 彼が立案した少数の竜騎士による夜間のゲリラ爆撃戦術。開始からしばらくの間は戦果が判然とせず、味方の士気は低下し、軍上層部からも目に見える戦果をと、作戦中止命令こそ出さなかったが、当然と言えば当然の圧力を掛けた。


 それでもゲークは自身の考えを曲げず、作戦を継続した。


「とにかく続けることに意味がある。そうすれば、自ずと結果は出る」


 その言葉を聞いても、部下たちは半信半疑であった。それでも命令である以上、やらないわけにもいかない。彼らは黙々と夜間爆撃へと赴いたのであった。


 そして作戦開始から1カ月が過ぎた頃、ゲークの言葉通り、彼の採った戦術は徐々に効果を発揮し始めた。睡眠を妨害され、余計な警戒をせざるを得なくなった異世界の軍勢は動きは明らかに鈍くなった。また基地を頻繁に変える戦術も、敵軍に余計な負担を強いていた。


 この結果前線地域における敵軍の爆撃頻度や、斥候の出現頻度が目に見えて低下していた。


 さらにゲークは、戦術にも改善を行った。後方からさらに竜騎士が補充されたのを受けて、それまでの1~2騎編成を、必ず戦果確認騎をつけた2~3騎編成にし、竜騎士たちが求めた戦果を確実に確認させるようにしたのだ。


 この効果はてきめんで、夜間攻撃によって敵の大軍が大混乱に陥り、明後日の方向に反撃して無駄に弾薬を消費する姿が確認された。


 確実に戦果は上がっている。それがわかっただけで、竜騎士たちの士気は大いに上がった。


 が、いつまでもそれが続くほど世の中甘くはなかった。


 1935年8月(異世界各国にも暦はあるが、便宜上地球時間に統一)に入ったその日、モラドア軍竜騎士隊はその日も夜間のゲリラ爆撃に出撃していた。


 この時期、モラドアの竜騎士たちはこの戦術に関して言えば、まさに脂が乗り切っていた。当初は想定外の戦術に戸惑い、不確実な戦果のために士気も低かった彼らだが、この頃には戦術にも慣れて戦果の確実な確認も行われ、さらに本国からようやく到着し始めた補充戦力によって、動員可能騎数も増えていた。


 つまり、運用レベルも士気も絶好調と言う具合であった。


 しかし一方でそれは敵に対する警戒を疎かにする弊害ももたらした。いや、全く警戒していなかったと言うと語弊がある。確かに彼らは警戒をしていた。しかしその警戒対象は、彼らにとって最大の脅威である地上からの対空砲火であった。空中において敵は有効な迎撃手段を持っていない。それが竜騎士たちの共通認識となっていた。


 この日も彼らは前線に近い地域に駐留する異世界軍に嫌がらせ爆撃を加えた。敵は爆撃を加える瞬間まで彼らの接近に気づかず、爆弾が爆発するとようやくサーチライトを夜空に向け、さらに対空砲火を撃ちあげてきた。


「今頃遅いわ!」


 分隊を指揮していたコープ中尉は、明後日の空に対空砲を撃ちあげる敵に対して、バカにした声を浴びせた。


「よし、あとは夜道を帰るだけだな」


 慣れて来たとはいえ、それでも夜間飛行には色々と恐怖がつきまとう。決して気の抜ける話ではなかった。


 それでもコープは、無事に攻撃を終わらせられたことに安堵感も覚えていた。往路と違い、攻撃終了後の復路は重い爆弾がない。それだけでも物心両面が軽くなるのだ。


 コープは後方に付き従う2番騎と3番騎(戦果確認騎)を見やった。と言っても、暗闇の中であるためはっきりとは見えない。どんなに条件が良くてもボンヤリと月明かりの中に浮かび上がるだけだ。


 そう、いつもどおりならそうなるはずだった。


「!?」


 しかしこの日は違った。後方、3番騎のいる付近に突然明るい光線が出現した。さらに、激しく動く影が複数見えた。


「敵!?」


 夜の空に敵はいない。その固定観念があっただけに、コープはとっさの判断ができなかった。


「く!」


 とにかく敵から少しでも距離を置くため、全速力での離脱を図った。そして。


「直ちにこの場を離脱しろ!」


 と念話で部下にも言い放った。とは言え、彼自身混乱して精神が乱れている状況であったため、どこまで届いているものか定かではなかった。


 編隊を組んでいるとは言っても、夜間であるから衝突防止のために昼間に比べて距離を置いて飛んでいる。視覚ではほぼ確認は不可能であり、念話だけが頼りと言えるが、これも念話の発信者が混乱してしまうと上手く発信できない。


 今回の襲撃でコープの編隊は突然の奇襲に混乱し、念話の送受信が全く上手く行かなかった。コープ自身は発信したつもりであったが、返答がないため受け取られたかわからない。


 そして彼はその後単騎高速で駆け抜けたため、基地に帰還した時には部下の行方は完全にわからなくなっていた。


「まさか落とされたのか?」


 と彼の脳裏に最悪の展開が思い浮かんだが、幸いにも2番騎、さらに大分遅れて3番騎も滑走場に滑り込み、安堵の息を吐くことができた。


 しかし、3番騎の竜騎士が背負っていた背嚢には背筋も凍るような戦闘の爪痕が残されていた。


「こいつはヒドイ・・・」


 彼女(3番騎の騎士は女性だった)の背嚢は無残にも引きちぎられ、しかも焼け焦げていた。もちろん、中身は吹き飛ぶなどして完全に消滅していた。もし少しズレていたら、彼女の体自身が大きく抉られていたことだろう。


 これは明らかに、異世界人が使う銃を被弾した跡であった。


 ゲークらは当初、この夜迎撃してきたのは異世界人の飛行機械だと考えていた。ついに彼らが夜間戦闘機を投入したのだと。


 しかし、竜騎士たちから上げられた報告を総合すると、そうは思われない点が浮上した。特に、接近したと思しき敵が音を発していなかったという点においてである。


 異世界人が使用する飛行機械は確かに性能的に優秀だが、翼竜と違ってエンジンと言う機械部分からの騒音が激しく、接近してくれば容易にその存在を把握できる筈であった。


 ところが、この日攻撃を受けた竜騎士隊は全員がこのエンジン音を確認しておらず、3番騎が撃たれるまで、その接近に気づかなかった。つまり、攻撃を仕掛けてきたのは飛行機でない可能性が高い。


 そうなると一体敵は何か?可能性としてあるのは敵の竜騎士であったが、この時点においてモラドア側はイルジニアの竜騎士は壊滅状態にあり、とても前線に投入できるとは、加えて夜間飛行を行い得るとは思いもよらないことだった。


 となると相手は何か?


 結局のところ判断がつかないまま、ゲークらは竜騎士隊を出撃させる他なかった。


 しかし、その後もこの謎の敵の襲撃は続き、被弾騎が相次いだ。そして10日後には、ついに未帰還騎が出てしまう。


 正体不明の敵による襲撃と、未帰還騎が発生したことにより竜騎士隊内に噴出していた不安が一気に増幅されることとなり、ついに遠回しなサボタージュが発生した。直接的な出撃拒否こそなかったが、天候不良や翼竜の体調不良を理由に出撃後引き返す事態が俄かに増え始めたのだ。


 竜騎士出身のゲークからすれば、竜騎士隊のこれらの行為が婉曲的な出撃拒否であることはすぐにわかることであった。


 本来であれば、そのような竜騎士は軍律に照らして厳罰に処すか、そうでなくても戦闘編成から外すべきであった。


 しかしながら、貴重な竜騎士の数を減らすことは、出撃可能騎数を減らすことと同義であり、ようやく作戦が軌道に乗って上手く行きつつある現在、ゲークとしては避けたいことであった。


 そこで、ゲークは文字通り自ら乗り出した。


「司令自ら飛ぶなんて、危険すぎます!」


「ダメだ。司令自ら手本を見せなければ部下がついてこない。これ以上の士気低下は許されん。それに・・・私自身前線で何が起きているのかこの目で見ておきたい」


 部下たちが止めるのも聞かず、久々に竜騎士用の飛行服に身を包んだゲークは、翼竜に自ら跨って夜間爆撃任務に出撃した。


 と言っても、単に普通に出撃するだけではこれまでと同じである。そこで彼は、特別部隊を編成した。


 本来であれば夜間攻撃隊は2~3騎の1個分隊編成であるのを、自分を含む6騎2個分隊とした。そして直率する分隊を地上攻撃部隊として、もう1個分隊を上空に光弾を搭載させて配置したのである。しかもその光弾は、これまでの戦訓で報告された地球側の照明弾を模して、パラシュートを付けた独自改造タイプであった。


 つまり、ゲークは自らを囮として近寄ってきた敵を、より高空に配置した分隊から投下した光弾で照らし出そうと考えたわけだ。


 だがモラドア軍の光弾は地球の照明弾に比べて、照度も照空時間も短かかった。おまけに空中を高速で機動しているのだから、照らし出せるタイミングを上手く掴めるかもわからなかった。


 一応一度だけ出撃前に竜騎士を敵役に見立てて訓練をしたが、光弾の投下タイミングを誤って失敗した。


 そのような状況だから、誰もこの作戦が成功するなんて考えていなかった。それでもゲークは士気が落ちきる前にやらなくてはと考え、作戦を強行したのであった。



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