反攻作戦終了後 ②
「そうか、竜騎士隊を出すよう要求してきたか」
派遣軍総司令部での戦訓会議が行われた翌日、イルジニア連邦臨時首都ガランガン。その官庁街(というより疎開した役所が集まってるエリア)にある軍総司令部において、イルジニア連邦軍全軍の指揮を掌るルグロ・カーン元帥は、部下たちと共に連絡将校ナガ准将からの報告を受け取っていた。
「おのれ、異界人どもめ!増長しおってからに!元帥、断じて認められません!今や我が国にとって竜騎士は宝石よりも貴重な戦力です!それは異世界人が枕を高くして眠れるようにするために、投機的な任務に投入するなど、小官は承服しかねます!」
と激高しているのは、空軍参謀総長のファイス中将だ。イルジニア軍は陸海空軍三軍があるが、その総指揮官は全軍総司令のカーン(厳密には文官として連邦大統領がトップとなる)であり、三軍の代表として参謀総長が置かれていた。
「ファイス中将。そうは言うがね、我が国は現在様々な面で異界人、地球連合に依存している。彼らの言うことは無下にできんよ」
吸っていた煙管の煙を吐き出しながら、カーンは半ば諦めモードで言う。
そう言わざるを得ないほどに、現在のイルジニアを巡る情勢は甚だ悪かった。モラドア・バルダグ連合の攻撃によって国土の半分を喪い、もはや国力はガタガタだった。
そのため、対モラドア・バルダグと言う点で利益が一致した異世界人、地球連合に救援を要請して軍を派遣してもらい、軍需・民需問わずの物資援助を得ていた。
誇り高いエルフとしては誠に屈辱的なことであったが、そうでもしないと全土を占領されていたのは目に見えていたし、悔しいが現状異世界人の方が技術力でも国力でも上を行っているのは間違いなかった。
そして多大な援助を受けている手前、連合軍の要請を簡単に却下するのは難しいことであった。少なくとも即座に拒否することは無理であった。
「しかし元帥、竜騎士隊はようやくのこと1個大隊を再編し終わったばかりなのですぞ!」
「知ってるよ」
イルジニアも、戦前は航空兵力として竜騎士を有していたが、質量ともにモラドア・バルダグのそれに劣っていたそれらは、短期間で消耗し尽くしてしまった。現在は大陸南部の基地で、開戦時練習生だった者や、生き残りの隊員を中心に再編している最中であった。
そしてようやく戦力が整い、実戦に投入できそうだと報告を受けたところであった。そのタイミングでの出動要請、しかも前代未聞の夜間飛行を中心とした計画に。
「ところでファイス。その竜騎士だが、君としてはどのような状況での投入を考えている?」
「どういう意味でしょうか?」
質問の意図を読めなかったファイスが怪訝な顔をする。
「では聞きなおそう。竜騎士の再建が進んだとして、これまでと同様の戦術を用いて役に立つのかね?」
「それは・・・」
竜騎士隊の再建は確かに進められている。しかしながら、その戦力が充実していた時でさえ、モラドア・バルダグの竜騎士に全く歯が立たなかった。数で押しつぶされたと言えば簡単だが、それだけでなく竜騎士の乗る竜の質も、パイロットの腕も敵に比べて劣っていたからだ。
それでも、これまでは竜騎士が唯一の制空権を得られる手段であっただけに、とにかく再建が行われた。
だがそれは旧来の戦力としての再建であり、敵の竜騎士と激突しても勝てる見込みは薄い。加えて、現在では異世界の飛行機の供与とそれを操るパイロットや整備兵の教育も進みつつある。実戦への投入にはあと1~2年は掛かるだろうが、投入されれば竜騎士を駆逐する可能性大だ。
もちろん、竜騎士に関しても全く改善を行っていないわけではない。竜騎士自身の魔法を補う方策として、地球製の拳銃や短機関銃、小銃を騎上で取り回せるよう訓練を開始し、翼竜に関しても地球の生物学者などの協力を得て、より強力な品種への改良に取り掛かっている。
しかし、それにしても戦力化するには時間が掛かるし、何よりそうした増強策をとったとしても、航空機の優位性は恐らく揺るがない。特に飛行機のパイロットは適性が必要となるが、少なくとも乗り手に魔法を使える者を選ぶ竜騎士よりもハードルが低い。
そのためか、最近の異世界の飛行機や戦車の活躍を見て、竜騎士や騎兵などを廃止しろという暴論まで出ていた。しかもそれが暴論ではなく、実現する可能性はそれなりに高かった。何せこれまでの戦いで戦力の多くを喪失したため、軍はその再建にあたって多くの部隊をゼロから育成しなければならなくなったからだ。こうなると、わざわざ育成に時間が掛かる旧来の兵器よりも、異世界の国々から容易に手に入る地球製兵器による部隊再建をした方が手っ取り早いという意見がまかり通るのは、当然と言えば当然であった。
「竜騎士が絶対とも、飛行機が絶対とも私は言わん。しかし、現状見る限りこれまでと同様では、いずれ竜騎士は使い物にならなくなる。異世界人の指図を受けっ放しというのは癪だが、ここは大きな転換も必要な時じゃないかな?」
カーンの言葉に、ファイスはぐうの音も出なかった。
「夜間飛行でありますか?」
イルジニア連邦空軍第一竜騎士団司令官のログ・ナンカ大佐は、ガランガンから派遣されてきた連絡士官の言葉に、最初困惑の表情を浮かべた。
「できるか?」
「それは、不可能ではありませんが」
イルジニア南部、サーケスという田舎町。この街が、現在のイルジニア軍竜騎士隊の再建拠点となっていた。
緒戦の戦いにおいて、イルジニア連邦軍は陸海空軍全てが大打撃を受けて、戦力の立て直しを迫られた。この内陸軍は敵軍の侵攻を食い止めるためにも、国内の戦力を動員して早期に部隊の再編を行い、前線へと送り込まれていた。少なくとも、比較的前線に近い位置に存在していた。
一方空海軍はそれぞれ竜騎士と軍艦と言う、特殊な設備を要する戦力が中心となっているため、後方の安全な地域で充分な時間を要して行う必要があった。
幸いなことに、イルジニアの竜騎士は壊滅的な打撃は受けたが、全滅はしていなかった。開戦時後方で訓練中の部隊に属した教官や練習生、そして辛うじて前線から帰還した古参兵が存在し、翼竜も養成中の個体があった。また、その後の前線での戦闘に異世界連合軍が介入したため、竜騎士隊は戦闘に参加することなく、戦力再編に集中できた。
このため、1935年7月時点では1個大隊45騎と予備騎、同数以上の竜騎士が実戦投入可能な所まで来ていた。
しかしながら、当の竜騎士たち自身も再建された自分たちの運用方法について確固たるものを持っていなかった。これまで通りの戦術では敵軍に通用しないのはわかりきっており、そして現状制空権の確保は異世界の飛行機に委ねられていたからだ。
そしてその飛行機を、イルジニアでも既に開戦前から導入を検討し、異世界側各国の協力の下で練習機の供与やパイロットや整備兵、航空管制官の養成が始められていた。
こうなると、今後イルジニア軍においても航空戦力の主軸となるのは飛行機になるのは確実だった。量産が機械のように利かず、適性も航空機パイロットより難度が高い竜騎士はその存在価値自体が低くなるからだ。
「すまんな。異世界の連中から圧力を受けてな。こちらとしても、援助を受けている以上拒否できん」
ところが、連絡士官の言葉にナンカ大佐は顔に喜びの色を浮かべた。
「何ですと!?では、異世界軍からの要請ということなのですか?」
「ああ。連中もモラドアやバルダグの竜騎士の夜間爆撃ばかりには参ってるようでな。こちらの竜騎士で何とかならんかとほざきおった」
「やります!いえ、やらせてください!」
「・・・随分とやる気充分なようだが?」
異世界人からの要請と知るや、やる気を出したナンカの態度に、連絡士官は首を傾げた。
「そりゃあ、我々がどれだけやっても勝てない異世界の連中が、自分たちのできないことをやれと命じたのでしょ?こんな痛快なことありますまい!」
ナンカたち竜騎士にとって、ここ最近の情勢は気が気でないものであった。本来制空権を確保するべき竜騎士が短期間で壊滅し、逆に異世界の飛行機械を有する空軍は敵の竜騎士から短期間で制空権を奪い返してしまった。
その飛行機械を、自軍も採用に向けて準備を進めている。ナンカらの耳にもその情報は入って来ており、当然ながら竜騎士たちを焦らせる一因となっていた。
それだけでなく、パイロット希望者の増加と反比例する形での竜騎士希望者の減少や周囲からの「竜騎士はいずれ無用になる」という声もまた、彼らの焦りを増させていた。
このままではいけない。それは竜騎士たちの共通認識であった。しかしながら、容易にこれまでの戦術などを転換できる筈もなかった。
そんな時に降って湧いた異世界軍からの出撃要請。しかも、あの異世界の飛行機械でさえ出来ない任務を行うという。
もちろん、これまでにない作戦であり難易度が高いことはナンカも話を聞いた時点で承知した。その一方で、彼は訓練さえすれば現在の竜騎士隊でも充分投入可能だと見積もってもいた。
「わかった。だが異世界の連中はなるべく早急に投入して欲しいとのことだった。どの程度時間が掛かる?」
「ベテランのみを選抜すれば2週間もあれば。部隊全体なら2カ月もあれば」
「少し遅いな。選抜組で10日以内。部隊全体を1カ月以内でなんとかできないか?」
連絡士官の方もやる気が出てきたのか、ハードルを上げる。とにかく早ければ早い程、異世界軍に対して自軍の立場を有利に出来る。
「・・・わかりました。やるだけやってみましょう」
「よろしく頼むぞ!」
こうしてイルジニア軍竜騎士隊による、夜間防空戦に投入向けての突貫準備が始められた。
ナンカは自身を含む4名の先行選抜チームを編成し、連絡士官の要請通り10日後には前線へ向けての出撃を開始することとなる。
そして残る部下たちもかなり無理を重ねつつも、1カ月間の錬成を行った後、前線へ向け旅立った。
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