反攻作戦終了後 ①
反攻作戦の作戦名を「鉄槌」として、後付けしました。
また登場人物の中には功績や、パワーバランスの面などで昇進している人物が何人かいます。
1935年7月。イルジニア大陸における地球側連合による反攻作戦、「鉄槌」が掃討戦を含めて終了し、イルジニア連邦臨時首都ガランガン近郊に置かれた異世界派遣連合軍総司令部では、総司令官のショーン米陸軍大将以下、関係者が集まっての戦訓分析会議が開かれていた。
「今回の反攻作戦において、我が方は作戦の当初目標を100%達成しており、作戦は完全に成功したものと判断できます。被害も全軍合わせて死者100名、負傷者500名。損失車両は戦車を含む各種車両150両であり、想定の範囲内に収まっています」
米陸軍の参謀士官が、集計された「鉄槌」作戦の結果を説明する。
「今回の戦闘結果を見れば、我が方の装備が敵に対して有効なものであることを、改めて認識できたな。特に、ドイツ軍の戦車集中運用は大いに注目すべきものがあった」
「お褒めに預かり恐縮です。総司令官閣下」
褒められたドイツ陸軍第一独立装甲師団司令のシュタイヤー少将は、大いに誇らしげな顔をしていた。第一次大戦では連合軍に敗北したが、ここ異世界においては新戦術によって戦功一等であった。
「戦車の集中運用だけではないでしょう。トラックや自動車と合わせての機動戦の効果も見逃せません。我が国でも早急に戦車や装甲車の量産を急ぐべきですな」
米軍のクーパー准将も大いに感じるものがあったらしく、大いにドイツ軍を褒める。それと同時に、車両増産の要求も口にする。米国は基本的に平時は軍備をそんなに持たない国なので、戦車に関しても開発・生産が進んでおらず、第一次大戦時のルノー戦車を持ち出さざるを得なかった。
航空機やトラックなどの車両は比較的早期に数を揃えられたのに、戦車だけは第一次大戦時の旧態依然とした車両なのは、クーパーを含め将兵ら全員不本意なところであった。
もちろん、連合総司令とは言え腐っても米国軍人のショーンも同じ気持ちだが、そこは民主主義国家の軍人である。
「それは本国次第だな。まあ、改めて上に要請するしかあるまい」
ショーンはクーパーの言葉を受け流した。内心では彼の意見に同調していたが、増産できるかできないかは議会の承認次第であった。
とは言え、今回の勝利と米陸軍の活躍は、新聞や映画を通して本国にも伝わっているであろうから、臨時予算が認められる可能性は大いにあった。
なのでクーパーもショーンも、そこまで悲観してはおらず、前向きであった。
改めて諸兵科連合の機動戦に関する評価が済んだところで、次は敵の新戦術が自然と話題に上った。
「総司令。小官としましては、次の攻勢の準備も重要ですが、確保した地域の防衛について、特に防空対策について大いに討議するべきと思います」
と進言したのは、今回進撃した英陸軍部隊の総まとめ役である、ヘンリー・トップハーム准将だ。
イギリス軍も今回の戦いで陸軍を投入している。ただし、その注目度は今一つである。と言うのも、今回イギリス軍が投入した戦力は、歩兵主体であり戦車はお披露目程度の数のヴィッカーズ6t戦車(マークE)を除けば、機関銃のみを搭載したオープントップの、豆戦車と言うべきカーデンロイドだけであった。
そしてヴィッカーズ6t戦車についても、本来英陸軍での採用予定はなく、輸出専用戦車と言うべき状態だったのを、急遽異世界での戦闘のために英陸軍でも採用して配備したものであった。
もちろんこれでも、異世界においては充分な戦力と言えるが、その他の国々が投入した部隊と比べると、今一つパッとしない。
こうした装備面での不備に加えて、今回投入された英軍1個師団は満州やガランガン防衛戦で実戦経験を積んだ日米軍、また戦車を中心とした諸兵科連合による機動戦という新たなドクトリンを採用した独軍のように、戦術面でも精彩を欠いていた。
だから活躍はそれ相応にしたが、耳目を惹くようなものではなかったのである。
とは言え、だからと言ってイギリス軍がガチガチ頭の集団では決してない。むしろ、七つの海を支配した大英帝国の軍隊である。戦訓を活かして、次の戦闘でより巧みな戦術を採るだけの素地が彼らにはあった。もっとも、これは後の話ではあるが。
余談だが、英陸軍は海軍や空軍とは違って王立ではない。
そんな英陸軍も、今回の作戦ではモラドア軍の翼竜による夜間爆撃に大いに苦しめられた。
最終的に連合軍は予定された地域の制圧に成功はしたものの、それに対する有効な手段を、未だに採れずにいた。
羽音は航空機のエンジン音より小さいので、聴音器でもダメ。少数機で来るので目視による発見はかなり困難。迎撃戦闘機を上げようにも、事前の発見が不可能なため邀撃はほとんど期待できない。夜間では対空火器も照準が定まらず、役に立たない。
つまり、現状では打つ手なしであった。
「そうは言うがトップハーム准将。現状我々が持つ装備では、翼竜の夜間爆撃に対して手立てがない」
「そうだ。夜間戦闘機の配備を進めるにしても、実戦配備にはパイロットの養成も含めて半年は掛かる。それはもう何度も議論したことではないか」
ショーンと独空軍部隊をまとめるヨードル准将が何を今更と言う声を上げる。実はこの件、既に何度も討議された議題だった。しかしながら、現状打つ手なし。夜間戦闘飛行隊の配備を待つしかないという、消極的な結論で終わっていた。
ちなみに夜間戦闘飛行隊と言っても、後の時代のようなレーダー搭載の戦闘機ではなく、航法要員が搭乗可能な多座機を想定しており、実際に現在各国で編成が進む部隊もそれであった。
「それはわかっておりますが、敵は今すぐにでも襲い掛かってくるのですぞ。だったら早急に取れる、急ごしらえでもいいから何かしらの策を講じるべきです」
すると、ショーンは気づいた。
「トップハーム准将。我々は連合軍を組んでいる。隠し事はなしだ。言いたいことがあるなら、言いたまえ」
トップハームの言葉と表情から、彼は何か腹案を持っているのではないかと察したショーンは、彼に発言を促した。
「では、敵が翼竜を使ってくるのであれば、こちらも翼竜を使うまで。イルジニアの竜騎士隊に出動してもらうのです」
突然のことに、イルジニア軍から総司令部に派遣されている連絡将校のナガ准将が目を剥く。
一方、地球側の士官たちは目から鱗であった。これまで地球側も参加した戦いで、イルジニアの翼竜が参加したことはなく、半ば戦力としてカウントされない、それどころか存在さえ消えていた。
しかし考えてみると悪い案ではないかもしれない。既にある翼竜隊なら流用するのに要する時間が短くなるであろうし、飛行機のように音を出さないので隠密性にも優れている。夜間の哨戒と、戦闘には打ってつけに思えた。
そんな地球側の思惑を知ることなく、知ったとしても同じだっただろうが、とにかくナガが反論した。
「お待ちください!確かに我が軍は竜騎士隊を有していますが、その戦力のほとんどをこれまでの戦いで消耗しています。加えて、私も専門家と言うわけではありませんが、翼竜による夜間飛行は我が軍では実施していません。あまりにもリスクが大き過ぎます」
イルジニアはこれまでの戦争で、軍の戦力を大きくすり潰している。特に同軍唯一の航空戦力(地球各国供与の航空機は未だ錬成中)である竜騎士の損害は甚大であり、後方で立て直しに躍起になっているところであった。
その宝石よりも貴重な、なけなしの竜騎士を、未知の世界である夜間迎撃に投入しろというのだから、ナガが目を剥くのも当然であった。
「リスクがあるのは当然でしょうね。捕虜のモラドア軍の竜騎士も、翼竜での夜間飛行は相当な困難が伴うと証言しているそうですから」
夜間空襲が翼竜によるものと判明した直後、地球側ではこれまでの戦いで捕虜としたモラドア軍やバルダグ軍の竜騎士に再度尋問を行い、その実情を調査している。その結果は不可能ではないが、相当な練度が必要というものであった。もちろん、その情報はここ総司令部にも提供され、各軍に通達されている。だからトップハームもそれくらいは理解していた。
理解していた上での発言であった。
「でしたら!」
「もちろん、貴国にも貴国なりの事情と言うものがございましょう。しかしながらナガ准将、現在我々とイルジニアはまがりなりにも共同で戦線を張る同盟国です。そして何よりも、この戦争は占領されたイルジニアの地を解放することを第一としている。となれば、貴国もそのために危険を冒してもらわなければ、信義にもとるというものではないですか?」
「それはそうだが」
イルジニアにとって、地球側諸国からの援軍と支援は今や生命線である。もしそれらが途絶えれば、あっという間に全土を制圧されてしまうだろう。
イルジニアはエルフの国である。そのエルフと言う種族は、少し前まで人間に良く言って淡白、悪く言えば冷淡な態度を取っていた。その彼らがプライドをかなぐり捨ててでも、自分たちの生存のために人間、それも異世界の人間と手を組んだのである。
つまり、それほどまでに切羽詰まった状況と言うわけだ。
「貴官は不可能と言ったが、本当に不可能なのでしょうか?敵は予想だにしない方法で我々に対抗してきた。となれば、我々もあらゆる手段を講じていかないといけない。それは同盟を組んでいる以上、それぞれの義務である。そうではないですか?」
トップハームの言葉は、暗に「俺たちも戦ってるんだからお前らも覚悟見せて義務を果たせ」と言っていた。加えて、日の沈まぬ帝国として散々に他人を利用してきた大英帝国の強かさも見え隠れしている。
とにかく、義務と言う言葉を出されると、ナガとしても強くは言えない。
「とにかく、上層部に伝達して検討するしかありません」
「間違いなく伝えてくださいね」
こうしてトップハームは言質を取った。
微笑みながら念を押した彼を見た地球側参加者たちは、同じことを内心で思っていた。
(さすがは紅茶の国の紳士だ)
と。
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