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大陸反攻 ⑤

「提督、どうしますか?」


「どうするって言われてもな。助けてくれって言ってる同盟国人を、放っておくわけにもいかんからな。乗せてやるしかないだろ」


 合衆国海軍A2任務部隊司令官カールセン中将は、部下からの報告に頭を抱えていた。先ほど陸戦隊を上陸させた時の意気軒高だった時とは、打って変わっての困りようである。


 その原因は、その陸戦隊上陸にあった。と言っても、別に上陸した陸戦隊が大打撃を被ったとか、そういう話ではない。むしろ、上陸した陸戦隊は呆れるくらいに簡単かつ短時間で、ピッタを制圧していた。


 当然と言えば当然である。何せ。


「敵はどこだ?」


 上陸した誰もが、敵の攻撃に備えて厳重な警戒を敷いて慎重に前へと進み、上空では「ラングレー」から発進した艦上機が援護した。


 しかしながら敵による反撃はなく、「ヒューストン」に損傷を与えたと思しき魔法兵器のあった場所も、艦隊の砲撃によって粉々に爆砕された何かの残骸が転がっているだけであった。


 そして肝心のバルダグ兵はと言えば、どこにも気配を感じられず、わずかに数名の重傷者が置いてかれているだけであった。他に港があった場所の周辺で多数の軍属を捕らえたが、武器は有しておらず、おまけに半分ほどはピッタや占領地から徴発されたイルジニア人であった。


 実はこの時、ここを守備していたラーカ大佐率いるバルダグ軍第32軽騎兵連隊はとっくに撤退してしまっていた。


「魔力切れで武器もまともにない我々が敵と戦うことなどできん。撤退だ!」


 投石器への魔力注入により、麾下将兵の魔力を尽く使い尽くし、また砲撃によって馬やその他の武器の多くも喪失していた第32軽騎兵連隊に戦闘を続ける術はなく、彼は徒歩で部隊に退却を命じた。


 彼にとって幸いだったのは、米陸戦隊が上陸するまでの間に、艦隊の砲撃が一時的に停止した時間があったことだ。この隙を衝いて、彼は部下を纏めて撤退したのである。砲撃から退避するため、部隊を海岸より離れた場所に避難させていたのも、部隊を瓦解させずに整然と退避することに役立っていた。


 そうしてバルダグ兵たちが撤退した後に残されたのは、重傷により彼らが連れていけなかった虫の息のバルダグ兵と、元々ピッタ周辺の村々に住んでいたイルジニア人たちであった。


「あんたたちは何者だ?」


 見たこともない軍勢が大挙して上陸してきたことに、エルフたちはおっかなびっくりであったが、彼らがバルダグ人でもモラドア人でもないとわかると、恐る恐る近づいて行った。


 一方アメリカ軍の方は、現れた人影の耳が長いのを見やると、笑顔で話しかけた。ちなみに、アメリカ兵たちは皆イルジニア製の翻訳薬を先に飲んでいたので、会話には困らない。


「我々はアメリカ海軍だ。安心しろ。あんたらの味方だ」


「アメリカ?」


 初めて聞く国の名に、多くのエルフたちが首を傾げた。イルジニアと異世界の国同士の接触は、戦争前から始まっていたが、情報伝達が遅い田舎、ましてや人口も希薄な地域では、まだ充分に周知されていなかった。


 だから米海軍の制服や、彼らが掲げる星条旗も、このピッタのエルフたちには全く馴染みがなかった。


「聞いたことあるぞ。確か異世界の国の名だ。俺たちの国と条約を結んだって聞いたぞ」


 幸い一人の行商人だったというエルフが、何とか知っていた。


「じゃあ、本当に味方なのか?」


「ああ、そうだ」


「だったらすまんが異界の兵隊さん方、我々を助けてくれないかね?」


「もちろんだとも、我々は解放軍だからな」


 とその時対応した中尉は、安請け合いした。これはそもそも、地球側連合軍を構成する各軍に、総司令部から同盟国たるイルジニア人の民間人の保護に関しては万全を尽くすようにというお達しが出ていたのもあるが、それ以上にほとんど一方的な勝利に米兵たちの気が大きくなっていたのもあった。


 この時受けた中尉を含めて、助けるというのはせいぜい負傷者の救護、食料品の提供程度だと思った。


 ところが、村人たちの申し出は予想外のものだった。


「すまないが、我々を南のモエリまで運んでくれないだろうか?」


 村長だというエルフが中尉にそう頼み込んできた。


「我々?何名かということか?」


 中尉は最初目の前のエルフを含め数名程度を運んで欲しいという意味で受け取ったが、それは間違いであった。


「いや。村人全員運んで欲しい」


 その言葉に、中尉は仰天した。


「ちょっと待ってくれ!村を捨てるのかね?まさか流れ弾でも落ちたのか?」


 総司令部からのお達しもあって、ピッタへの砲撃では、イルジニア人居住地域へ着弾しないように厳重に注意して行った。そもそも、バルダグ軍自身が村から離れた場所に駐屯地を築いていた。港や倉庫などは比較的村に近かったが、それでも一定の距離があったのはイルジニア側からの通知や、砲撃直前の水偵の偵察でも確認済みだった。


 砲撃開始後の弾着観測でも、ヒドイ外れ弾もなかったはずだ。


「いえ、村には被害はないし、ケガ人も出てない」


「だったらなぜ?」


 村と言う、自分たちの生活基盤を捨てるというのだから、よほどのことである。


「何故ってそりゃあ。またバルダグやモラドアの連中が攻めてくるかもしれないからだよ。あんたたちは、いつまでもここにいるわけじゃないだろ?」


「それはそうだが」


 どうやら村人たちは、バルダグ軍かモラドア軍がピッタを再占領するのを恐れているらしい。そしてその懸念は、全否定できないことであった。


 確かに今回A2任務部隊はピッタのバルダグ軍を撃破し、潰走に追い込んだ。しかしながら、これは一時的な戦闘に過ぎない。A2任務部隊はここに常駐するつもりなど毛頭なく、そもそも本来は一撃をかけたら撤退するはずで、こうして臨時陸戦隊を編成して部隊を上陸させていること自体が、イレギュラーな事態なのだ。


「村人は何人ほどいるんだ?」


「全部で50人ほどだ」


「50人か」


 少ない数ではないが、船で運ぶ人数としては決して多い人数でもない。A2任務部隊の各艦艇に分散させる必要もない、1隻の艦艇で運べる人数だ。


 とは言え、これまたイレギュラーな事態。一介の中尉に判断できる話ではなかった。


「わかった。我々の艦隊の司令官にとりあえず要請してみよう」


「頼む」


 そう言うエルフの目には、必死さが籠っていた。


 そうして冒頭のシーンに戻るわけだが、イルジニア国民は保護するという方針があり、なおかつ敵の再侵攻の可能性がある以上、カールセンとしては無下にはできない。


「エルフたちが運んで欲しいと言ってるモエリってどこだ?」


 カールセンの問いに、すぐに航海参謀がイルジニアより提供の地図で確認する。


「南へ100km程行った、味方勢力圏内の村ですね」


「100kmなら、半日もあれば着くな。よし、じゃあ本艦に乗せてやれ。ただし乗せる前に簡単に検査だけはしておけよ。敵のスパイやオッかない病気まで一緒に乗せていくわけにはいかんからな」


 民間人の保護、特にこの世界での同盟国たるイルジニアのエルフを保護することは、人道上の問題に加えて、地球側に対する印象を良くする点でも利点がある。それくらいのことは、カールセンだって心得ている。


 一方で、これ幸いとスパイが紛れ込んでいたら大問題であるし、そうでなくても海の上の逃げ場のない艦上で伝染病でも発生したらことである。その点は海軍軍人として、抜かりはない。


「上陸部隊には3時間後に撤収するよう命令しろ。敵がいないなら、長居する必要もない」


「イエス・サー」


 その後、上陸した陸戦隊はピッタ周辺を捜索したものの、新たな敵発見の報告はなく、結局ガラクタにしか見えない敵の武器を含む各種遺留物を回収、鹵獲したのと重傷の捕虜を2名得ただけであった。


 そして50名のエルフたちは簡単な所持品検査と、新たに上陸した軍医による検疫を受けて許可が出ると、巡洋艦「ヒューストン」に収容された。


「これが異界の軍艦!?」


「以前見た海軍の軍艦やバルダグの軍船も大きかったが、これはそれ以上だな」


 タラップを昇って乗り込んできたエルフたちは、物珍し気に「ヒューストン」や、周囲に展開するA2任務部隊のその他の艦艇を見ていた。


「よ~し。お客さんも乗せたし帰るぞ。しかし、俺たちは客船じゃないんだけどな」


 と猛将カールセンとしては、民間人保護と言う意外な仕事をすることに、苦笑いせずにはいられなかった。


 こうしてA2任務部隊は帰投途中で予定を変更し、ピッタの南にあるモエリに向かった。もちろん、敵側の反撃に備えて対空、対潜警戒を厳にした上である。


 当初の予定にはない寄り道となったが、幸いにもこの間に敵襲はなく、A2任務部隊はピッタ出港4時間後にはモエリに無事到着した。


 現地のエルフたちが突如現れた大艦隊(現地のエルフには大艦隊に映った)に、慌てるというハプニングもあったが、ピッタのエルフたちをここで降ろし、改めて帰還の途についた。


「慣れない仕事はするもんじゃないな、さ、今度こそ帰るぞ」


 エルフたちに見送られ、A2任務部隊は今度こそ黎明島へと舵を向けた。


 ちなみに、モエリまでピッタのエルフたちを送り届けたことで、カールセンらには後日イルジニア政府から勲章が送られることとなる。当人たちは総司令部の方針に従って民間人を保護しただけであり、しかも人数も多くなかったことから、これは望外の厚遇であった。


 イルジニア政府としても、今やなくてはならない異世界の同盟国に対して、それなりに気を遣ったということだ。


 そしてこの件は地球側メディアも知ることとなり、A2任務部隊の将兵は一躍英雄として扱われることとなり、実際の戦果以上のプロパガンダ効果を上げることとなった。もちろん、A2任務部隊の将兵たちにとっても、悪い話ではなかった。


 もっとも、カールセンは勲章を受け取った直後、周囲に「勲章より高速戦艦が欲しい」と愚痴をこぼしたらしいのだが。


 彼が所望する高速戦艦である「ノース・カロライナ」級戦艦が竣工して、異世界方面に配備されるのはこの4年後のことである。



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