大陸反攻 ④
作中でバルダグ軍兵士が距離や方位を口にしていますが、距離はmで方位は地球と同じ360度で示しています。本来はオリジナルの単位を定めるとリアリティ増すのでしょうが、わかりやすさからこのようにしています。
「敵艦確認!距離10000!方位095!」
遠視の魔法を使った魔術師が、ピッタに接近しつつ艦砲射撃を加える敵艦の姿を捉えた。
「投石器発射用意!」
ピッタを守備するバルダグ軍第32軽騎兵連隊連隊長のラーカ大佐の、力強い命令が響くと、部下の将兵たちが投石器の発射準備を進める。
投石器と言っても、地球でよく見かける錘を使いテコの原理で発射するそれとは全く違う形をしていた。木製の砲身のような台の上に、金属の板が敷かれている。その砲身部分は角度を調節できるようになっていて、最後部に留め具が設置されていた。
このバルダグ製投石器の発射原理は、重量化の魔法を込めて重くした鉛玉(信管の技術がないため単なる玉)もしくは、導火線式の簡易な炸裂弾を、魔力を込めたレール上を滑走させて発射するというものである。かつては弾ではなく、石を発射していたために投石器と未だに呼ばれている。
後の時代に「魔法を使用するリニアレールガンのようなもの」と説明する識者もいるが、実際加速させる方法が磁力か魔力かの違いに過ぎないとも言えて、しかも煙などは発しないので火薬式の大砲よりも近いとも言える。
モラドア人が炎や風などを操る直接的な攻撃魔法を得意とするのとは対照的に、間接的に物体を飛ばす等転移系の魔法に長けたバルダグ人らしい兵器と言えた。もちろん、同盟を結んだ現在はモラドアにもこの技術が供与されている。
ただし魔力だからと言ってその射程はバカに出来ず、魔力の注入具合と砲身の角度さえ間違わなければ、1万m以上も飛ばすことが出来た。
もっとも、あくまで飛ばすことが出来るという話で、実際の戦場でそんな遠距離で発射することなど稀だ。彼らの常識からすると、射距離はどんなに伸ばしても5000m以内である。
しかし今回、異界の軍艦はバルダグ軍の常識からしたら超遠距離にあたる1万m近くの距離から艦砲射撃を実施しており、ラーカらは理論上の最大射程での攻撃と言う、前代未聞の射撃を実施することとなった。
このため目標の捕捉と弾着観測を、遠視と言う視力強化の魔法に長けた兵士が高台から行う。地球と同じくこの惑星も丸いため、肉眼だけでは敵艦の姿を捉えきれないからだ。
「魔力充填急げ!」
発射に魔力を使用するため、砲身部分の金属に魔力を注がなければならない。このため、投石器使用係に任命された兵士が魔力の充填を開始する。
「砲手!魔力の同調始めろ!」
「はい!」
砲手であるレフラ・ヨーキ中尉が自らの魔力を砲弾に注ぎ込む。ここで重要なのは、他の兵士が砲身に当たる金属部に魔力を注入するのに対して、彼女だけは砲弾に魔力を注入することだ。
「観測手、敵艦に関する情報を砲手に送れ!」
「了解!」
観測手は自分が今見ている敵艦の位置や艦影を、念映でレフラに送る。念映は念話が言葉を伝える魔法であるのに対して、こちらは映像を伝える魔法である。
レフラの脳裏に、観測手が見ている敵艦の姿や砲との位置関係などのイメージが送られてくる。
それをもとに、レフラは砲身の方位や角度を伝える。
(速い!)
彼女が思ったのは、目標とする敵艦の速度であった。この時攻撃中の米艦隊は20ノットの速度で艦砲射撃を実施していた。地球の艦艇の速度としては高速とは言えない速度なのであるが、未だに主力の艦船が魔法で加速できるとは言え、木造の帆船であるバルダグの基準からすれば超高速と言って差し支えなかった。
レフラは第32軽騎兵連隊の中でも特に魔法の資質に優れた、高等魔術師であった。軍歴などから階級こそ中尉であるが、魔法の腕だけで言えば連隊長のラーカよりも優れていた。それゆえに、このピッタに配備された投石器の砲手に任命されていた。
静止目標であれば、レフラも命中させられる自信があった。しかし投石器による移動目標への攻撃は、彼女も初めてであった。
「砲身への魔力充填完了!」
「よし!頼むぞヨーキ中尉!」
「了解・・・用意」
レフラは精神を集中させる。
「撃て!」
狙いを定めてここだ!と思った瞬間、彼女は砲身に充填された魔力を解き放つ。それとともに、砲身が強烈な光を発し、セットされた砲弾も強烈に発光しつつ弾き出された。
(お願い・・・当たって!)
レフラは自分の魔力を注入し、同調させた砲弾が目標に向けて飛んでいくように、観測手から送られてくる念映をもとに、砲弾を誘導する。
そして。
艦の後方から何かが激しくぶつかり、ひしゃげる音がカールセン中将の耳に飛び込んできた。
「何が起きた!?」
「報告!カタパルト上の水偵に何かが直撃しました!」
「ヒューストン」は艦の中央部にカタパルトと水上機の格納スペースを設置し、今回の作戦には複葉の「シーガル」水上機を2機搭載してきていた。この内1機は現在弾着観測に出動中であったが、もう1機はカタパルト上に載っていた。
その「シーガル」に何かが当たったらしい。
「何かって何だ!?」
水兵の要領を得ない報告に雷を落とすが、当の水兵も困惑していた。
「わかりません!ただ普通の砲弾や爆弾ではないようです」
「まさか魔法か!?」
モラドア人やバルダグ人が科学ではなく魔法を発達させ、攻撃手段として用いていることはカールセンも当然ながら聞き及んでいた。そしてその兆候は確かにあった。艦砲射撃の目標地点から少し離れた内陸部に、強烈な光が発生した。衝撃が襲ったのはその直後であった。
カールセンが知りえる情報では、海上の艦艇に有効な打撃を与えられる魔法などないはずであった。攻撃系の魔法は基本的に陸上で近距離でしか効果を発揮できず、また物を転移させる魔法も長距離に物体を飛ばす場合には、高い能力の魔術師ではなくては出来ないと報告されていた。
だから例え転移系魔法が得意なバルダグ人でも、艦艇に有効となりえる攻撃方法、例えば多量の爆薬を送り込むとか、大量の白兵戦用兵士を送り込むには、相当な労力が必要であり、可能性としてはありえないとされていた。
そのため、カールセンらは魔法での攻撃にはほとんど注意を払わず、翼竜による空襲や海獣による水中からの襲撃を警戒していた。
しかし現実には、陸のバルダグ軍はこちらに攻撃を仕掛け、被害が発生していた。
「後部甲板にて火災発生!」
「なんだと!?敵弾によるものか!?」
「いえ。カタパルトから落下した「シーガル」が破壊炎上したものです!」
どうやら直撃を受けて破壊された水上機のガソリンが漏れ、何かの拍子で着火して燃え始めたらしい。
「ダメコン・チーム、消火急げ!・・・おのれ、俺の「ヒューストン」をよくも傷物にしやがったな!反撃だ!!百倍、いや千倍にして殴り返すぞ!!!」
「アイ・サー!」
その後弾着観測中のもう1機のシーガルから、敵の大型兵器らしきもの発見の報告が入った。
「敵艦に火災を確認!」
観測手からの報告に、投石器を操作していた第32軽騎兵連隊の面々は歓声を上げた。
「ざまあ見やがれ!」
「魔法の力を思い知ったか異界人どもめ!」
そんな中、見事砲弾を直撃させたレフラの肩を、ラーカが叩く。
「よくやったぞ!」
「あ、ありがとうございます・・・」
レフラはその場に座り込んでしまった。砲弾の誘導のために魔力と体力を消耗した結果だった。
その時、彼らの頭上を1機の異世界の飛行機械が通り過ぎた。
「いかん!見つかったか!?」
ラーカの不安は、数分後的中した。先ほどまで行われていた異世界の艦隊の艦砲射撃が一時中断した。そして、間をおいて再開された。
砲弾が落下する音が、先ほどまでとは比較にならない程大きく聞こえてきた。
「退避!!」
と逃げ始めるが、時すでに遅し。次々と20、3cmから10、2cmまでの各種砲弾が彼らの頭上に雨あられと降り注いだ。
「ああ!投石器が!?」
苦労して発射し命中弾を出した投石器がいの一番に目標となり、破壊された。
ただし、これはある意味幸運でもあった。
「バカ!投石器と同じ目に遭いたくなければ少しでも山に向かって逃げろ!」
投石器が破壊される様子に狼狽える部下に、ラーカは声を上げる。実際、この時米艦隊の砲撃は投石器周辺に集中しており、また砲撃精度の関係から、最初の方の砲弾はまだ少しばかり距離を置いた場所に着弾した。そのほんのわずかな時間であったが、ラーカたちは退避する時間を得ることが出来た。
投石器は粉々に吹き飛ばされたが、幸いなことに連隊の戦死者はこの時点でわずか5名に留まっていた。
とは言え。
「こりゃダメだ」
隊員こそ内陸方面に避難したおかげで被害は最小限度で収まったが、ピッタの村周辺に彼らが構築した桟橋や倉庫、兵舎に陣地といった各種施設は軒並み艦砲射撃で撃砕されてしまった。
「もっと内陸に建てておくべきだった」
次の戦いに備えて溜めていた各種物資どころか、日常生活に必要な食糧なども全て灰燼に帰してしまった。
しかも、彼らにとっての不幸はまだまだ続く。
一通りの施設の破壊を確認したカールセン中将は、被害を被った「ヒューストン」の復仇とばかりに、本来の作戦案にはなかった作戦を実施した。
「よし、敵の反撃もなくなったし。陸戦隊を上げよう!」
「え!?いいんですか!?そんなことして!」
「敵の翼竜による空襲などがあるかもしれません。予定通り撤退するべきでは?」
と部下の一部は慎重な意見を口にしたが、カールセンは強気だった。
「「ラングレー」の艦載機を上空援護に充てて置けば大丈夫さ。それに予定にはない行動だが、一方でやってはいけないということでもない。むしろ、敵の新兵器に関して情報を得るいい機会だ。これは偵察任務にも合致する。各艦に陸戦隊の編成を命じろ。それから「ラングレー」は上空援護、その他の艦は引き続き艦砲で援護だ」
こうして、全く予定になかった陸戦隊による上陸作戦が発令された。ただし、占領目的ではなく情報収集を目的とした威力偵察であった。
それでも、A2任務部隊の将兵らの士気は高く、彼らは艦内に搭載されていた小銃や軽機関銃で急ごしらえの武装を済ませると、沿岸部に接近した各艦から、艦載の内火艇やランチによって上陸を開始したのであった。
御意見・御感想お待ちしています。




