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大陸反攻 ③

 いわゆるイルジニア大陸は、一番狭い所で幅50km。逆に一番広い所で1000km程ある。この内幅が狭くなるのは大陸の南端であり、現在戦線が形成されている大陸中央部の横幅は概ね700~1000km程だ。


 このため、攻める側のモラドア・バルダグにしろ、守る側のイルジニアにしろ、前線全てに兵隊を張り付けているわけではない。もちろん、前線が広いだけでなく大陸そのものが途中で山脈や、河川、広大な荒野と言った軍隊の移動や定住に不向きな地形を抱えているということもある。


 そのため、草原のように平坦で開けた地域であれば、数十キロにわたり戦線が展開される。しかしそうではない場所では、基本的に陣地があり兵隊がいるのは街であり、村周辺である。つまりは、陣地が作られるのは一定の拠点足りえる条件を備えた場所であり、またその補給線は街道や海路が頼みとなる。


 最初の連合軍の反攻において、各国陸軍が攻撃を行ったのは前線の西部側(北を上とした場合左翼側となる)であり、この地域は比較的平坦な土地で、攻勢が行われた前線の幅は200km程であった。


 では残る東部側(同右翼側)に対してはどうなったかというと、この内前線東端(最右翼)から250km圏内に関しては、各国空軍により航空攻撃が行われた。これは先日まで陸軍の侵攻予定地に事前爆撃を加えていた爆撃機を転用して行われた。


 一方航空戦力による事前攻撃後に進軍した各国陸軍は、その近代兵器に物を言わせて前線を北へ20km程押し上げると、そのまま攻勢軸を右翼に転回し、奪還地域を広げるように動く。つまりは大陸の東西に渡って20km戦線を押し上げるのである。


 もっと戦力が潤沢であれば、より北に向かって攻勢を行い得たが、現状の戦力ではこれが精一杯であった。


 ちなみに今回の攻勢で用意された戦力は日米独英に、当事者たるイルジニアも含めて5個師団約6万名の戦力であった。この他に各軍総計して3個師団が用意されていたが、これは戦略予備と奪還地域の守備を行う部隊である。


 その陸軍部隊を支援するために、大陸西岸沿いには進出した日英独艦隊が展開し、沿岸部の敵部隊掃討や、沿岸航路の封鎖。さらに搭載機による攻撃を行った。


 艦隊の弱点は航空機を除けば、艦砲の射程圏内でしか攻撃力を発揮できないの一言に尽きる。逆を言えば、艦砲の射程圏内にいる敵に対しては絶大な威力を発揮することができた。


 無論既にモラドア軍が海獣を哨戒部隊として利用しており、場合によっては攻撃にも使用可能と言う情報も得ているので、各国艦隊は対潜哨戒に労力を向ける必要もあった。それでも、艦隊は陸軍の攻勢を海上より支援した。


 特に沿岸部に設けられた補給拠点や、海岸沿いの街道を利用する敵部隊の掃討に、艦隊は大威力を発揮した。当然である。例え一番小口径の駆逐艦の主砲でも、陸上では大口径砲となる。いわんや日本海軍の「伊勢」型戦艦の36cm砲や、英海軍のR級戦艦の38cm砲、そしてそれより一回り小さいドイツ海軍の装甲艦の28cm砲でさえも、要塞砲レベルの巨砲となる。


 なので艦砲射撃を食らったモラドア軍部隊は大打撃を被ることとなった。


 一方、今回の作戦では大陸東岸側にも艦隊が進出した。その艦隊はマイク・カールセン中将率いる米艦隊であった。


「目標距離1万!主砲交互撃ち方始め!」


「オープン・ファイア!」


 左舷側に指向した旗艦である重巡洋艦「ヒューストン」の主砲が轟音を発して20、3cm砲弾を撃ち出す。


「弾着今!」


 発射からしばらくして、目標となった港に着弾を示す水柱と火柱が上がる。


「目標に命中!」


「よし、斉射!」


「アイ・サー!」


「ヒューストン」の3基の3連装主砲から次々と砲弾が撃ち出され、目標へと叩きつけられる。今回目標としたのは、とある大陸東岸の沿岸部の漁村に設けられたバルダグ軍の補給拠点である。港に停泊する帆船や、運ばれてきた物資を備蓄する倉庫などが次々と米艦隊の砲弾の前に爆砕されていく。


「いいぞ。しっかりと目標を破壊している。さすがは俺の艦隊だ」


 A2任務部隊司令官となったカールセンは、次々と目標を捉える自軍艦艇の砲弾を眺め、上機嫌であった。


 それもそのはず。カールセンの指揮する艦隊は元々異世界におけるアメリカの権益保護のために派遣された戦隊で、開戦前は軽巡「マーブルヘッド」と平甲板型駆逐艦4隻からなる小部隊であった。しかしモラドア・バルダグ軍による黎明島空襲の際にはその所属艦である駆逐艦「スチュワート」を大破させられて、辛酸を舐めている。


 このため、カールセンは異世界の敵に対する復仇を望んでいたのだが、米海軍としての一番槍は結局空母機動部隊であるA1任務部隊に奪われてしまった。


 カールセン指揮する派遣戦隊はA2任務部隊と改称し、重巡洋艦「ヒューストン」、軽巡「ローリー」と駆逐艦4隻などが増強されたものの、しばらくは開戦前と同じく漁船団の保護や、近海哨戒などの任務しか与えられず、無聊を託っていた。


 しかし今回、新たに軽空母の「ラングレー」を編入したA2任務部隊は、遥々大陸東岸に進出し、敵情偵察と攻撃を命じられたのであった。もちろん、カールセンら艦隊乗員が拍手喝采したのは言うまでもない。


「ラングレー」が編入されたのは、もちろん航空機による上空援護と哨戒のためである。給炭艦改造の「ラングレー」は米海軍初の航空母艦で、「レキシントン」級とともに黎明期の米海軍空母の運用蓄積に多大なる貢献をしてきた。


 しかし現在米海軍では新型航空母艦の「レンジャー」が竣工し、さらにより大型の正規空母である「ヨークタウン」級の計画が進められている。


「弾着観測機より入電。敵沿岸部の陣地に多大なる損害を与えつつありとのこと。砲撃の続行を要請しています」


「よし!弾着観測機の指示に従い砲撃続行だ。しかし、巡洋艦でこれならば、俺たちも戦艦を持ってくるべきだったな」


 カールセンは少しばかり悔し気に言う。


 米海軍もこちら側に戦艦「アリゾナ」「ペンシルバニア」を連れてきている。しかしながら、米海軍の戦艦は最高速力がいずれも21ノット程度で機動力に劣る。加えて主力艦たる戦艦を大陸東岸と言う未知の海域に差し向けることに、米海軍としても躊躇せざるを得なかった。


 もっとも、実際の所大陸東岸に目立った脅威は見受けられなかった。警戒はしていたが、空襲も水中からの襲撃もなく、A2任務部隊はやすやすと進出し、バルダグ軍の陣地に攻撃を仕掛けていた。


 もちろん、その結果バルダグ側の港や陣地には、20,3cm砲弾、15,2cm砲弾、10,2cm砲弾が雨あられと降り注ぐこととなった。




「おのれ異世界人どもめ!」


 この時砲撃を受けていたバルダグ軍の最高司令官は、第32軽騎兵連隊連隊長のズマ・ラーカ大佐であった。彼の部隊は名前の通りの騎馬隊で、兵士は馬上での剣や魔法の扱いに長けた将兵から編成されていた。


 なおバルダグは有力貴族による領邦制を採っているので、第32軽騎兵連隊も本来は北東部の貴族領から出征した部隊である。


 イルジニア侵攻にあたっては、その機動力に物を言わせて高速で街道を南下、次々とイルジニア軍を撃破し、去年の9月には現在地まで進撃してきた。


 本来であれば、補給線が確立されて後方からの補充と増援と合流次第、さらに南部への進撃を行う筈であった。ところが、12月に行われた転移魔法を用いた敵臨時首都ガランガンへの奇襲攻撃が大敗北に終わったことで、進撃が一端中止された。


 第32軽騎兵連隊はやむなく、拠点が作れる漁村に簡単な補給用の設備と、陣地を構築して進撃再開の時を待った。


 ところが、5月にモラドア・バルダグ軍の重要な兵站拠点の一つであるレグプールが爆撃を受けたために、本来であれば第32軽騎兵連隊に合流する筈だった部隊が、他所の戦線に転用されてしまった。


 そんなこんなで、第32軽騎兵連隊は実に8カ月間もこのピッタという地図にも載っていなかった小さな漁村に駐留するしかなかった。


 海路と陸路双方により補給は十分で、兵たちが飢える心配はなかったが、一方で怒涛の勢いで行っていた大陸南部への進撃に急ブレーキが掛かったばかりでなく、辺鄙な地域に長期間の駐留を余儀なくされたことは、ラーカら32軽騎兵連隊の士気を著しく下げる結果となった。


 それでも、万が一の敵の襲撃に備えて、街道の南向きには敵兵の進撃を防ぐための障害物やトラップを設置するとともに、空からの攻撃に備えての退避豪造りや、迅速な反撃を行うための機動戦訓練などは何度となく行っていた。


 ラーカの懸念としては、ピッタ近辺には翼竜を展開させられる場所がなく、一番近い翼竜隊の基地から150kmも離れていることであった。


 転移魔法で瞬間移動させればいい・・・と言う簡単な問題ではない。と言うのも、もし翼竜を転移させようとするならば、空中で転移魔法を翼竜に術者が乗って直接発動するか、もしくは地上から転移陣を上空に作り出して行う必要がある。


 しかしながら、直接翼竜に乗って行う方法は術者によって能力にバラツキがあるという、魔法特有の問題があった。これにより単騎ならともかく、複数騎を送り込むことが出来なかったのだ。


 また地上から転移陣を作り出す方法は黎明島攻撃にも使われた方法で、複数騎を確実に同じ場所に送り届けられるが、高い能力の術者をそれなりの数で揃える必要がある。大作戦に備えての状況ならともかく、今回のような突発事態には対処しづらい。


 そのため、ラーカは翼竜の支援を要請したものの、飛来するまで時間が掛かることと、その数がそれほど多くないことはわかりきっていた。


 だからこのまま敵の攻撃が終わるまで頭を抱えているか、何らかの方法で反撃するしかなかった。


 そしてラーカの選択は後者であった。


「このままやられるわけにはいかん!投石器を出せ!何としても一矢報いるぞ!」


 ここに、地球の近代艦艇VSバルダグ軍による初めての戦闘が開始されようとしていた。


 




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