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新たなる脅威 ④

「間もなく敵陣地上空だ。周囲への警戒を怠るな!各機にも伝達!」


 B10爆撃機の操縦桿を自ら握る米陸軍航空隊ヘッドワード中佐は、伝声管越しに部下へと指示を出す。彼を含めた26機のB10爆撃機の編隊は、間もなく目標地点であるモラドア軍陣地上空に差し掛かろうとしていた。


 翼竜による迎撃もあり得るので、彼は自機の乗員と僚機に警戒を厳にするよう促していた。


 その爆撃隊の周囲を、護衛であるP26戦闘機12機が速度を合わせて蛇行しながら飛行している。


 空を圧するとまではいかないが、双発爆撃機と戦闘機合わせて40機近い堂々たる編隊に、ヘッドワードら搭乗員たちの士気は高い。加えて、彼らが操縦する機体もまた、その自信の源泉になっていた。


 今回彼らが操縦する爆撃機B10は初飛行から既に3年経過しているものの、全金属製引き込み脚と言う近代的な容姿を持った機体で、最高速度も340kmを越えた快速機である。


 護衛の戦闘機も固定脚ながら単葉のP26で、まだまだ複葉全盛のこの時期に置いては、あか抜けたスタイルをしている。


「今まで日本人や海軍の連中ばかりにデカイ顔させていたが、それも今日までだ。魔法使いの連中を吹き飛ばして、合衆国陸軍航空隊の底力を思い知らせてやる」


 3週間前、レグプールに対する日米機動部隊よる空襲の大成功は、ヘッドワードら陸軍航空隊の搭乗員たちを悔しがらせた。

 

 昨年末のモラドア・バルダグ連合軍によるガランガン奇襲時点では、まだ爆撃隊は到着しておらず、戦闘機隊が戦闘に参加しただけであった。


 その後米本土より新品のB10を引っ提げて到着したヘッドワードらは、ガランガン近郊の基地で訓練と必要物資の集積を行いながら、最前線に近い飛行場の完成を待って出撃することとなった。


 2カ月の訓練で搭乗員の技量も向上し、この地の風土にも慣れ始め、さらに同様に空軍の部隊を送り込んだドイツ軍に対抗意識を燃やしたヘッドワードらは、モラドア軍の前線へ爆弾の雨を降らせる日を心待ちにしていた。


 しかしそんな彼らよりも早く、海軍航空隊が大活躍をして新聞の1面を飾ったのだから、面白い筈がなかった。


「海軍や日本の連中を見返す!」


 それが米陸軍航空隊の搭乗員たちの合言葉になっていた。そしてレグプール空襲から遅れること3週間、ようやくその機会が巡ってきた。


 この日彼らは、最前線から約100km後方に設置されたウイザード・フィールド基地より、勇躍出撃していた。 


 レグプールへの空襲の場合は奇襲となったため、事前の偵察行動は行えなかった。そのため、目標の情報は現地に残留するイルジニア人からの情報だよりとなった。ただし、目標自体の数を絞ったため、また敵軍が以前イルジニア軍が使用した設備を流用して利用したため、目標の発見は容易であった。


 しかし今回の最前線への空襲は、広い範囲に展開した敵軍を爆砕する必要がある。そのため、今回出撃した米独含めた派遣軍の各航空隊は偵察機を発進させて、敵軍の展開状況の把握に努めた。


 この偵察の結果、前線周辺に散らばる敵の陣地や物資集積所、地竜基地、さらには物資輸送用の道路の位置などが判明した。加えて、偵察機に対しての敵の翼竜による迎撃から、敵の航空戦力の展開状況もイルジニア軍からの提供情報と合わせて、ある程度把握することができた。


 予定では、ヘッドワードらはドイツ空軍と協力して、それらの目標を数度に渡る反復攻撃で殲滅する予定であった。


 その作戦の最初の爆撃目標として今回選ばれたのは、地竜基地であった。地面に潜り、戦車をもひっくり返すだけの力を持つ地竜は、派遣軍各軍にとっても深刻な脅威であった。そのため、その基地は最優先攻撃目標であった。


 ヘッドワード座乗機を含め、B10爆撃機には500ポンド爆弾4発、或いは250ポンド爆弾6発が搭載されていた。敵の地竜基地を吹き飛ばすには充分な量だ。


 とは言え、それは無事に全機が目標へ向けて投下出来たらの話だ。もし敵の翼竜、特にレグプール空襲で確認された火炎発射型の新型騎(派遣軍では炎龍という仮称を付けていた)が出てこれば、いかに高速爆撃機と謳われるB10でも被害を被る。


 だからこその護衛戦闘機であったし、また機銃座に付く乗員たちも気を引き締めていた。


 だが敵の迎撃はないまま、敵基地上空に到達する。空は所々雲があるものの、爆撃を行うには支障のないレベルで、偵察機が撮影してきた写真通りの風景が眼下に広がる。


「爆撃開始!」


 ヘッドワードの命令とともに、各機は爆弾倉扉を開いて爆撃態勢に入った。そして、爆撃手が照準器を覗きながら照準をつけ、「投下」という言葉とともに爆弾を落とす。


 各機2~4発ずつであるが、それが26機もいればそれなりの量になる。爆弾投下からしばらくして、地上でその炸裂を示す閃光が何回も起きる。


 所々外した爆弾も見受けられるが、その多くは地竜基地やその至近に着弾していた。


「半分くらいは目標を捉えたようです」


「よし、上出来だ」


 ヘッドワードは部下からの報告に、満足気に頷く。


 今の所敵からの反撃はなく、被害はゼロである。エスタル会戦では敵兵が光弾を空に向かって放ち誘導したという報告があったが、今回はそうした反撃もない。恐らくこちらの高度まで発射できないのだろう。


(高度3000の爆撃機に効果的な反撃が出来ないとなれば、水平爆撃の効果は大きいな)


 これは大きな収穫である。機銃掃射や急降下爆撃はピンポイント攻撃が出来るが、どうしても敵の反撃を受けやすくなり、被害を出してしまう。


 しかし敵が高度3000m程度の飛行機にも手出しできないとなれば、多少の命中率を犠牲にしても、水平爆撃の方が有用と言うことになる。そうなると、多数の爆弾をバラまける重爆撃機の価値も高まるという寸法だ。


(そうなれば、今後の爆撃機の量産にも弾みがつく)


 米国において平時の兵器生産量は最低限に抑えられてしまい、当然爆撃機の生産数もそう多くはない。しかしながら、今回の実績を持ちかえれば、さらに量産機の予算がつくかもしれない。


(それに、敵の翼竜も出てこない。敵の迎撃騎が来ないとなれば、戦闘機も不要だな)


 B10爆撃機は登場時は戦闘機よりも速い爆撃機であった。現在は後発の戦闘機に追いつかれたが、今後新型爆撃機が出現すれば、また戦闘機よりも速くなる。そうなれば、戦闘機の護衛はいらない。


 ヘッドワードの頭に、戦闘機無用論がちらつく。


 しかしそれはまもなく部下が「敵騎!」と叫んだことで、敢え無く粉砕された。


「ち!さすがに出てきたか・・・戦闘機隊、頼むぞ!」


 ヘッドワードに言われるまでもなく、爆撃隊に付き添っていたP26が編隊から離れ、接近する敵騎の方へと向かっていく。その様子を、ヘッドワードも持ち込んでいた双眼鏡越しに見守る。


「敵騎の数は10騎にも満たんようだな」


 ヘッドワードは強張った顔を緩ませる。確かに敵の翼竜が上がってきたようだが、明らかにこちらの戦闘機より数は少なかった。改良型が出現しているとのことだが、飛行性能はこちらの戦闘機を圧倒するような部分を持ち合わせていないとされていた。現にエスタル会戦でも、レグプール空襲でも、こちらの戦闘機は相応に翼竜を撃破している。


 戦闘機隊がボンクラでもない限り、爆撃機に近づくことなど出来ないだろう。


 とは言え、いきなりの奇襲もありえるから油断は禁物であった。そんな時、ヘッドワードは妙なものを見つけた。


「何だ?偵察機か?」


 翼竜ではなく、明らかに飛行機が自分たちの編隊に近づいてきていた。それも単機である。戦闘機が戻ってきたにしては、単機はおかしい。そうなると、味方の偵察機の可能性だが、ヘッドワードは妙に引っかかるものを感じた。


 そしてその違和感を増幅させるように、その機影は急速に接近してきた。いや、突っ込んできたと言ってよかった。


「バカ野郎!」


 悪態を吐きながら、ヘッドワードは機体を急旋回させた。その直後、突如銃撃音が響き渡った。


「何!?」


「隊長、今の奴が撃って・・・ああ!2番機被弾!」


 ヘッドワードの機体は間一髪避けれたが、後続する2番機が被弾したようだ。部下の声からして、目に見えるダメージを負ったのだろう。


「シット!どこのどいつだ!?味方を撃った大バカ野郎は!?」


 飛行機である以上、相手は地球側の連合軍所属機以外ありえない。明らかに相討ちである。


「ガッデム!隊長!あいつまた突っ込んできます!」


「迎撃しろ!当たっても構わん!正当防衛だ!!」


 本来なら翼を振るなどして味方であることを知らせるべきだろうが、相手が突っ込んでくる以上、悠長なことをしてられない。ヘッドワードは反撃を命じた。


 途端に、後部に設置された7,62mm機銃の発射音が聞こえてきた。そしてその音と重なるように、自分たちに向けて撃たれた銃撃音と、エンジンの爆音がこだました。


 ガン!ガン!と鈍い被弾の音と衝撃がヘッドワードにも伝わる。彼は機体を滑らせて回避に掛かっていた。そして、その横を敵機が通り過ぎる。


(一体どんなバカ野郎だ!)


 敵機が抜き去る瞬間を、ヘッドワードは目に焼き付けようとした。そうして飛び込んできた光景に、彼は愕然とする。


「な!?」


 それは明らかに金属製の単葉の機体。一瞬のことなので自信はなかったが、恐らく海軍の最新鋭艦爆のSBNだ。だがその塗装は見覚えのあるそれだったが、胴体に描かれるべき国籍を表す星のマークが、塗りつぶされていた。そしてもっと驚愕するべきことに。


(無人だと!?)


 ほんの一瞬、それでも見えたコクピット。だがその中に、人影は見えなかった。


 そして次の瞬間、機首の銃座がその機体に一撃を加えた。


「やった!」


 SBNが煙を吐き始めた。明らかに動きが鈍くなる。


 そこへ、翼竜との空戦を終えたP26が飛び込んできた。P26はあっさりとSBNの後ろに付くと、後部機銃の反撃をいなしながら、機銃を撃ち込んだ。


 P26の銃弾を浴びせられたSBNはついにトドメを刺され、主翼が折れてバラバラになりながら落ちて行った。


 空戦はあっという間に終わった。ヘッドワードにはそれが悪い夢のように感じられたが、現実に彼の編隊の2番機は損傷し、煙を吐いて高度を落としていた。


「2番機を援護するぞ!」


 ヘッドワードは損傷した2番機を援護するため、機体を旋回させて高度を落とした。


 その後、2番機はなんとか味方の勢力圏にまで入ったものの、結局損傷によって帰還は無理であった。そこで力尽き、不時着を余儀なくされた。幸いパイロットは助かったが、機体は全損であった。


 ヘッドワードの機体も、飛行には差し支えなかったが、基地に着陸すると5発の被弾が確認され、明らかに銃撃によるものであった。


「これはどう言うことだ!?」


 出迎えた航空隊司令のロッシュ大佐も、ヘッドワード機の損傷を見て、驚愕を隠せなかった。味方機が損傷する可能性は考えていたが、銃撃はさすがに予想外であった。


 彼はすぐにヘッドワードに聞き取りを行った。


「海軍のSBNだと?しかし、あの機体は基地航空隊にはないし、空母艦隊は今修繕のためにシンカイドウに戻っているはずだぞ?」


 ヘッドワードの知る限り、前線上空にSBNが出現する可能性は皆無であった。


「ですが、間違いありません!自分は間違いなく見ました。あれは海軍のSBNです!」


 ロッシュとしては悪い冗談にしか聞こえなかったが、ヘッドワードが嘘を吐く理由などない。


「よし、海軍に照会してみよう。中佐、そのSBNのマークか何か、思い出せることがあったら教えてくれ」


 ヘッドワードはじめ、目撃者よりの聞き取りをロッシュらが行うと、幸運なことに尾翼に描かれていたナンバーを覚えている搭乗員がいた。


 ロッシュは直ちに、その情報を含めて派遣軍総司令部経由で海軍に照会した。


 そして、判明した事実はロッシュやヘッドワードだけでなく、派遣軍総司令部全体を驚愕させた。


 何故なら、該当するSBNは先日のレグプール空襲で、敵の炎龍に撃墜されたはずの機体であったのだから。



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