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新たなる脅威 ③

 お待たせしました。

「これが異界の国!」


 モラドア軍少尉イアチ・ナイレは、客船「曙光丸」の甲板から見えてきた横浜の街を見て、目を見張る。


 というより、船が浦賀水道を進み東京湾に入ってから、彼女は目を見張りっ放しであった。まず水道を通過する船の数に目を見張り、そして両岸に見えてきた街並みに目を見張った。


 彼女は魔術師として、帝都パロルンドの魔術師養成校に在校した経歴を有している。そのパロルンドは帝国随一の都市であったが、それでもこれほど大きな街並みを有していなかった。


「これはスゴイな。異世界人は魔法を使えないって聞いたけど、それなのにこれだけの国を作れるのか!」


 隣に立つヨハノ・ガルド大尉も感嘆の声を上げている。


 黎明島の捕虜収容所や病院でも、科学文明に触れていた二人であるし、新海道の道都朝陽市も巨大な都市だと思っていた。


 しかし今二人の眼前に広がる横浜から東京に至る東京湾沿岸都市の風景は、さらに大きく立派に映っていた。


 ただ二人は知らなかったが、実際の所都市インフラなどの面で見れば、後発の朝陽市の方が充実している。


「さ、お二人とも。間もなく船が横浜港に接舷します。下船の準備を済ませてください」


 付き添ってきた海軍憲兵が、二人に下船の準備を促す。


「やれやれ。快適な船旅もこれで終わりか」


「なんか、名残惜しいですね」


 戦闘で異世界の軍の捕虜になった二人は、新海道にある士官用捕虜収容所と病院にそれぞれ収容されていた。しかしながら、レグプール空襲からちょうど1カ月ほどして、彼らは今度は異世界の日本本国へと護送されることとなった。


 その理由は詳らかにされなかったが、これまでの異世界軍の対応を見るに、何か重要な理由があるようであった。その証拠に、護送されるのは士官である二人だけで、しかも護送と言ってもその待遇は上等なものであった。


 確かに四六時中監視は付いているが、捕縛されることも手錠を掛けられることもなく、少なくとも船内では自由に歩き回れた。


 そして船内の設備も、彼らが知る限り最高級のものだった。決して広くはないものの、一人一人個室が宛がわれ、寝台も上等であった。また冷暖房が完備された客室は快適であった。食事も捕虜収容所や病院で出されたものより数段上のものが提供された。


「科学を極めるとここまで出来るのね」


「ああ、魔法の方が優れているところもあるけど、全体的には彼らの使う科学力の方が上だね」


 イアチもヨハノも、地球の科学技術に驚きっ放しであった。それと同時に、彼らが自分たちより劣るとはいえ、魔法が使えるイルジニアのエルフたちと同盟を結んでいることと合わせて、恐ろしさも感じた。


「それに船の数も多い。荷を運ぶ船ばかりのようだが、この船のように人が乗る船もそこそこ見受けられる。異世界と言うのは、海運が発達しているのだな」


 横浜港に憩う膨大な数の船の姿。それもまた、二人には新鮮であった。彼らの船に対する常識と、異世界のそれとは大きな隔たりがあった。


 例えばの話。魔法を技術の主体とするモラドアやバルダグでは、船の主力は木造帆船だ。地球人から見れば100年以上は遅れた代物に見えるが、帆走であっても風を操る魔術師の乗員が風を人工的に作り出して20ノットは得られる。また船内の生活も、地球の同じような帆船ならまず水不足に苦しめられる。しかし、異世界の場合水は水を生成する魔法が得意な乗員が魔法で作り出すので、使いたい放題とは言わないまでも、不足することはない。


 さらに船体自体に素材が老朽化しないよう、物体の時間停止魔法や保護魔法が掛かっているので、地球の船のように老朽化による修理や、漂着物除去のためにドック入りさせる必要もない。


 もっとも、バルダグにしろモラドアにしろ船を使用するのは重量物を運ぶ場合、すなわち貨物船としての用途が主で、客船として使うのはそれこそ海上を通らなければ行けないような地域が大半だ。大陸国家であり、陸運や竜等を使った空運で事足りてしまうからだ。


 そんなわけで、異世界人の二人からすればこれだけの客船を異世界人が魔法無しで有しているのは、単に技術的な部分だけでなく、文化的な差異からも大きな驚きであったのだ。


 しかし、二人が港内を眺めていられる時間は短かった。海軍憲兵に急かされ、下船の準備に掛かる。


 船が客船用埠頭に接舷すると、二人は物々しい警備と監視の中を移動させられた。そのため、随分とたくさんの視線を浴びてしまう。


「これでは、目立って仕方がない。なんとかなりませんか?我々は捕虜であっても、見世物ではないのですよ」


 これまで日本側の捕虜対応には満足していたヨハノであるが、さすがにコレには辟易してしまった。


「申し訳ありません大尉。お二人は本土にお迎えした初めてのモラドア兵で、だからこそ我々もここまでするのです。目立つのは列車に乗るまででしょうから、我慢してください」

 

 同道する海軍憲兵が、二人にそう説明をする。


 二人はそのまま同じ埠頭から小型の船へと載せ替えられた。海軍憲兵の説明によれば、内火艇という連絡艇だという。


「どうしてまた船に?」


 港に着いたのだから、そこから陸路を行けばいいものを。ヨハノもイアチも当然ながらそう思った。すると、海軍憲兵が苦笑いして説明する。


「これからあなた方をお連れするのは、我が海軍の中枢たる海軍省です。ですので、我々としては出来る限り警備は自己完結させたいのですが、陸を行くと色々と面倒がありまして」


 その言葉で、イアチは何となく事情が察せられた。


 日本には陸上の治安を守る組織として警察があり、また他国との戦争を行うために陸軍がある。そしてその陸軍は自前の警察組織(に近いもの)として憲兵隊を持っている。また海においても沿岸警備など海の警察である海上保安庁と海軍、海軍内部の海軍憲兵がある。さらに、鉄道の車両や駅などで司法権を行使できる鉄道公安職員や、その他にも管轄範囲が限られるが司法権を行使できる組織が幾つかあるのを、彼女は知っていた。


 今回の処置は、その縄張り争いの結果と言うことだろう。それと同時に、イアチは怪訝にも感じた。黎明島にいた時は、陸海軍それぞれの憲兵や警察、さらには鉄道公安職員なども、見る限りはよく連携出来ていた。それが日本本土では違うらしい。


(一体どうなってるのかしら?)


 その答えを、イアチたちはしばらくして知ることとなるが、これはそれぞれの省庁の本元、すなわち陸軍省、海軍省、内務省、海上保安庁(逓信省外局)、鉄道省が置かれている帝都東京と、外地であり異世界と言う特殊な地政学的存在である新海道との差であった。


 帝都東京と言う、日本の首都であるからこそ、それぞれの組織は自らに干渉されたくない。その一方で他所のことには干渉したい傾向があった。


 実際、戦争の影響で中止になるものの、後に計画された東京オリンピックの警備計画では、それぞれの組織の警備担当で大揉めが起きている。


 これに対して新海道は異世界側にあり、いつ地球と切り離されるかわからない特殊な事情がある。そのため、道庁をはじめとして駐留する軍や警察、道庁鉄道公安職員はそれに備えており、一体感があった。


 これがイアチの感じた違和感の正体であった。


 そうした日本の事情はともかくとして、イアチとヨハノは海上を経由して都内に入り、海軍省に最寄りの船着き場で内火艇から海軍の錨のマーク付きの公用車へと乗せ替えられた。


 そしてそのまま、短時間の走行で赤煉瓦の瀟洒な建物、海軍省へと入る。


「どうぞ、お二人ともこちらへ」


 省内へと通された二人は、その中の一室へと連れていかれる。


 するとそこには、如何にも偉そうな金のモールを提げた士官を含む、日本の海軍軍人と、背広を着た男が数名、椅子に座って待っていた。その中で、モールを提げた士官が二人に促す。


「ようこそ日本へ。ナイレ少尉にガルド大尉。君たちを歓迎するよ。私は海軍大佐の楠だ。長旅でお疲れの所悪いが、君たちにはるばる日本本土に来てもらったのは他でもない。君たちの知る情報について、教えてもらいたいからだ」


 楠の言葉に、ヨハノはともかくイアチは内心で首を傾げた。


(今さら私から何を聞き出そうって言うの?)


 イアチが喋れることは、少なくとも黎明島の捕虜収容所で喋りつくした筈だ。もちろん、話したのは機密でもなんでもない、当たり障りのない範囲の話であったが。また、道中ヨハノにも地球における捕虜条項について説明し、不必要なことはしゃべる必要がないと念を押していた。


 ただどちらにしろ、捕虜となっている二人には拒否権はない。地球側の捕虜条項を盾にとって、重要な情報を喋らないように注意するだけである。


(けど、これだけのお偉いさんをまじえての尋問・・・この間のレグプールの戦いで何かあったのかしら?)


 新聞などで見た限りでは、レグプールに対する日米軍の空襲は、一方的な結果になったようだ。もちろん地球側のプロパガンダも考えられるが、これまで散々地球の技術力を肌で感じ取ってきたイアチは、誇張だとしても、異世界の軍隊が大勝したのは間違いないと確信していた。


 だがその直後、捕虜収容所にいた時も終了した筈の尋問が再度行われた。その時彼女に応対したのは下級士官であった。ところが今回はわざわざ光る柱の向こうにある異世界、彼らの本国の海軍省で、しかも高級士官から直接である。


(よほど衝撃的なことがあったのかしら?)


「まずは、ナイレ少尉」


 一番偉いと思しき楠大佐が口を開いた。


「はい」


「君は魔法が使える魔術師だったね?」


「はい、そうです」


「では単刀直入に聞こう・・・君は死者を蘇らせる。もしくは破壊した物体を再生する魔法を知っているかな?」


「・・・は、はい!?」


 思わぬ質問に、イアチは間抜けな声を上げてしまった。しかしそんな彼女を笑うものは、楠を含めて一人もおらず、彼らの顔は真剣そのものだった。

 


 


 


 

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