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レグプール空襲 ⑦

 今まさに1機の94式艦上爆撃機が、フックに着艦用ワイヤーを引っかけ強制的に急減速して甲板上にドスンと落ちる。ワイヤーがフックから外されると、所定の位置まで前進していき、整備兵が群がる。


 降りてきた搭乗員らは、飛行メガネの跡をくっきりと目の周りに付けているが、その顔には疲労よりも興奮と歓喜の色がありありと浮かんでいた。


「やったぞ!格納庫に1発お見舞いしてやったぞ!」


「敵の飛行場は大炎上だ!」


 彼らは機体から降りるやいなや、身振り手振りを交えて攻撃時の様子を整備兵らに伝える。そんな彼らを出迎える整備兵たちの顔も明るい。


「御苦労さん!」


「やりましたね!」


 自分たちの仕事をこなしがなら、整備兵たちは帰還した英雄たちにねぎらいの言葉を掛けていく。


 その光景を、今回乗り込んだ従軍記者たちが、遠巻きにカメラのフラッシュを焚きながら、写真に収める。もちろん、整備兵から搭乗員が解放されたところを見計らって「黎明新報の者です!この度の戦闘について、よろしければお話を・・・」と抜け目ない。


 搭乗員たちは疲れてもいるし、軍機密もあるので当たり障りのない範囲でしか返答しないが、それでも今回の戦が勝ち戦であったことは、彼らが笑みを向けてくることからも容易に把握できた。


 そうした光景が、機体が着艦し搭乗員たちが降りる度に繰り返される。それを艦橋から見下ろす帝国海軍イルジニア方面艦隊司令長官、桜井中将の顔にも笑みが浮かぶ。


「全く、若い連中。大人げなく興奮しおって」


「そういう長官こそ、年甲斐もなく舞い上がっているように見えますが?」


 参謀長の都築大佐の指摘に、苦笑する桜井。


「一本取られたな。だが奇襲成功の上に、敵の飛行場と物資集積場に大被害を与えた。痛快じゃないか」


「ええ。まさか飛行機がここまで使える兵器だとは」


「うむ。戦艦じゃ、どう足掻いてもおかの上には、上がれんからね」


「しかも未帰還機もほとんどない、日本海海戦以来の大勝利ですよ」


 現在の所確認されている未帰還機(日本海軍限定)は3機だが、いずれも50海里東に配置した不時着機回収の駆逐艦によって、搭乗員は回収されたとの報告が入っていた。


 世紀の大海戦であった日本海海戦と今回の空襲では、戦闘の規模に雲泥の差があるが、それでも味方にほとんど被害のない、一方的な大戦果は同じだ。快挙と言う他ない。


「ただ私としては微妙な気分だがな」


 砲術屋の桜井としては、戦艦同士の海戦でなく航空機による戦いで歴史に名を刻んだことは、少しばかり複雑なところであった。


「まあ、いいじゃないですか。作戦は成功したんですから」


「そうだね」


 作戦の無事成功。それだけでもヨシとしよう。桜井は自分にそう言い聞かせた。


「長官。攻撃隊の収容完了です。搭乗員たちから、第二次攻撃隊を出してはと言う声が出ていますが?」


「却下だ。予定外の行動で艦隊や艦載機に無用な損害を出すわけにはいかん。作戦目的は十分に達したんだしな」


 今回のレグプール空襲は、内陸部にあるレグプールを空襲することで、モラドア・バルダグ両軍に強烈な圧力を掛けることを主眼としている。そのため、攻撃回数も事前に1回キリと決められていた。


 桜井としても、不用意な行動で貴重な艦艇と航空機を喪失することは本意ではなかった。自分を含めて、帝国海軍自体が航空戦に対して不慣れと言う事実が、桜井に慎重な行動を採らせた。


 もちろん、それ以外にも米軍との共同であることや、観戦武官を乗せているというのも、桜井の心にブレーキを掛ける要素となっていた。


「長官、間もなく本艦の艦載機収容が終了します。米艦隊からの報告はまだですが、あちらもそう変わらんでしょう」


「うん」


 飛行長からの報告に、桜井は腕時計を眺める。彼ら自身は戦闘に身を置いていないが、ここは敵地であり戦場である。予定の時間より多少のズレはあるが、許容範囲内だ。


「よし。予定通り後退するぞ。米艦隊にも重ねて伝達」


「ヨーソロー!」


「土佐」を旗艦とするイルジニア方面艦隊は、航空機の収容が完了すると、共同作戦をとる米艦隊とともに、黎明島への帰路へとついた。




「敵艦だ!」


 日米機動艦隊が撤退を始めたのと同じ頃、ニ対の目が海上を動く敵艦の姿を捉えていた。


「まさかこんな所で異世界人の艦を見つけられるなんて!レーア、俺たちは幸運だぞ!」


 彼の言葉に答えるように、相棒のイルカも鳴き声を上げる。


 彼らはモラドア帝国海軍第47小海獣隊所属のヨハノ・ガルド大尉と、その相棒のニジイルカのレーアであった。この日帰還してくる予定だったミナ・フィリス中尉とアンネのコンビを、訓練ついでに出迎える予定だった彼らは、彼女の敵発見の報告を受けて、急遽そのまま沖合に出撃したのであった。


 敵の飛行機械は西方の沖合から飛んできたというので、ヨハノはレーアを西へ泳がせた。


 そして、イルカの俊足とその耳の良さを活かして敵を探しながら泳ぐこと数時間。彼らはついに2隻の敵艦を発見した。帆もなく煙突から煙を薄らと上げながら走る鋼鉄の艦など、異世界人の軍艦以外ありえなかった。


 ヨハノはレーアを慎重に操りながら、その敵艦へと近づいた


 その軍艦は、低速でしかも同じ海域をグルグル回っていた。どうしてこんな行動をしているのか、最初ガルドにはわからなかった。


 それからしばらくして、東の空から敵の飛行機械が何回か現れた。その内の一度は、ヨハノたちの真上を通過したので、自分たちが見つかり攻撃されるのではと思わず潜ったくらいである。


 しかしその飛行機械は彼らには全く気付かず、それどころかしばらく飛んで行った所で海上に落ちてしまった。


 そしてその落ちた飛行機械に、敵の軍艦から降ろされたボートが近づき、飛行機械乗りたちを救助していた。


 ここでようやく、ヨハノは目の前の軍艦2隻が何をしているのか気づいた。


「奴らはここで、飛べなくなった飛行機械の乗員を回収してるんだな!」


 おそらくレグプールを空襲した際に味方の反撃で損傷し、帰りつけなくなったそれを回収しているのであろう。


「ということは、この先に飛行機械を飛ばした張本人がいるのか?」


 敵が一体どのような方法で飛行機械を発進させたかは未だに謎だが、ミナの報告などから、海上より発進したのは間違いなかった。


 そうなれば、その飛行機械を発進させた何かは、この近くかより沖合にいると見て間違いないだろう。


「これは重要情報だぞ!」


 もし敵の本隊を捉えてその位置を報告出来れば、味方による反撃のチャンスを掴める。


「となれば・・・」


 ヨハノは今後の行動を考える。まず重要なのは、目の前の敵艦とその位置を司令部に念話で送ること。これによって少なくともこの付近に敵がいることは報せられる。もちろん、敵が不時着した飛行機械の乗員を回収していることも付け加える。さらにそれが終わったならば、敵艦が去るのを待って沖合に向かって泳ぎ、敵の本隊を発見してその位置を報告する。


 位置さえ特定できれば、あとは味方の竜騎士隊などが反撃に出撃する筈だ。


「よし!まずはと」


 ヨハノはまず、現在の位置と状況を念話にして司令部へ向けて発信する。


 ちなみに、ヨハノらが現在位置を知る方法は、天測などではなく位置計測用の腕輪型の魔法具を使う。この魔法具は予め、計測の起点となる場所に中心球と呼ばれる巨大な魔法球を置く。そしてその中心球と魔法具に仕込まれた小型の魔法球、支球同士に魔力を流して同調させる。


 これをすることで、魔法具には中心球からの方位と距離が出るようになる。そのような仕組みになっている。


 何もない海上においても、容易に現在位置を把握できるので、ヨハノら海獣隊員や沿岸航路の船乗りにとっては必須のアイテムになっている。


 もちろん欠点がないわけではなく、支球に覚えさせられる中心球は一つだけなので、魔力を通わせる中心球を変える度に基準となる位置は変わることとなる。また中心球の持つ魔力にバラツキがあるため、有効範囲も中心球によって違ってくる。


 どんなに高い魔力のこもった中心球でも、距離2000km程度が最大となっている。


 そのため、より沖合の航路を走る船乗りたちは、当然ながら天測具を使って行動することとなるが、海獣部隊は現在の所沿岸部での行動が中心であり、またかさばる荷物を持つことが嫌厭されるので、基本的に魔法具のみで自分の位置を把握する。


 ヨハノも今回は魔法具と、万が一に使う小型のコンパスのみを装備していた。


「よし!」


 位置を把握し、念話の内容を整理すると、彼はその念話を司令部に向けて発信する。


 念話の発信を終えると、敵の様子を再度確認する。海獣隊に配備されるだけあって、ヨハノは良い眼を持っている。その眼を凝らして、敵艦の様子を観察する。


 モラドアで未だに主力である木造の帆船しか知らない彼にとって、今目の前にいる鋼鉄で出来た帆すらない艦の姿は異様であった。


 これまでにモラドアやバルダグが遭遇した異世界の艦船のシルエット図などは見たことがあるし、その性能についても説明を受けていたが、やはり見ると聞くとでは大違いであった。

 

 そしてその艦上を多くの乗員らしき人間たちが動き回っているのも見えた。さらに、艦尾に翻る旗も。


 片方の船には白地に赤い円とそこから伸びる光線が描かれた旗が。もう一方の船には四隅の青地に大量の白い星、さらに赤や白の線が何本も伸びる図が描かれた旗が掲げられていた。


「確か、二ホンとかアメリカとか言う国の旗だったか?」


 異世界の敵国については、断片的な情報しか伝わってこない。それでも、異世界の国々がこの戦争に本格的に参戦し、特に昨年の末頃からヨハノら下級士官にも情報が回ってくるようになった。それまでは全くと言っていいほどなかったのだが。


 そのため、敵の国名とその国旗くらいの情報を、彼は得ていた。


 そんな風に彼はしばらく敵の様子を観察していたが、突然敵艦から大きな音が発せられると同時に、乗員たちが慌ただしく動き始めた。


「な!?まさか!」


 ヨハノは心臓を鷲掴みにされるような想いであった。注意して見ていたつもりだったが。


「見つかった!?」


 直後、敵艦の艦上の大砲が自分たちの方に向けられ、ヨハノは確信した。


「逃げるぞ!レーア!」


 直後、機銃の発射音が海上に響いた。




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