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レグプール空襲 ⑥

「たく、歯ごたえのない相手だったな、トーマス」


「ああ、拍子抜けだぜ。翼竜ドラゴンの迎撃もないし、地上からの反撃もなし。せっかく新鋭機引っ提げて乗り込んできたのに、これじゃあ期待外れもいいところだぜ」

 

 米空母「レキシントン」より発艦したVB1(第一爆撃飛行隊)所属のトビー・ケーソン少尉とトーマス・マクラウド少尉のペアは、伝声管越しに余裕のある声でおしゃべりをしていた。


 彼らを含むVB1は、今回レグプール近郊の操車場と陸上基地を攻撃する役目を与えられ、その任務を無事に完遂していた。出撃前から予想され警戒していた翼竜や魔法による迎撃はほとんどなく、彼らは目標である操車場に停車していた貨物列車に爆弾を投下して、意気揚々と帰還する途中にあった。


「ジャッ・・・じゃなくて日本人は大いに楽しんでるみたいだぞ。日本語の通信文はわからんが、さっきから通信機がお祭り状態だ」


 後席に座るトビーは、先ほどから激しく入電している通信機に少しばかり辟易していた。


「たく。何で俺たちの方を飛行場の空襲に回してくれないんだか」


 トーマスがぼやく。


「上の決めたことだろ。俺たちはリメンバー・スチュワートの仇を取れればそれで良いってことだろ」


「民主主義万歳だな」


 アメリカ国内では、昨年の黎明島空襲で米駆逐艦「スチュワート」が被弾し、多数の戦死者を出した結果、異世界の敵国であるモラドア・バルダグへの反撃を激しく唱える声がある一方、異世界との戦争に深入りするべきではないという声も根強い。それを反映してか、政府も異世界に送り込む戦力は最低限にすると明言していた。


「ま、それでもこいつの配備が進んだだけでもめっけもんだけどな」


「全くだ」


 二人が乗り込んでいるのは、最新鋭のノースロップA17爆撃機(海軍名SBN)であった。単発固定脚のこの機体は、米陸軍向けに開発が進んでいた旅客機改造爆撃機であった。今回の作戦では、急遽陸軍向けのそれを急ごしらえの改造で艦上機とし、実戦に投入していた。


 平時の米軍では、軍事予算が少ないことから軍用機の生産数も少なかった。しかし今回の戦争への参戦のために、急遽臨時予算が議会で承認され、その結果海軍の空母用艦載機も開発並びに生産が加速されることとなった。とは言え、今すぐ数を揃えようと思うと難しい。


 そこで、本命のBT爆撃機(さらに改良されて後のSBD「ドーントレス」)やSBCの登場までの急場しのぎとして、A17がSBNとして艦上機に転用された。


 無論急ごしらえゆえに、色々と無理はあったのだが、それでも全金属製単葉機で密開風防及び可変ピッチプロペラ装備という、近未来的デザインの機体の登場は、爆撃機パイロットたちを歓喜させた。何せ彼らを護衛する戦闘機のFF1とF2Fすら複葉機なのだから。


 さらに言えば、今回共同出撃した日本のどの艦上機よりも1世代前に進んだ機体である。本来太平洋を挟んだライバルである彼らよりも自分たちが遥かに進んだ機体を有しているという優越感も、パイロットたちの気を大きくさせていた。


「・・・うん?」


 トビーが何気なく一瞬上を見上げた時、何か黒い影が見えたような気がした。


 もう一度首を上げ、上を見る。その時には、影ははっきりとしたものになっていた。そしてそれが自分たち目がけて急速に迫って来ていた。


「ガッデム!敵だ!」


 慌てて後部に搭載された7,62mm機銃を掴む。敵の迎撃に備えて何時でも発射できるよう引き出してあったのが幸いした。とはいえ、敵はもうすぐ目の前だった。


 狙いもそこそこに、トビーは機銃を発射した。


 一方操縦するトーマスも機体を傾かせて回避行動に入った。小隊を組む他の3機も、遅れて気づいたのか迎撃と回避運動に入った。


 4機からそれぞれ7,62mm機銃が発射されるが、そもそも旋回機銃は命中率が悪いものである。で、狙いもつけずにとにかく敵のいる方向へ撃っているだけなのだから、当たるはずがなかった。


 そしてトビーは見た。


「何!?」


 敵の竜の口から火の玉が飛び出したのを。そしてその火の玉が、機体のそばを掠めた。


「トビー!今のは何だ!?」


「マイ・ゴット!あの竜、火を吐きやがった!」


 二人は驚愕した。これまで地球側が得ていた情報では、モラドアにしろバルダグにしろ竜自身は攻撃手段を持ち合わせていないはずだった。しかし、今彼らの目の前に現れたそれは、確かに火の玉を放った。


 そして突然閃光と爆音が周囲に広がる。


「ああ!ショーとレイの奴らがやられた!」


 トビーの目の前で、仲間の1機が燃え上がり黒煙を吐きながら高度を落としていく。被弾してしまったようだ。


「パラシュートは!?脱出は!?」


「脱出しろ!脱出しろ!」


 高度を下げていく仲間を見やるトビーだが、その願いも空しく被弾したSBNから落下傘が開くことはなく、そのまま黒煙を残して地面へと消えて行った。


 敵の襲撃に気づいてから、味方機の墜落を見届けるまで3分とない短時間の戦いであった。そしてその短くも激しい戦いが終わると、空は何事もなかったのように静けさを取り戻していた。


 敵騎は一撃だけすると離脱したのか、もういなくなってしまっていた。


 トーマスは乱れた編隊を組みなおすが、先ほどよりも1機欠けた編隊を見て、あまりにも呆気ない仲間の死を感じずにはいられなかった。


 


「メカタ曹長・・・」


 第1003竜騎士隊所属のエサラ・コッタ中尉は、若くしてその命を空に散らした部下の名前を呟く。


 奇襲は完全に成功したと思った。あと数秒で、必殺の火炎弾を敵の飛行機械にお見舞いし確実に撃墜できる。そう確信していた。


 しかし、愛騎が火炎弾を吐き出すべく口を開けて一瞬減速したのと、敵の後方から火線が伸びてきたのはほぼ同時だった。


「な!?」


 エサラは予想外のことに、一瞬手綱に入れる手の力を誤ってしまった。


 彼女が得ていた異世界の飛行機械の情報によれば、敵が搭載しているのはエルフどもが使用している物より数段威力も連射機能も高い銃であるが、それは前向きにしか搭載されておらず、前にしか撃てない。


 昨年敵の拠点を攻撃した竜騎士からの情報を元にしたその情報が、全軍に通達されており、エサラもそれを信じていた。だから敵の後上方をとって完全に勝ったと思った。しかし、情報と違い敵は後ろ向きにも銃を備え、撃ってきた。


 この攻撃はエサラや彼女が乗る翼火竜にも、何ら打撃を与えなかった。逆に、狙いをそらされて彼女の翼火竜が放ったブレスも敵に命中しなかったが。


 しかし彼女の部下であるメカタ曹長は、彼女に比べある意味で幸運であり、ある意味不運であった。


 彼は戦場の緊張からか、敵の飛行機械にかなり接近してからブレスを放った。と同時に、近づき過ぎたために、狙った敵の飛行機械からの銃撃を、もろに翼火竜の口の中に受けてしまった。


 翼火竜が炎を吐くメカニズムと言うのは、火竜ゆずりの特殊な可燃性の液体(火炎液)を体内で精製して一度首元にある袋に貯める。それを自らの意志で吹き出し、さらにその息によって着火するものである。そしてその吹き出し口は口内にあり、火竜と翼火竜は口回りが炎に耐えられる特殊な皮膚構造を持っている。ただし、その吹き出し口は通常安全弁のような弁で閉まっていて、吹き出す時だけ開く。


 だから普通であれば、翼火竜自身は自分の火炎液によって何らかの害を被るということはあり得ない。外から袋を攻撃されたとしても、厚い鱗に阻まれて着火するような事態には陥らない。


 ところが、今回は弁を開けて炎を放った最中に、敵弾が翼火竜の口の中に飛び込み、あろうことか火炎液を吹き出す管にまで入ってしまった。この結果、まだ管の中にあった火炎液が体内で着火して、そのまま液体を貯める袋まで燃え移ってしまい、爆発した。


 この爆発は体内で収まらず、それどころか翼火竜の体そのものを完全に破壊した。メカタ曹長の翼火竜は空中で爆散し、さらに飛び散った肉片すら自らの液体によって燃え上がる凄惨な状況となった。もちろん、乗っていたメカタ曹長の生存など、期待できるはずもなかった。


 新米ゆえに未熟なところもあったが、鍛えれば大成するであろう、エサラらが期待した若き竜騎士の呆気ない最後であった。


 せめてもの慰めは、同時に放ったブレスは確かに敵の飛行機械を捉え、叩き落したことだ。


 こうしてメカタ曹長は、レグプールを奇襲攻撃した憎き異世界の飛行機械を、見事に撃墜するという武勲を立てた。自らの命を代償としてという但し書きがつくが。





 この日、モラドア帝国ならびにバルダグ王国のイルジニア侵攻の重要な兵站拠点、レグプールは日米合同航空隊の大規模な攻撃を受け、竜騎士隊基地、操車場、物資集積場などに大打撃を受けた。


 竜騎士隊基地(イアルト基地)はほぼ壊滅的な打撃を被り、復旧までに最低でも1カ月は掛かるであろう有様となった。もちろん、これによって前線への空軍戦力の補充並びに派遣は大幅に遅延することとなった。


 また同時に狙われた操車場では線路や貨物列車などの車両に被害が生じ、こちらも物資の輸送が阻害される形となった。さらに、物資集積場に加えられた空襲により、前線の兵士に必要な補給物資や装備の一部が焼失し、これもまた痛い被害であった。


 レグプールへの空襲によって、モラドア・バルダグ軍の侵攻は昨年末のガランガン攻略失敗に引き続いて、急ブレーキが掛けられることとなった。


 それに対して日米両軍にとってこの空襲は、大成功に終わっただけではない。艦載航空機の集中運用がいかに大きな破壊力を発揮するのか、自軍を含めて世界中に示すこととなった。


 一方でモラドアの誇る新兵器、翼火竜によって最新鋭の艦上爆撃機が撃墜されたことは、米海軍を含む地球の航空関係者に少なからぬショックを与えることとなる。


 そしてさらにもう一つ、地球の軍関係者にしてみれば予期せぬモラドアの力、ここが異世界と言う現実を見せつけられる戦いが、終盤に訪れることとなる。


御意見・御感想よろしくお願いします。


なお作中に出てきたSBNは史実機を元にした架空機です。

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