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レグプール空襲 ③

「敵の飛行機械が海上から、しかも大編隊で接近中か・・・」


 レグプール近郊の竜騎士隊基地、通称イアルト基地の指揮所。その司令官を務めるルべコ・ゲーク大佐は、通信担当士官のノキ・ザーロ少尉の報告に、特に驚いた様子も見せなかった。淡々とそう口にしただけだ。


 あまりにも緊張感の感じられない態度なので、報告したザーロ少尉がイラッと来るくらいであった。


(本当にこの司令官は!)


 ゲーク大佐は、元翼竜乗りだったというが、ザーロにはとてもそのことが信じられなかった。体格は問題なさそうだが、覇気と言うものが全く感じられない。それどころか、感情表現そのものが乏しい。酷く怒ることもなければ、褒めることもないし、笑っているところすら見たことがない。


 そのため、部下の人気は今一つだ。怒られることはないが、褒められることもない。司令官として必要最低限のことはやっているようだが、積極性が感じられない。血の気の多い若い兵士たちからはその乏しい表情から「ゴーレム司令」などと揶揄されていた。


「いかがなさいますか?」


 とは言え、上司には違いない。ザーロは次の指示を乞う。


 しかし、ゲークから返ってきたのは。


「続報はないか?」


 という、質問に対しての質問であった。ザーロは内心カチンと感じるが、相手は6階級も上の上官である。口にも態度にも、顔にも出すわけにはいかず、ひたすら堪えて答える。


「沿岸部の監視哨や幾つかの部隊からも同様の報告が来「飛行長。ただちに迎撃騎を発進させろ」


 ザーロの言葉をさえぎり、ゲークは相変わらずの淡々とした声で命令を口にした。あまりに突然のことで、誰もが一瞬、思考がフリーズしてしまった。目の前の一番近い距離で聞いていたザーロも同様であった。


「・・・司令、今何と?」


 飛行長が聞き返す。


「ただちに迎撃騎発進。予備騎も、後備騎も。上げられる翼竜は全てあげろ。それから総員戦闘配置。対空戦闘用意」


「予備に後備・・・出せるの全てでありますか?」


 飛行長が、いやザーロを含むその場にいた誰もが信じられないという表情をする。


 このイアルト基地は、レグプール周辺の防空を一手に引き受ける要の基地である。防空だけでなく、最前線に向かう竜騎士隊や、前線で戦い再編と休養のため後方へ戻る竜騎士隊の中継基地も兼ねており、常時80騎近い翼竜が駐留している。


 この内基地固有の竜騎士は約40騎で、さらにその内の半分の20騎が、2騎1個の分隊単位のローテーションで基地周辺の哨戒を行う。予備騎は名前の通りその予備で、1個分隊。後備は予備の予備でやはり1個分隊が指定され、いつでも出撃できる態勢を取っている。


 既に最前線は遠く南下し、レグプールの空に敵が現れることはほとんどない。定時哨戒に飛び立つ竜騎士隊は、大概何事もない遊覧飛行よろしく交代の分隊が来るまでただ上空を飛んでいるだけだ。


 時折敗残兵によるゲリラ的な攻撃があるが、その制圧に向かうにしても予備騎を出すことは稀であった。


 だから今ゲークの命令した予備騎どころか後備騎、さらには出撃可能な全騎を上げるなど、前代未聞もいい所であった。


 加えて総員戦闘配置も、この基地始まって以来のことであった。


「司令、まだ本当に敵が向かってきているのかわかりません。沿岸の監視哨にしろ、海軍の海獣部隊にしろ、これまでにも幾度か誤報を寄越しております」


 これまでにも度々敵の来襲を伝える報告が届くことがあった。しかしながら、その多くが鳥の群れや味方の竜騎士の見間違えばかりであった。その時もゲークは最寄りの分隊を差し向けたり、基地の警戒レベルを上げることはあったが、結局杞憂で終わり無駄足に終わっている。


 それだけに、誰もが今回の敵襲に対して疑いのまなざしを向けずにはいられなかった。


「命令だ。すべて上げろ」


 だがゲークは命令を撤回するつもりはないらしい。相変わらずの表情と声で同じ命令を出す。


「わかりました」


 飛行長はじめ、関係者たちは溜息を吐きつつ命令を実行に移す。


 ザーロも通信室に今の命令を念話で伝達する。


「通信士官。通信室に連絡して、上空の竜騎士からの情報を漏らさず伝えるように念を押してくれ」


「りょ、了解・・・司令は、本気で敵が空襲に向かっているとお思いですか?」


 念話を終えたザーロは、各部隊の位置情報を示す地図盤を見つめるゲークにさりげなく聞いてみる。


「これが一つの部隊の報告だったら誤報で済ませられるが、複数の部隊が、しかも沿岸の部隊から順々に報告しているとなると、何かが来ているのは間違いないだろう。異世界人の飛行機械の性能は我が方の翼竜を越えている部分もあると聞く。警戒し過ぎに越したことはない」


 ザーロも言われてから、地図盤を見つめる。地図版には基地を中心に味方の部隊や基地の配置が駒によって示されている。確かに、監視哨や敵襲を知らせている味方部隊の位置は、沿岸から内陸へと、レグプールに向かってつらなっている。


「ですが、さすがに全部隊出撃は行き過ぎでは?仮にこれが虚報だったら」


 もし今回の報告が虚報であったら、それはそれで一大事である。基地全ての翼竜に出撃を掛けているので、それだけで莫大な手間が掛かっている。資材と経費の浪費、さらには味方の士気に悪影響を与えることとなる。


「その時はその時だ。いい演習だと思えばいい。被害を出すよりはマシだ」


 ゲークはこともなげに言い切った。




 出撃命令が出され、基地内は蜂の巣をつついたような大騒ぎとなった。


「竜騎士非常呼集!」


「全騎出撃!」


 念話や伝令の声に、竜騎士たちは仰天した。


「全騎出撃だって!?」


「おいおい、冗談だろ!?」


 前線から戻り惰眠を貪っていたベテランも、これから前線へ向かう直前、昨晩まで痛飲してまだ酔い気味の若手も、まさかの全騎出撃に半信半疑であった。


 そんな彼らに、最古参の下士官が雷を落とす。


「冗談じゃないわ!さっさと飛行服着て出撃せい!」


 叩き起こされた彼らは、飛行服に着替えて出撃準備に掛かる。異世界の飛行機乗りと同じく、防寒や体の保護のため、彼らも飛行服やゴーグルをつけている。もっとも、統一した形式はなく、デザインはバラバラであるが。


 一方竜騎士たちが乗り込む翼竜がいる竜舎では、翼竜の世話をする調教兵たちもいきなりの出撃命令に、てんやわんやであった。


「竜を外に出せ!」


「すまんな起こして。出撃だ、出てくれ」


 出撃準備をしていた予備や後備以外の竜の多くは、早朝と言うこともあってまだ寝ていた。その竜たちを起こして、竜舎の外へと出さなければならない。1匹1匹が生き物であるため、中にはへそを曲げて外に出ない竜もおり、彼らの苦労は大変なものだ。


「おい!出るぞ!」


 竜舎の外に出された竜の竜騎士は、調教兵の手を借りて背中の鞍に跨る。なお竜騎士の鞍は馬と違い、空中での落下を防止するため、ベルト付きである。また初歩的な落下傘も装備する。それらをつける作業も、調教兵の手を借りる。


「早く出してくれ!」


 一方、自分の竜がまだ出ていない竜騎士は調教兵を急かすが。


「それが、機嫌悪くて」


「ああ!こんな時に!」


 調教兵と一緒に、竜騎士を外に出すのに苦労する羽目になった。


 前代未聞の全騎出撃命令。さらに、イアルト基地には常駐部隊と仮住まいの部隊が混在している。すぐにでも上がらなければならなかったが、これが円滑な出撃を妨げて、時間を空費することとなった。


「こら邪魔するな!」


「バカ野郎!そっちが割り込んだんじゃないか!」


 空に上がるための滑走場では、竜騎士同士が我先に発進しようとするため、割り込みや進路妨害が多発した。


 モラドアにしろバルダグにしろ、竜騎士に離着陸の管制と言うものはない。普段は整然と事前に発進の順番を決めて飛び立つため、地上の調教兵が降る旗を合図に飛ぶ。


 ところが、今回は緊急での発進を命じたため、これまでに経験のない多重同時進入が発生し、地上の誘導が追い付かなくなって、誘導システムが破綻してしまっていた。


 最初の予備隊、後備隊、さらには先陣を切った者までは良かったが、その後に続く竜騎士たちと翼竜は混乱によって滑走場へ進入できなくなってしまった。


 しかも。


「おい!西の方でもう始まってるぞ!」


 基地より西の方から聞き覚えのない羽音のような音が近づくとともに、金属音や雷鳴のような音が立て続けに聞こえてきた。


 これによって焦った数騎の竜騎士が、滑走場へ無理やり進入したが、これがまたいけなかった。終に衝突事故が発生し、倒れ込んだ翼竜が塞いでしまったのだから。


「ああ!」


「なんてこった!」


 こうなると大ごとである。翼竜同士がぶつかり倒れたとなれば、翼竜自身がケガや骨折によって身動きが完全に取れなくなるからだ。魔法薬で応急処置と痛み止めをし、時間を掛けて退かすしかない。そして、そんな時間がもう1秒たりともないことくらい、その場の全員が理解するところであった。




「滑走場、使用不能です!」


「・・・」


 基地の司令部も大騒ぎになっていた。先に出撃した翼竜から、本当に敵騎発見の報告が届き、さらには次々と交戦開始を報せると、消息を絶って行ったのだから。


 そこへ来ての、滑走場の使用不能報告である。


 ゲークは相変わらず表情一つ変えず聞いているように見えたが、近くにいたザーロだけは彼が「しまった」と呟くのを聞いた気がした。


 そして凶報はさらに続く。


「基地西側の監視台より報告・・・未確認騎多数接近・・・味方ではありません!」


 その念話をキャッチし伝えたザーロは、事態がもはや取り返しのつかない所まで来ているのを悟り、顔面蒼白になる。


「総員避難だ」


 ゲークはただ一言命令を口にすると、自身は西側に面した窓に近づいた。


「司令、危険です!」


 ザーロの声も届いていないのか、彼は微動だにせず空を睨む。そして、その彼の目に飛び込んできたのは、低空に進入し向かってくる、上下二枚羽の飛行機械の群れであった。


 そして、破壊の舞台が幕を開けた。


 


御意見・御感想お願いします。


ちなみに最後のシーンは、とある映画のワンシーンを頭に思い浮かべながら書きました。

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