表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/90

エスタル会戦 ④

 パソコンの買い替えなどで更新遅くなりました。御迷惑をお掛けいたしました。

「突撃!」


 独立混成飛行連隊第二飛行中隊を指揮する藤浪則夫海軍大尉は、愛機となったロシア製のI16戦闘機(日本名露式1型戦闘機)の操縦席から、手信号で味方機に突撃を合図する。


 彼の指揮する第二飛行中隊は、露式1型ならびにポーランド製のP.24型戦闘機(日本名波式1型戦闘機)の混成からなる戦闘機隊である。強力な武装を装備していたために、急きょ購入された外国製戦闘機からなる異色の部隊だ。


 そのため、購入から日が浅いことも相まって搭乗員も整備兵も十分に慣熟できているとは言えない。事実進出時は24機あった機体も、事故での損失や機体のトラブルなどで、今日の出撃に揃えられた稼働機は両機種合わせても、半数以下の11機だけであった。


 それでも、藤浪ら出撃したパイロットたちは、初の実戦に意気軒高であった。


「来たな!」


 そんな彼らの前下方に、機影らしいものが現れる。しかし、モラドア・バルダグ連合軍とイルジニア軍は飛行機を持っていないし、黎明時に奇襲爆撃した偵察機隊は既に撤退している。そして他の味方戦闘機は続行している筈。となれば、答えは一つ。敵の翼竜だ。黎明島に軍民関わらず被害を与えた、日本人にとっては仇敵とも言うべき相手。


 藤浪は機体をバンクさせ、敵発見を報せると同時に戦闘態勢に入った。


「こいつはいいぞ!」


 藤浪は接近してくる敵の翼竜を見てほくそ笑んだ。と言うのも、敵の翼竜は対地攻撃をするためだったのか、低空にいた。対して、日本戦闘機隊は高度1000mにいた。戦闘機が飛ぶ高度としては低いが、これは発進地から戦場までの距離が近い上に、地上にいる敵味方確認を確実に行うためであった。


 その1000mから見ても、敵翼竜の高度は低かった。せいぜい600~700mと言うところだ。完全に日本戦闘機隊が優位を取っている。


「行くぞ!」


 藤浪は手を振り、僚機に突撃を合図した。


 露式1型戦闘機は近代的な単葉戦闘機であり、高速と強力な武装を兼ね備えている。そのため、これまでの戦闘機に比べて高速を用いた一撃離脱戦法に向いていた。


「喰らえや!」


 敵の翼竜に正面から向かい合ったところで、藤浪は機銃の発射ボタンを押した。機首に装備された7,7mm機銃、そして主翼に装備されたエリコン20mm機関銃が重々しい発射音を奏でながら発射される。曳光弾が光の奔流となって翼竜に向かっていく。だが、彼が狙った翼竜はサッと避ける。


「ちっ!」


 と舌打ちしたが、風防上のバックミラーに後方の味方機の銃弾が翼竜を捉えた光景が映る。


「今度こそ」


 機を旋回させ、新たな敵を探す。すると、すぐに上昇中で動きが鈍っている1匹を視界内に捉える。こちらの一撃をかわし、高度をとって上方から攻撃を行おうとしているようだ。


「だが遅い!」


 ロシア製のI16戦闘機は、その速度と上昇力を利して後方に回り込めた。竜の上に跨る竜騎士が振り返ったように見えた。


「撃て!」


 機銃の発射ボタンを押すと、距離を詰めていたこともあって今度は曳光弾ははっきりと翼竜の背中に吸い込まれるのが見えた。途端に、翼竜がのけ反る。そして、地面に向かって真っ逆さまに落ちていった。


「さすがに20mmだけあるな」


 翼竜の鱗がこれまでの主力武装であった7,7mm機銃では打撃力が不十分であることを、藤浪は黎明島での空戦報告や、実際に空戦に参加していたパイロットたちの話を聞いて知っていた。


 そのために、日本陸海軍は急きょ20mm機銃も装備可能なロシアとポーランド製戦闘機を導入したのであったが、今の一撃からもその効果が実証された。


「慣れるのに苦労した甲斐があったってもんだ」


 露式1型にしろ、波式1型にしろ外国製でこれまで慣れ親しんだ日本製の複葉機とは全く別物の機体であったため、藤浪たちは操縦に慣れるのには苦労した。いや、今も完全に使いこなしているか微妙なところだ。それでも、今日までの苦労が報われただけでも、戦闘機乗りとして光栄なことであった。


 そして周囲を見れば、日本戦闘機隊は敵の翼竜を圧倒していた。優位からの空戦ということもあったであろうし、一方で高速かつ重武装であったのも一因だろう。


 既に敵の翼竜は半数以下に減っていた。おそらく掃討されるのは時間の問題だ。仮に撃滅できなくても、陸戦の援護など不可能な状況だ。


 制空権は完全にこちら側のものだ。


「あとは第二波が突入するだけだ」


 そんな彼の言葉に答えるように、まもなく多数の機体が戦場に突入してきた。


 


 新たに現れた機影が、次々と低空へと舞い降りる。そして機銃掃射をモラドア・バルダグ連合軍へと加えていく。


「ようやく来たな。よーし、全軍後退急げ!味方の誤爆を受けるぞ!」


 飛来した友軍機は頼もしい存在であったが、早く敵と距離を取らないと自分たちも攻撃を受けかねない。船山は全軍の後退を急がせた。


 敵軍に一撃を加え、上昇する味方の92式戦闘機が上昇しながら通過していく。その機影に向かい、味方の将兵は拳を振り上げて歓声を上げる。


 だが船山は必ずしも喜べなかった。


「やはり機銃掃射だけじゃ打撃力不足かな?」


 味方機による空襲で、敵軍は大混乱に陥っている。それは船山たちにも容易に見えた。しかし、多数の機体が攻撃している割には爆発はほとんど起きていない。その原因を船山は知っていた。


 今回の攻撃隊のほとんどは、機銃掃射のみの攻撃しか行っていないのだ。厳密に言えば、行えないのだ。


 大きな理由は、爆撃を行うための爆撃機がないこと、さらには戦闘機でも搭載可能な爆弾の備蓄がないことであった。いまだ補給並びに基地設備が整っていないため、そしてそもそもこのようにいきなり敵の地上部隊と戦うことを想定していなかったため、それらの配備や備蓄は後回しになっていた。


 このため、戦闘機隊は機銃のみでの敵部隊攻撃しかできなかった。しかも、強力な20mm機銃搭載機は敵の翼竜を優先して叩いているため、敵を掃射できるのは7,7mm機銃しか持たない92式戦闘機が主力にならざるを得ない。もちろん、7,7mm機銃でも人が相手なら十分な威力だが、地竜に対しては明らかに不足している。


「クソ!こんなことなら爆撃機も一緒に連れてくるべきだったか!」


 船山と同じく、米軍のクーパーも制空権を握ったにも関わらず、十分な対地攻撃力がないことに歯噛みした。92式戦闘機に続いて、米軍のP26戦闘機も突っ込んできたが、こちらも爆弾がないため機銃掃射のみだ。


 とは言え、戦闘機隊によって制空権を完全に奪われ、上空からいいように機銃掃射を受ける敵軍は、大混乱となっていた。もはや日米軍を追える状況にはない。


 そのため、敵軍が追ってこないとわかると、日米軍の兵士たちは後退速度を緩めて、物見遊山と言った感じで、戦闘機に追い回される敵軍の様子を見ていた。


「やっぱり空からかぶられたら逃げようがないよな」


「これが森や山の中だったら違っただろうが、平野だからな」


「それにあんな目立つ格好していちゃ、狙ってくれって言ってるようなもんだぜ」


 今回戦場になっているエスタルは低い丘陵こそあるものの、南側を流れるヴァル河を除けば大きく開けた平野となっている。そのため、空からはほとんど遮蔽物がなく、モラドア・バルダグ連合軍はその姿を暴露していた。


 おまけに、その将兵の格好は日米兵から見ると20年は古いデザイン。すなわち、なんら迷彩効果のない、逆に戦場では目立つ明るい色に装飾をまとった軍服を着ていた。さらに日米兵は知らないが、高位の者ほどより目立つ格好をしていた。


 だから、空中から見れば彼らは目立つ的でしかなかった。ただし、黙ってやられているわけでもなかった。


「何だありゃ!?」


 その光景を見た船山の第一声である。突然地上に光球が生まれたかと思うと、それが今しも機銃掃射を終えて上昇しようとしている92式戦闘機の1機を追い始めたのである。


「いかん!?」


「逃げろ!」


 誰もがその光球が戦闘機を捉えるかと思った。ところが、途中でその光球は突如消失してしまった。


「あれは一体?」


 その問いに答えられる者は誰もいなかった。




「一体どういうことだ!?イルジニアの竜騎兵はもう残ってないんじゃなかったのか!?」


 空を飛び回る敵の竜らしき騎影に、バッジは慌てふためきながら叫ぶ。


 こちらの地竜が襲い掛かった敵の地竜らしきものが、突然爆発して味方の地竜ごと吹き飛ぶというありえない光景を見せつけられて彼をはじめ、部隊の誰もが思考がしばし停止した。


 その隙を突くように、今度は敵の竜騎士らしきものが現れ、味方の翼竜をアッというまに駆逐してしまった。それだけでなく、数十騎に及ぶそれは、動きを止めていた地上部隊に容赦なく襲い掛かってきた。


「司令、あれは竜ではありません。竜が羽ばたきもせず飛べるはずがない!」


 こんな状況下でも、ジウは襲ってきた敵の姿を見定めていた。とは言え、彼も動揺しているのはその表情から窺えた。


「では何だと言うんだ!?」


「わかりません!ですが、このままでは味方は壊滅です!」


 混乱している所に、未知の攻撃であるからモラドア・バルダグ連合軍の将兵は完全にパニックに陥っていた。そして、動くに動けない彼らを敵の攻撃が襲う。


 敵の竜らしきものが銃の発砲音のような音を立てるたびに、地面に土煙が上がり、兵や馬が吹き飛ばされる。その姿を見て、将兵らは右往左往するばかりだ。


 もちろん、中には反撃する者もいる。火球や風による切り裂きといった攻撃系の魔法を空に放つ魔術師もいた。


 しかしながら、目視で狙いを付けて放つ魔法では、高速で動き回る航空機に全く付いていけなかった。最初は追えても、敵機が多数いるためにすぐに見失ってしまう。それどころか、攻撃を行うために立つものだから、逆に攻撃の的になって機銃弾の餌食になってしまう始末であった。


 他に、防壁というバリアを張って攻撃を防ごうとする者もいた。これによって確かに銃弾を弾くことは出来たが、どちらにしろ身動きは取れないし、体力はどんどん奪われていく。


 モラドア・バルダグ連合軍は空襲に対して完全に打つ手がなかった。


 総司令官として、バッジは重大な決断に迫られることとなった。

 

 御意見・御感想よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ