表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/90

エスタル会戦 ②

 12月5日早朝、奇襲を受けたモラドア・バルダグ連合軍は、正面のイルジニア軍に対する総攻撃を開始した。


「突撃!イルジニアのエルフどもなど、もはや腐った木の扉も同じ!一撃掛ければ蹴破れる!」


 司令官のバッジ中将はそう将兵たちを鼓舞し、自らも皇帝より下賜された装飾刀をかざして前へ出る。


 司令官のそんな姿に刺激されたわけでもないだろうが、モラドア・バルダグ連合軍の将兵たちは、イルジニア軍防衛線への攻撃を開始する。


 夜明けが近づき、東の空は白み始めてはいるが、まだまだ暗い時間だ。そのため、両軍の魔術師たちが次々と光源魔法を打ち上げる。


 そらに光球が生まれ、周囲を照らす。そして、イルジニア軍の姿が浮かび上がる。


「行け!」


 まずは地竜が突撃を開始する。


「撃て!」


 その地竜目がけて、対するイルジニア軍の砲列が砲撃を開始する。しかし、暗い中での射撃であり、そうそう命中しない。しかも、地竜は地面に潜ってしまい、砲弾が届かない場所へと逃げてしまう。


「地竜が来るぞ!警戒しろ!」


 とイルジニア軍の砲列に注意が促された直後、その砲列の真下から地響きが響いたかと思うと、地面が盛り上がって砲や砲兵もろとも吹き飛ぶ。そして地面に這い出た地竜が、雄たけびを上げる。


「この野郎!」


 それにめげず発砲するイルジニア兵もいるが、ダル5型小銃やガトリング銃では地竜の厚い鱗を貫通できない。逆に吹き飛ばされたり、踏みつぶされてしまう。


 あっという間にイルジニア軍の砲列は壊滅的打撃を受けた。


 さらに、生き残りの砲兵や後方にいた歩兵に対して、今度は主に魔術師たちからなるモラドア、バルダグ兵からの魔法攻撃が加わる。攻撃魔法である火球や、風による切り裂き、さらには水流攻撃など。中には破裂の魔法をもろに食らって爆散させられた悲惨な兵士もいた。


 もちろん、イルジニア兵も抵抗する。魔法攻撃を受けると言うことは、視界内に敵がいると言うことである。そのため小銃やガトリング銃で攻撃を加え、何人かの敵兵を打ち倒した。だが、その数は圧倒的に少なく、敵も魔法で防壁を作って対抗してしまい、それ以上の打撃を与えられない。


 時とともにイルジニア側は劣勢に追い込まれ、その防衛線崩壊は時間の問題かと思われた。


「エルフどもめ思い知ったか!このまま一気にガランガンまで行くぞ!」


 バッジは、自分の部隊の圧倒的な強さに、もはや勝った気でいた。


 しかし、彼の元に駆け寄ってきた伝令が冷や水を浴びせる。


「司令官、敵左翼を攻撃中の部隊より救援要請です!」


 正面のイルジニア軍防衛線の内、左翼側の攻撃が上手く行っていないという予想外の報告だった。


「何!?エルフ相手に手こずっていると言うのか?・・・やむを得んな。2個中隊を増派する」


「司令官、それでは戦力の分散になりますが?」


 ジウ副司令官が口にする。戦力集中の原則は彼らも持っていた。戦力を分けてしまえば、それぞれの総戦力は弱体化し、各個撃破の危険性を招く。


 だがバッジはそれを承知して命令を下した。


「やむを得ない副司令。今の状況で横か後背から攻撃を受けて時間を食えば、河から上陸した敵に追いつかれる。戦力は割きたくないが、魔術師に対抗できるような強力な部隊を捨ておくことはできん」


「わかりました。司令官」


 敵を捨て置いてガランガンまで突破するのが手っ取り早い方法であるし、戦略的勝利を得る一番の近道だ。しかし、魔術師を含む精鋭部隊を苦戦させる強力な敵が相手では話が変わる。ここで捨て置くと側面もしくは後背を曝すことになるからだ。


 そのため、バッジは一部の戦力を抽出することにし、ジウも同意した。


「正面の敵を突破した部隊も、残敵の掃討が終わり次第左に旋回。包囲殲滅する!」


 既に正面の敵は壊滅しつつある。左翼で手こずっている敵をその勢いで前後から挟撃して覆滅し、後顧の憂いを絶つ。そしてそのままガランガンに再進撃する。


 バッジはそう思い描いた。


 しかし、日が昇り辺りが急激に明るくなり始めると、彼のその計画はさらに狂っていく。


「伝令!後方より正体不明の敵接近!」


 残敵の掃討を進めつつあったバッジらの元に、伝令からの信じられない報告が届いた。


「バカな!川岸で応戦していた部隊はどうした!?」


 彼の問いに、さらなる衝撃的な報告が入る。


「壊滅した模様です!」


「早すぎる!いくら魔法の使えない部隊とはいえ、2時間もしないうちに壊滅だと!?」


 河から上陸した敵にあたったのは、魔法が使えない人間や獣人で編成された下級部隊と輜重部隊ではあるが、装備は鹵獲したり占領地で再生産させたイルジニア軍のそれを持っていた。銃などの火力だけで言えば、魔術師主体の部隊よりも高い。イルジニア軍相手なら、こんな短時間で壊滅するなどありえない。


 そう、彼の常識内にあるイルジニア軍であったなら。しかし、彼らの後方に現れたのは。


「なんだあれは!?」


 徐々に近づいてくる物体。バッジは最初、小屋か何かかと思ったが、違う。それは聞いたこともない不快な音を立てて近づいてきた。


「地竜隊を呼び戻せ!念話だ早く!」


 バッジは突如現れた敵に、地竜部隊を充てようとした。彼はその敵の正体を知らなかったが、それは正解の処置であった。


 接近する89式中戦車もアメリカ製のルノーFTも、91式装甲牽引車も、地面からの攻撃を防ぐ手段はなかったからだ。


 だがそれよりも早く、戦車に搭載された砲が火を噴いた。




「距離500!目標敵騎兵!弾種榴弾!撃て!」


 車長の命令とともに、停止した89式中戦車の90式57mm戦車砲が火を噴く。わずか2両、2門だけであるが砲をほとんど持っていない現在の彼らにとって、貴重な火力であった。


 発射後狙い通り騎兵の隊列の中に、爆炎が起きる。


「続けて撃て!」


 さらに第二射、第三射が放たれる。


「戦車部隊やるな」


「虎の子の戦車ですからね。活躍して貰わねば困ります」


 戦車部隊の活躍を誉めつつも、副官の言葉に船山は頷くしかなかった。予算の乏しい帝国陸軍では、戦車の整備は非常に難しく、89式中戦車にしても生産されたのはわずか60両に過ぎない。さらにその内イルジニアに持ち込まれたのは4両だけである。


「と言っても、アメリカさんよりはマシですが」


「まあな」


 船山はアメリカ軍の戦車隊(と言ってもこっちも2両だけ)を見る。そこを走るのは、第一次大戦時のルノーFT戦車であった。第一次大戦後、アメリカでは軍事予算の削減のため、新型戦車は試作車両を除いてほとんど生産されず、大戦中のルノー戦車をいまだに使い続けていた。


 旋回砲塔に37mm砲を備えているが、二人乗りで最高速度も20kmに満たず、旧式であることは否めない。


「さっきの歩兵や輜重兵相手には充分だったが、果たして地竜に対抗できるかな?やはりもっと数が欲しかったな」


「仕方がありません。舟艇に載せられる数が限られるのですから」


 今回日米軍は、陸路ではなくヴァル河を舟艇によって遡上して、敵前への強襲上陸を行っていた。これができたのは、皮肉にもイルジニアの劣悪な道路事情のせいであった。

 

 イルジニアの臨時首都ガランガンは、内陸部へ70kmほど入った場所にある。日米軍はここに駐屯地を構えたのであるが、当然ながら武器や人員、各種資材の運び込みは後方の黎明島から運んでこなければならない。しかし、沿岸部からガランガンへの鉄道ならびに道路の整備状況は不十分で、とても大量のそれを運ぶのは不可能であった。


 そこで注目されたのが、ガランガンから流れるヴァル河である。このヴァル河、大陸の河だけあって河幅も水深もそこそこあった。さすがに直接輸送船が遡上することは出来なかったが、喫水の浅い船なら遡上できた。


 このため、帝国陸軍はガランガンへの補給ルートをこのヴァル河経由とし、そのために大量の上陸用舟艇、さらには数は少ないが護衛の装甲艇まで用意した。


 予算の乏しい帝国陸軍であったが、そもそも島国であり太平洋にはパラオなどの島嶼を支配下においているのが現在の大日本帝国だ。そのため、有事の際に陸軍や海軍陸戦隊を迅速に派遣して上陸させる機材の開発が、厳しい予算の中でも比較的スムーズに進められたのは当然のことであった。


 このため、昭和9年時点で帝国陸軍は後の時代の強襲揚陸艦の走りとも言うべき特種輸送船の「神州丸」に、大発や小発といった大小上陸用舟艇、さらにはそれらの護衛を行う装甲艇を船舶部隊に配備していた。


 こうして整備されていた各種船舶や機材が、異世界へと配備された。そしてそれらは、物資輸送にとてつもない威力を発揮した。大量に運べると言う船舶としての特性も然ることながら、大発と小発の場合は直接川岸にのし上げて物資を揚陸できた。


 そのため、これらの装備を見たアメリカ軍から購入の打診があったくらいだ。余談だが、アメリカ軍は後にこれらをもとに自軍オリジナルの各種揚陸艦艇を建造し、日本が逆に輸入することとなる。


 ともかく、日米混成部隊はガランガンにあった舟艇や装甲艇などを総動員して、ヴァル河を遡上。敵軍の背後から奇襲上陸を敢行したのであった。上陸の際には、装甲艇搭載の57mm砲や、舟艇上から迫撃砲や擲弾筒などを発射して援護射撃を行った。


 ただし舟艇の数が限られたために、戦車は89式とルノーを各2両ずつ、小型の牽引装甲車ですら6両しか持ってこられなかった。トラックに至っては積載を諦め、全てイルジニア軍の移動用に転用している。


 日米両部隊は歩兵を含めて全て機械化されているのが売りであったが、その機動性をほぼ全て捨て去ることとなっていた。


 それでも、船山や米軍を指揮するクーパーにもそれを足枷と見ている雰囲気はなかった。


 しばらくして、戦車砲と歩兵砲の砲撃を受け続けていた敵に動きが起きる。


「司令、敵がこちらに接近する模様です」


 その報告に、船山は待っていましたとばかりに新たな命令を下す。


「よし、全軍後退!戦車と砲は牽制射撃!敵をイルジニア軍の防衛線から引き剥がすぞ!」

御意見・御感想よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ