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敵騎来襲! ⑦

 空での戦いが終わった後も、翼竜ワイバーンとの戦いは続いていた。それは地上に墜ちた翼竜と、地上部隊との戦闘であった。


「目標!前方距離100の翼竜!撃て!」


 市街地に展開した91式装甲牽引車が、搭載した20mm機関砲を発射する。その銃口が狙うのは、口から血を吐きつつも未だ息絶えず、地面を這いずり回る翼竜であった。


 牽引車の搭載機関砲だけではなく、オープントップの車体上に陣取る兵は銃架に取り付けられたM2型重機関銃を、周囲にいる兵隊は38式小銃を発砲する。


 対空砲火や戦闘機の銃撃で地上に墜ちた翼竜の内、何頭かはまだ息があり、中には激しく暴れる竜もいた。建物の倒壊阻止や、市民に犠牲を出さないためにも、早めに処理しなければならなかった。


 もちろん、その仕事は貧弱な武装しか持たない警察の手には余るので、陸軍と海軍陸戦隊の出番となった。彼らは翼竜の墜落現場に急行すると、射殺するべく行動していた。


「流れ弾の危険があるので、こちらへ避難してください!」


「慌てず!ゆっくり!」


 少し離れた場所では、警官や兵隊が市民の避難誘導をしている。


「頭や腹を狙え!」


 翼竜の背中は鱗があり強靭と言う情報をもとに、地上部隊では頭部や下腹部と言った部分を重点的に狙って攻撃を行った。


 翼竜は動き回るので、狙いが付けにくかったり、まだ住民の避難が完了しておらず攻撃を控えなければならない状況なども発生した。それでも、陸軍と海軍陸戦隊の将兵は、手持ちの火器を全て投入した。小銃、機関銃、曲射砲にさらには虎の子の89式中戦車の戦車砲までも使い、生き残りの翼竜を全て駆逐した。


 また落下傘で地上に降りた竜騎士の捕縛も行われた。ほとんどは負傷して既に逃亡できる体になく、簡単に捕らえられたが、1名だけは市街地を逃げ回った。


 しかしこの竜騎士の最後は、意外なものであった。


「敵兵よ!」


「ひっ捕らえるのよ!」


 女学校の敷地に入り込み、そこで同校の生徒たち(しかも長刀付)と鉢合わせしてしまったのである。


「来るな!」


 短刀を振り回して逃げようとしたが、集まってきた女生徒たちが寄ってたかって攻撃を加えるのだから、溜まったものではない。あっという間に手にしていた短刀を叩き落とされた挙げ句。


「おりゃああ!」


「ギャアアア!」


 一人の女生徒の一本背負いを食らって、文字通り叩きのめされてしまった。もちろん、気絶したその竜騎士は、そのまま通報を受けてやって来た陸軍に引き渡されている。


 こんな感じで、夜までに翼竜の掃討と敵兵の捕獲は完了した。しかしながら、ことはそれで済まなかった。




「今回の空襲で、我が方の被害は軍のものとしては米駆逐艦「スチュワート」が大破、戦闘機5機が撃墜もしくは不時着などで喪失。戦死者は「スチュワート」の乗員17名を筆頭に、陸海軍兵士はパイロットや翼竜の掃討にあたっていた部隊の将兵など、合わせて11名です。負傷者は集計中ですが、100名前後かと。その他に敷島港や春日港の設備に若干の被害が出ていますが、いずれも致命的なものではないとのことです」


「今のところ判明している民間の被害としましては、敵の爆撃や、発射された高射砲や機関銃の破片などにより、死者9名。負傷者はその10倍近い数を記録してなお増える勢いです。建物の全半壊や焼失は合わせて50棟あまりです」


「戦果としましては、来襲した約80騎の内半数程度を撃墜し、また3名の竜騎士を捕虜としました。地上に墜ちた翼竜は全て射殺。また抵抗したためにやむなく射殺した竜騎士も2名います」


 空襲の翌日、朝陽市の新海道庁では軍民関係者による緊急会議が開かれていた。前回と顔ぶれはほとんど変わらないが、内容は前回が空襲への対策を話し合ったのに対して、今回はその被害状況の確認である。


 関係者は昨日は1日中敵竜騎士の襲来に対応し、今日も緊急の会議のために飛行機などを使ってはせ参じていたが、疲れた体と頭に鞭打って会議を進めていた。


「まずはカールセン提督。貴軍の駆逐艦乗員に多数の死者を出してしまったことに、新海道の防衛を預かる身として、お詫び申し上げる。それとともに、亡くなった乗員には哀悼の意を表したい」


 報告が終わると、須田はまず多数の死者を出した米軍に謝罪と哀悼の言葉を口にした。


「閣下に気遣っていただき痛み入ります。ですが、おたくの軍や民間人にも被害は出ている。俺からはそっちに哀悼の意を表したい」


 米戦隊司令のカールセン提督は、自軍の損害が大きかったにも関わらず、日本側への哀悼の意を口にした。こうした気遣いが出来るのは、さすがは高級士官というところであった。


 彼に続き、イギリス海軍のコネリー提督と、フランス海軍のペンス提督も犠牲者に対して哀悼の言葉を口にした。


「民間の被害の復旧に関しては、既に取り掛かっています。また罹災者に対する救護活動なども、軍民共同で実施中です。残念ながら被害は決して小さいとまでは行きませんでしたが、現状市民生活に重大な影響はないとのことです」


 道庁長官の大塚の言葉に、他の参加者も明るくなる。被害0とは行かなかったが、一方で市民生活の根本を揺さぶるほどの被害でもなかったようだ。


「来襲した敵騎が分散してくれたおかげですな。仮に来襲した全てが朝陽市に襲い掛かっていたら、この程度では済まなかったでしょう」


 コネリー提督の言葉に、須田も頷く。


「朝陽市は襲われた3カ所の中でも、一番防御力が弱かったですからね」


「高射砲がもっとあれば」


 陸軍をとりまとめる安来が口惜しそうに言う。彼の耳にも、敷島軍港の高角砲が多数の翼竜を撃破し、軍港への被害を未然に防げたという報告は入ってきていた。


「今さら過ぎたことを悔やんでも仕方があるまい、安来少将。しかし、今回の戦いでは多くの戦訓も得られた。翼竜に対しては、高角砲が大きな効果をあげえることが立証された。また、戦闘機も翼竜を圧倒とはいかんが、迎撃手段として有効であることもわかった。これは大いに有益な情報だ」


「私としては、翼竜の出現に関しての情報の方が気になります」


 今回も参加しているイルジニアのナガ大佐が口を開く。


「翼竜は空の裂け目より出現したそうですね」


「翼竜を最初に発見した敷設艇の乗員たちは、揃ってそう証言していると聞いてる」


 最初に翼竜発見の報告をした敷設艇「燕」は、救援活動支援のために昨日夕方に朝陽港に入港。乗員を上陸させてケガ人の救護や炊き出し、復旧作業の支援を行っている。それとともに、乗員からの報告もあげられていた。


 翼竜は突然発生した空の裂け目から出現した。俄かに信じがたい内容であったが、複数の乗員がその報告をしていることと、翼竜の出現が味方の哨戒網に引っ掛からず、いきなりのことであったため、とりあえずその報告内容は会議参加者全員に伝えられていた。


「そんな魔法みたいなことがあるんでしょうか?」


 とフランス海軍のペンス提督はバカにしたように言ったが、ナガは真面目な顔で答える。


「案外、その魔法かもしれません。ペンス提督」


「何だって!?」


「この世界の住民、すなわち我々が魔法を使えることは御存じですか?」


「ああ。それは聞いてる。だが、その魔法はここでは使えないのだろう?」


「そうです。現に私やルクス領事、そして他の者もこの島では魔法を使えません。しかしながら、もし今回の翼竜の出現が、バルダグ人が用いる『転移』の魔法であるなら、納得いくのです」


「その、『転移』という魔法はどのようなものなのかね?」


 ナガの神妙な面持ちに、思わず須田も前のめりになって聞く。そして彼の答えは、この場にいる全員を驚かすに充分だった。


「『転移』の魔法は、人や物体を瞬時に遠方へと飛ばしてしまう、バルダグ人が得意とする魔法なのです」


「何だって!?」


「それじゃあ、翼竜を何千キロも彼方に瞬間移動させたって言うのか!?」


 参加者が驚きのあまり、次々に声を上げる。瞬間移動など、現在の地球の物理法則からあまりにもかけ離れている。


「私も、決してバルダグの魔法に精通しているわけではないのですが、そのような魔法があるそうです。彼らが自分たちの国で魔法を発動させたのなら、この島の近辺に出口を設け、竜を送り込んだのかもしれません。ただ・・・」


「ただ何かね?」


「常識的に考えれば、それだけ規模の大きな魔法を発動させるには、相当な魔力が必要な筈ですし、

既存の魔法技術で出来るとも思えません。何より並の魔術師で、それが可能かどうか」


「ナガ大佐。魔法について門外漢の我々がいくら言われても、どうにもならんし、ここで議論しても意味はない。とにかく、今回の翼竜は魔法によって瞬間移動した可能性がある。そういうことだね?」


「そうです。須田提督」


「となると、敵はまたこの島の近辺、ひょっとしたら島の真上に翼竜を送り込む可能性もあるわけか・・・・・須田提督、そんなことになれば防衛など出来たものではありませんぞ。少なくとも今の体制では不十分過ぎる」


 安来の顔が苦渋のそれになる。彼の言う通り、いきなり頭上に現れれば防ぎようがない。


「わかっている。今後も厳戒態勢は引き続き取らなければならないし、本国にも早急に増援を要請しなければなら「失礼します!」


 会議室の扉が開き、一人の英国海軍士官が飛び込んできた。


「こら!今は重要な会議中だぞ!」


 脇に控えていた参謀の一人が怒声を上げるが、その士官は臆することなくコネリー提督の所まで行き、紙を手渡した。


 その紙を読んだコネリー提督は、静かに須田に告げた。


「須田提督。緊急事態です。イルジニア中部のダーラシャにいる我が国の貨物船からの緊急電です。街がモラドアのものと思われる竜騎士の大規模な空襲を受けており、緊急脱出するとのことです」


「バカな!あそこは最前線から遥か彼方なのに!」


 声をあげたのは、イルジニア領事のルクスだった。そのうろたえ様から、彼にとって本当にありえないことが起きたと誰の目にも明らかだった。


「どうやら、この島のことだけで済みそうになさそうだな」


 須田はため息を吐きながらそう口にした。そしてその言葉は、決して間違っていなかった。

 




 御意見・御感想よろしくお願いします。


 架空戦記創作大会用作品などとの兼ね合いで、今後更新間隔が間延びするかもしれませんが、悪しからず御容赦ください。

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