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秘密が今、明かされ……る?

「ここに集まってもらったのは他でもないよ!」


 やや薄暗い空間。

 長机が置かれて、その左右に見知った顔が並んでいる。

 右側には、楓、夏芽、麻耶、理恵子。

 左側には、小鞠、利理、洋子、栄。

 長辺には、お誕生日席に勇太。そして対面に黒一点。郁己である。


「うわー、坂下くんハーレムじゃーん。うっらやましいなあー」


 早速麻耶が茶化した。


「ハーレムですって!?」


 いきなり小鞠が激昂した。いや、彼女はいつも怒ってるようなものなので平常運転かもしれない。

 郁己はとてもい辛そうにもじもじした。

 勇太はそれを見て「こんなハーレムはいやだ」と確信する。

 郁己が助けを求めるような視線を向けてくるが、ここは心を鬼にして黙殺した。彼の背後には扉があり、その気になればすぐに出て行くこともできるだろう。

 だが、ここに居並ぶ八名の女子がそれを許すとは思えない。


「失礼しまーす。ドリンクお持ちしやしたー」


 扉が開き、店員がジュースを十人分持って現れた。

 そして、不気味な沈黙に包まれたこの空気に目を見張る。

 彼は静かに汗をかき、


「し、し、失礼しあす」


 舌が回ってない感じで、厳かにジュースを置いて立ち去った。

 そして背後に点灯する大きなディスプレイを見る。

 まだ一曲も入っていない。

 どういうことだ?

 この人数で、誰も歌わないのか……!?


 そう、ここはカラオケボックスである。

 小規模なパーティルームを借りた勇太たち一行は、ここで会議をしようとしているのだ。

 議題は、本日教室に貼られていた、謎の写真と怪文書。


「コラージュっぽいよねえ」

「そうねー。あたしはまあこういうの良くわかんないけどさー。よく見たら別人かもって……うっわよく似てるわ」


 麻耶と利理が写真をまじまじと眺めながら講評する。


「これって卒業アルバムに載ってる写真よね? あたしの学校もそうだったわ。こんな感じで撮られてるんだけどさ。なんか、コスプレって言うには堂に入りすぎてるのよね」


 小鞠は自分用のコーラを啜りながら呟く。

 夏芽と洋子さんは、あろうことか端末で歌を検索し始めている。

 どうやら空気を読まずに歌う気になったらしい。


「うん、それは……」


 言いかけた勇太の手の甲を、楓がギュッと握る。

 二人の目が合う。

 楓の唇が、『いいの?』と動き、勇太は小さく頷く。

 郁己が何やら、その決断に意義あり! と動こうとして、トイレに立とうとしていた栄と衝突して倒れた。


「あらごめんなさい」

「ぐうおおお……凄い弾力だった……!」


 これはこれで幸福感を感じる衝突である。

 そんなあれこれを他所に、勇太は息を吸うと、その決断を伝えようとする。


「私はね、本当はおと」

「あ、私の曲だわ」


 夏芽が立ち上がり、マイクを手にして歌いだした。

 一昔前のPOPSである。理恵子がノリノリでタンバリンを叩き、洋子がニコニコしながらマラカスを振っている。


「おぉい!?」


 何か真実があらわに! と思っていた小鞠、肩透かしをくらってとりあえず洋子に突っ込んだ。


「あぁん♪」

「洋子もへんな声出すなー!」

「小鞠ん、肘、肘があたしのおっぱい圧迫して痛いんだけど」

「くっそ、無駄に大きい胸しやがってー!」


 夏芽の歌が続き、間奏に入る。

 そこで、小鞠は勇太に、続きを目で促す。


「いやあ、ちょっとタイミング難しいって……」

「ぬう……。なんていうかどうしてこうマイペースな子ばっかりなのよ」

「小鞠ん、人のこと言えないって」

「うちも何か歌っちゃおうかなあ」

「やめれ!?」


 向こうでは、トイレから戻ってきた栄が扉の前の郁己につまずいて、彼を押しつぶすように転んでいる。

 郁己の頬がにやけていて、勇太はちょっと頬が引きつる。

 彼を隣に置くべきだったか……!!


 夏芽の曲が終わったところで、新たな曲を入力しようとしていた洋子から利理が端末を没収した。


「あーん」

「洋子、ちょっと待とうねー」

「あら、このメニューは初めて見ます。どうでしょうか」

「あっ、理恵子ハニトー人数分は多いよ!?」


 ピロリン、注文が入る。

 パン一斤丸ごとを蜂蜜とバニラアイスでコーティングしたごっついメニューである。


「つ、つ、続けようか!」

「そうね! 続けましょう!」


 勇太と小鞠は必死になって場を取り持とうとする。

 ここに集まった少女たちは、素晴らしいほどにマイペースであった。

 全員が全員、めいめいに動く。自由すぎる。


「何気に小鞠んと勇って気が合うと思うんだよねー」

「あ、竹松さんもそう思う? うちもうちも」


 小鞠の向かいでは、さっきからずっと緊張しっぱなしらしい楓が真っ赤になったり真っ青になったり。

 早く事を済ませないと、この友人の身が危ない。


「あのね、聞いて欲しいんだ!」


 スッとテーブルの下に潜り込んでいた理恵子が、勇太にマイクを差し出す。

 手に取ると、一瞬キィーンっとハウリングした。

 みんなが耳を塞いだ。

 勇太は慎重にスピーカーから位置を取り、いわゆるお立ち台へ立つと、びしっと長机を指差した。


「私は……私は確かに、三年前まで男の子だったんだ!!」

「な、なんですってー!!」


 大変反応がいい小鞠である。

 もう、明らかに振りを待っていた感ありありだ。

 タイミングぴったりの二人の言葉の後、一瞬、その場は静寂に包まれた。いや、ディスプレイとスピーカーから、今週のベスト10ソングが流れている。


「……えっ?」

「はい?」

「は!?」

「む?」


 夏芽、麻耶、利理、栄が驚きの声を漏らした。

 認識するのに時間がかかったらしい。


「なるほどー。そう言う事もあるのねー」

「複雑な事情があるのですね」


 洋子と理恵子はなんだかスルッと受け入れたようだ。

 二人の変人を他所に、少女たちは色めき立つ。


「え、え、え、それじゃあ、この写真って、本当に勇なの!?」

「勇が、男……? そんじゃあ、うちはずっと男の子とあんなことやこんなことを……! ひゃー」

「うひー!? えっと、つまりさ、どういうことなの!?」

「性同一障害、とか?」

「あたしたちは説明をもとーむ!!」


 最後に立ち上がった小鞠が拳を天に突き上げた。

 だが、顔に怒りはない。

 むしろ会議が想定の流れになったことにホッとしている風である。


「あ、あいた、いたたたた」

「あっ、楓がお腹を!!」


 誰よりもストレスを感じていたのは彼女だったようである。

 ここは、お腹が痛くなってしまった楓を(おもんばか)ってしばし中断。

 そして、奴がやって来た。

 ハニトー10人分である。


 衝撃的事実を耳にしてしまった少女たちだったが、本日は始業式、半ドンである。

 つまり、昼食を摂っていない。

 甘い香りを漂わせるハニトーに、誰かさんと誰かさんのお腹が合奏を始める。


「とりあえず、ご飯にしましょ」


 小鞠の言葉に、誰もが頷いたのである。

明かされそうで明かされない

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