表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
79/81

プレゼント談義2

 ショッピングセンターである。

 学園がある駅から電車に乗り、最初のターミナルステーションまでやって来たのだ。

 この市には、最近できたショッピングセンターが多くある。

 そのうちのひとつ。


「師匠、倫子さんには何を送れば……」

「一般的な女子なら、欲しい物とかそれとなくリサーチすればいいけど、あの人は変わってるからねえ」


 下山の質問に、勇太が重々しく答えた。

 何しろ、勇太は件の倫子さんと、同室で一夜を過ごすくらいには仲良しである。

 無論、やましいことなど何もない。

 さすがの勇太も、自分とそっくりな顔をした女性を相手に妙な気を起こすことは無いのだ。


「お化粧は薄かったでしょ? 倫子さんって、自分を飾るよりも実用的なものが好きみたいで……」


 二人はショッピングセンターの入り口をくぐると、広々とした店内を歩く。

 近くにモノレールの駅があるため、乗降客はここに立ち寄ることが多い。

 平日の夕方近く。

 大変な賑わいだ。


「西表島でなかなか手に入らないものを送ってあげたらどうかな? ルンバとか」

「さすがに俺のお小遣いだと厳しい!!」

「型落ちなら……」

「ルンバ、もしかして金城さんが欲しかったりしないか……?」

「ばれたか」


 ペロリと舌を出す勇太。

 色白なことを除けば、倫子さんにそっくりな彼女を見て、下山のハートがズキズキする。


「よし、じゃあまずはここ行ってみよう」


 気付くと、勇太に連れられてピンク色のコーナーに来ていた下山。

 ハッと顔を上げて、そこがどこなのか理解した。


「じょ……女性下着コーナー……!!」

「サイズは分かるでしょ?」

「いやいやいや! 分からないって!」

「……そっか!! 私、一緒に寝てたから分かるだけだわ。ごめん。えっとね、倫子さんのサイズはね」

「やめてー! たとえ恋の師匠でもその口から好きな相手のスリーサイズは聞きたくないー!」

「繊細だなあ」


 女性下着は取りやめということになった。

 よく考えれば、普通にセクハラかも知れない。

 いや、よく考えなくてもだけど。

 下山は、離れ行くコーナーにちょっと未練を感じつつも、前を向くのであった。


「下山くん、ちょっと変わったねえ」

「は? 俺が変わった? どこがですか師匠」

「前は遥ちゃんとかに粉かけてたでしょ。おとなしそうな女子とか」

「うっ!! な、なんでそれを」


 心当たりがありすぎる。

 恋のショットガンをぶっ放し続けてきた男、下山である。

 今のところ、全弾外れだ。

 そんな彼が今、一人のハートを射止めようと必死になっている。


「最近の君の行動、全部、倫子さんが来てからやり始めたことばっかりなんだもん。それで受験がピンチになっているのはちょっと笑っちゃったけど」


 笑っちゃいけないところだろ、とは思う下山だが、自業自得である。


「やっぱり諦められなかったでしょ」

「駄目だった……。一応、まだメールのやり取りはしてるんだけど……」

「だろうねえ。倫子さんからして、下山くんを嫌いになったわけじゃないもの」

「そ、そうなの?」

「そう。だって下山くん、彼女に嫌われることしてないでしょ」

「あ、当たり前だよ」

「SNSとかで告っちゃえばいいじゃん。流行ってるでしょ」

「あれはなんつうか、流れが早すぎて……! あっという間じゃない」

「そだねえ。でも、その軽さとかスピード感がいいんでしょ?」

「OKもらえる自信がないです、はい……」

「だよねー」


 勇太はうんうん、と頷いた。

 二人は電化製品コーナーを冷やかし、クリスマスプレゼント用のコーナーで立ち止まる。


「あらお二人さん、カップルかしら。彼女にプレゼントですか?」


 店員のおばさまが近づいてきた。


「あ、いや、そんなんじゃないっす」

「この子が好きな子にプレゼントあげたいって言うので、一緒に見に来てあげたんですー」

「あらあら」


 おばさまの目が、微笑ましいものを見るものになった。

 いたたまれなくなって、下山は勇太の手を引っ張ると、コーナーを離れるのである。


「どうしたの下山くん?」

「さすがに居づらい! っていうか、彼女じゃない女子とクリスマスプレゼント見に来る男ってなんだよー!」

「よくいるんじゃない?」

「いないって!」

「それに、あのコーナーで決めるつもりはなかったし」


 勇太がさらりと言って、立ち止まった。

 そこは、賑やかなフードコート前。


「ま、お茶でも付き合ってよ」





 二人でシェアポテトを頼みつつ、コーラでそれを流し込むのである。

 下山は胸がいっぱいらしく、ポテトが進んでいない。

 難しい顔をして唸っている。


「ううー、お、俺はどうしたら……」

「思うんだけどさ」


 ポテトを三本まとめてケチャップに付け、口に放り込む勇太。

 もぐもぐと咀嚼した後、コーラを一口。


「会いに行っちゃえばいいじゃん」

「……!?」


 口にした言葉は、凄まじい衝撃で下山を殴りつける。

 恋する少年は目を見開き、目をしばたかせた。


「い、いや、そういうわけには」

「倫子さん一人で全部の仕事やってるんだよね。ガイドから、東京来て商談とかさ。手伝いは欲しいだろうけど、あの人、人を雇うのとか苦手みたいなの。だから、自分から一緒に働いてくれる人が必要だと思うんだけど」


 一瞬、下山は黙る。

 それってどういうことなのだ。

 自分が西表島に……?


「だけどよ、うちの親は大学行っとけって。いや、まあ、奨学金をいくらか借りるかもだけど……」

「倫子さん諦めて、大学行って何するのさ。それにもともと行く気無かった大学でしょ?」


 勇太の言葉がグサグサくる。

 下山はちょっと涙目になった。


「金城さんがいじめる」

「あー、ごめんごめん! えっとね、つまり、大学って通信もあるんだってさ。どうせ自分探しの旅とかするつもりだったんなら、倫子さんのところに飛び込んでみなよ。で、勉強も一緒にする! 社会勉強も一度にできてお得じゃん?」

「それって、つまり……」

「下山くん自身がクリスマスプレゼントってわけだね。連絡してみなよ」

「ちょ、ちょっと待ってくれ! えっと、ほら、卒業とか色々……」

「そこを計算したり、親とか先生と相談するのは君の仕事! がんばれ、弟子!」

「ううっ……!! 師匠が厳しい……!!」


 だが、下山の気持ちは燃え上がりつつあった。

 漠然とした不安の霧が晴れて、やりたいこと、やるべき事が目の前にある。


「倫子さんには私から、下働きが一人行くよって伝えておくから! いきなり行くと大変だからねー」

「お世話になります、師匠……!!」


 かくして、迷える子羊の進む先が、一つ決まったわけなんである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ