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プレゼント談義

 珍しく……というと何だが、三年二組の教室で、男たちが角を突き合わせている。


「まだ十二月第一週だが……考えねばなるまい」

「だよなあ」


 難しい顔をしているのは、彼らの中心人物である坂下郁己。

 そして、らしくもなく真剣な表情の上田悠介。

 二人に共通しているのは、彼女持ちということだ。


「何が難しいんだよ? テキトーでいいだろ、テキトーで」


 こう口にするのは、下山くんである。

 目下失恋中で、その痛手からようやく立ち直ったところだ。

 若気の至りで、卒業後は失恋旅行で世界一周バックパッカーなどを考えていたのだが、親に叱られて普通に大学受験を目指している。

 そしてもう一人。

 国後六郎は、彼女持ちの二人に負けず劣らず、真剣な眼差しだった。


「ペット用のゴキブリなんてどうだろう」

「げえ」

「マジか」


 国後の言葉に、仲間たちが顔をしかめる。


「お前それ、常識的に考えてありえないだろ。女子って言えばゴキブリが嫌いと相場が決まってるんだから」

「そうか。そうだよな。だが、俺は彼女がそれに対して悪感情を抱くかと言うと、そうとばかりは言い切れぬ気がするのだ」


 国後が遠い目をした。

 この男が彼女と呼ぶのは、脇田理恵子である。

 城聖学園でも美少女が多いと評判の三年二組に置いて、コケティッシュさの権化の金城勇、気さくな幼馴染系の雄と呼ばれる彦根麻耶に二大美少女を差し置き、誰もが納得して学園一の美少女であると認める、脇田財閥の娘。

 それが脇田理恵子。

 ちょっと造形がおかしいんじゃないかと言うほど、顔立ちが整っている。

 芸能人にも、このレベルはそうそういない。


 そんな彼女だが、どういうわけか、国後六郎と仲が良いのだ。

 国後と言えば、三年二組でも指折りの変人である。

 文学を愛し、古風な物言いをし、物事は常に複雑怪奇に考える。

 最近、彼の祖父が昭和の頃に有名であったさる文豪だと分かり、国後の人格形成に深く影響しているのであろうと、誰もが納得するところだ。


「彼女は、喜んでくれるのではあるまいか」

「脇田さんならありえるか」


 郁己が深く頷いた。

 

「だが、上田は水森さんにトイレグッズはやめるんだぞ」

「さすがに俺でもやらないよ!?」


 この会話の中、下山はしょんぼりとしていた。

 話の輪に加われない。

 いや、仲間たちは気を遣ってくれているのだ。

 それが分かるだけに、シングルの身としては逆にいたたまれなくなる。

 世の中は、女子よりも男子が多いらしいではないか。

 なら、あぶれる男は必ず出る。

 自分がそうなのではないか?

 そのように不安になる下山なのだった。


「よし、とにかく、クリスマスプレゼントに関しては早く動いて動きすぎということはない。軍資金の問題もあるしな。まずはお互いの相手から、それとなく欲しい物をリサーチするんだ」

「おう!」


 郁己の宣言に、上田と国後が同意した。

 置いてけぼりを感じる下山。


「うう……俺はどうしたら」






「うう……俺はどうしたら」


 放課後になっても引きずっている下山である。

 基本的に、女の子であれば誰でも可愛い下山であるが、それも彼女と変わってちょっと気持ちが変わったんである。


「倫子さん……! 振られはしたけど、諦めきれないのだ……! うおおー! 男は恋の記憶を別フォルダで保存すると言うが、俺は倫子さんのフォルダから動けないのだー!」

「下山がまた何か叫んでる」

「青春ねえ」


 クラスの女子たちから、生暖かい目で見られている下山。

 彼は掃除当番であり、モップを動かしては、時折懊悩して叫ぶのだ。

 傍から見ていて、大変絡みづらい。

 誰もが距離を置いて、彼をそっとしていた。

 だが、そんな空気はあえて読まない勇者がいる。


 それこそが、我らが金城勇太なのである。


「下山くん、恋の悩みだね……!!」


 窓ガラスを拭いていた彼女が、ドヤ顔で振り返った。


「あっ、あなたは────!!


 正直、倫子によく似た勇太の顔を見るだけで、下山の案外繊細なハートはチクチクする。

 それでも、こういう誰にも打ち明けられないような悩みを抱えた時、妙に鋭い嗅覚で嗅ぎつけてきて、無理やり相談に乗ってくる勇太は頼もしかったりする。


「で、つまりどうなのさ」

「は、実はクリスマスプレゼントに悩んでおりまして。俺が彼女にそんな物を送る資格があるのかとか……」

「あるに決まってるじゃん!!」


 窓を拭きながら、激しく断言する勇太。

 これを見て、女子たちが囁きあった。


「お尻が喋ってるみたい」

「でも、あの力強い言葉はかなり凄いよね。下山がハッとしてる」


 下山は、目からウロコが落ちる思いである。

 いいのか。

 良かったのか……!!


「正直、倫子さんにとって、下山くんはまだ恋愛対象じゃない……。だけどそれはつまり、これから昇格もあり得るということだよ!!」

「な、なるほどー!!」

「まずは彼女の近くに行ってみたらどうかな? っていうか、西表島には大学無かったと思ったから、沖縄の大学に進学するとか」

「それだ! 金城さん、あなたを師匠と呼んでも……!?」

「恋愛メンター金城に任せなさい」

「し、師匠ー!!」


 ここに新たな師弟関係が爆誕した。

 勇太だって、それどころではないはずなのだが、困っている人を放ってはおけないのだ。

 何より、未だに倫子さんとSNSでやり取りしあっている勇太。

 西表島の彼女が、下山を憎からず思っていることは把握済みなのだ。

 そして、今のところ倫子さんはフリー。

 だが、未来においてもそうだとは限らない。


「まずはプレゼントだよね。よし、私がプレゼント選びを手伝ってあげよう……」

「師匠、そんなところまで……!」

「もちろんだよ。そして西表島にはなかなか荷物が届かないからね。早めに送るべきだよ! だから、掃除が終わったらこれから選びに行く! 文芸部は休む!!」

「な、なるほど!! ありがとうございます! ありがとうございます!」


 ということで。

 師弟は連れ立って、ショッピングセンターへと向かうことになるのだった。

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