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ライトアップな商店街にて

 外はかなり肌寒くなって来ている。

 朝の寒さはそれほどでもないのに、日が落ちてきた夕方の寒気が、妙に肌を刺すように感じるのはなぜだろう。

 もこもこのブラウンのコートに、真っ赤なマフラーを巻き、校舎の外に飛び出した勇太はそう思った。


「勇ちゃん、くまさん、みたい」


 楓がくすくす笑う。


「そっかなあー」

「そう、だよ。もこもこっとしてて、かわいい」


 可愛いと言われると、ちょっと嬉しくなる。

 勇太は関節に力を入れて、のっしのっしと熊っぽく歩いてみせる。

 それがツボに入ったようで、楓がしゃがみこんで笑い始めた。


「あー、楓ちゃんがやられた! 道端でしゃがみ込むと危ないよー」


 笑いが止まらない楓を、勇太はひょいっと抱きかかえて道端に。

 彼女もコートでもこもこしているのだが、もとが細身だからとても軽い。


「楓ちゃんは大学進学を機会に、もっとお肉をつけては……?」

「お、お肉!? が、が、がんばる」


 勇太の腕の中で、がんばるぞい、のポーズをする楓。

 これがあまりに可愛いので、思わず抱きしめたままぐるぐる振り回す勇太なのだった。


「あーっ、ゆ、勇ちゃん、だめー、目、目が、回るう」






 駅に向かうルートからは外れるけれど、今日はなんとなく寄り道の気分。

 ということで、勇太と楓は商店街を冷やかすことにした。

 城聖学園本校がある山を降りると、谷底みたいになった街を歩くことになる。

 その中心にある川に、太い橋が掛かっている。

 これを越えると、その向こうに商店街があるのだ。


「おおー、もう、クリスマスムード一色だねえ」


 ライトアップされた商店街を歩き、勇太はきょろきょろと周囲を見回した。

 駅まで続く商店街は、真ん中に道路。

 左右を個人商店が埋め尽くす。

 それなりの数のお店は廃業していて、シャッターが降りっぱなしになっているけれど、そこにはクリスマスイベントのものらしいポスターが貼られていた。


 この商店街の街頭は、昔の時代のガス灯みたいな形をしている。

 そこに、魔女の形をしたパネルがぶら下げられて、風に煽られくるくる回る。

 パネルの下には緑のモールと豆電球がついて、なるほど、街頭一本一本が、ちょっとしたクリスマスツリーなのだ。


「凝ってるなあー。そう言えば、この季節にここ来たことあんまり無かった!」

「そう、だよね。わたし、あんまり寄り道、しないから……ちょっと、今は、悪い子気分」

「いいんだよ! 私たちもうすぐ大人でしょ? っていうか楓ちゃんはもう選挙権があったはず……!」

「十八歳、だもん、ね。選挙、行ってきました」

「おおー! 上田くんは行ったのかな?」

「悠介くん、も、だって」

「そっかー。じゃ、一緒に暮らすようになったら、二人で行くんだね!」

「い、一緒に……!」


 想像してしまったらしく、楓の顔がほんのり赤くなった。


「かーわいい。私は、高校卒業したら一緒に住むの! ……て言っても今でもお隣さんだけどね。問題はどっちの家に住むかだなあ……」

「大胆……! ……でも、勇、ちゃん。今でも、お隣さんなら、別に無理して一緒に、住まなくても」

「あっ、言われてみれば変わらない」


 むむむ、と唸る勇太なのだった。

 そんな他愛もないおしゃべりをしながら、二人は商店街を冷やかしていく。

 年頃の女の子が買い食いなど始めたら、きっと場の雰囲気に押されて、どんどん食べてしまう。

 少食な楓はいいけれど、勇太の胃袋は結構な大きさなのだ。


「ううっ、パン屋さんもケーキ屋さんも美味しそうだった……。だけどここで食べたら、夕飯もどうせたくさん食べるから絶対に太る。必要以上に太る……!」


 春からここしばらく、机に向かって勉強ばかりしていて、体を動かす方は少々疎かだ。

 妹の心葉にも、「勇太の二の腕が明らかにぷにぷにして来ましたね……。郁己も喜ぶでしょう」などと微妙なフォローをされている日々なのだ。


「これ以上お肉をつけてはいけない!」


 鋼の自制心で、勇太は食べるのを思いとどまった。

 最近では、胸ばかりではなく、お腹や二の腕、太ももにも肉がついてきているのだ。

 顔周りに付く前に自制、自制。


「そお? わたし、勇ちゃん、柔らかくて、好きだけどなあ」

「抱き心地についてはよく分かる。だけどこれは、自分との戦いなの……! 一定のプロポーションを崩さないようにしないと! ほら、郁己って細身でしょ。細マッチョ」

「マッチョ! そうだねえ。ゆ、悠介くんは、ちょっぴりお腹、出てきた、かも」

「高校生でそれはまずいよ!? 楓ちゃん、あいつをダイエットさせなきゃ!」

「そ、そうかな? お腹、柔らかくて、かわいい」


 親友の、可愛いの基準が分からない勇太なのだった。





 商店街を通り抜け、駅にてお別れ。


「また明日!」

「うん、また、ね! それで、勇、ちゃん」

「うん?」

「クリスマス、今年、も、やる? 受験で最後の、年だけど」


 楓はそう言った後、大きく息を吸い込んだ。


「わたしは、やりたいな。やろう?」


 勇太の目が丸くなる。

 気弱だと思っていた彼女が、はっきりと自分の意思を示してみせたのだ。

 彼女はちゃんと、前に進んでいる。

 勇太は満面の笑みを浮かべた。


「やろう! 受験勉強追い込みがなんだ! だね!」


 二人はハイタッチ。

 かくして、高校生活最後のクリスマスパーティも執り行う運びとなったのだった。

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