最後の年のチア合戦
お昼休みの頃合い。
ここで今年もチア合戦が行われる。
「三年生は見てるだけかあ」
つまらなそうな顔で、チア合戦を眺める勇太。
「仕方ないでしょ。城聖学園は三年生は参加禁止だもの。ほら、受験がある人が多いでしょ? 勇だってそうじゃない」
「それはそうだけどー。夏芽ちゃんも楓ちゃんも推薦決まってるでしょ? ならいいんじゃないの?」
「う、うん。だけど、受験の、人のほうが多い、から、ね」
「そっかあ」
ちらっと別の女子たちを見る勇太。
そこでは、早速ランチを広げている麻耶と理恵子、栄。
勇太の視線に気づくと、理恵子は笑顔で手を振った。
「理恵子、あれって勇が、受験の具合はどうって聞いてるんだよ。おーい、うちは絶賛受験勉強中」
「そうだったのですね。私もでーす」
「私も」
おっと、大盛さんも受験勉強中だった。
彼女は推薦は受けていないようなのだった。
「普通の大学を目指すので」
「体育大じゃないんだ」
「柔道は趣味」
「そっかー」
人それぞれである。
勇太、ちょっと納得。
背後の男子たちは、聞かれてもいないのに「俺受験!」「俺も俺も!」とか言ってくる。
ちなみにそんな男たちの中、ミスタートイレットのあだ名を持つ上田悠介は、堂々たる態度で「俺は推薦だがな、はっはっはー」と笑った。
男たちが、このトイレマンを「このやろー」「あやかりてー」ともみくちゃにする。
「男子は仲いいねえー。私もああいうのに憧れる……」
中学生であった頃の、男同士のスキンシップ的なものを懐かしく思う勇太なのである。
そこで横を見ると、郁己がいた。
「なにっ、勇、俺で良ければやってやろう」
「郁己、そういう変な空気になったときの事もう忘れたかあ」
「おう、俺たちだとシャレにならないな……」
スッと下がっていく郁己である。
このやり取りを聞いていた、夏芽と楓がカチコチに固まっている。
「ゆ……勇さ」
「なんですかね」
「その……先輩とお呼びしても……?」
「どうしたの夏芽ちゃん」
「どうやって、そこまでオープンな関係に……? あたしら、ようやくキスかどうかってところなのに」
「そりゃ日頃の努力だよきみー」
適当に答える勇太なのだった。
そんな彼女たちの前で、チア合戦が始まる。
一年組と二年組によるチアなのだ。
「おっ、二年の外人の子!」
「万梨阿ちゃんと仲いいんだよねあの娘。エリザちゃんって言うんだって」
健康美の猪崎万梨阿と、美術品めいた綺麗さのある間戸エリザ。
この二人の組み合わせを中心にして、今回のチアを構成するらしい。
そして、周りを固める一年生女子。
その中で、一弥と淳平となかよしなあの女子の姿も。
「おっしゃいけー鈴音ー!! 板澤家の意地を見せろー!!」
いきなり隣のクラスで、立ち上がって声を張り上げる小柄な女子。
頭の両側に髪でお団子を作った特徴的な彼女は、板澤小鞠。
勇太の友人にして、かつて郁己に告白した女子である。
「はえ……!? 小鞠ちゃん!? じゃあ、あの娘……」
「勇じゃん、久々! そう。あれなるは、あたしの妹!! 板澤鈴音よ!」
「妹!! ほえー! かわいいー!」
女の子大好きな勇太、大絶賛を送る。
もともと、気が強そうな顔立ちの小鞠だが、鈴音はそれを受け継いでちょっとつり目気味。それでいて、胸元や腰回りは姉と違ってなかなかのものなのだ。
勇太の好み、どストライクである。
ちなみに、大体どんな女の子でもストライクゾーンに入る。
「全ての女子は女子であるというだけで可愛い」とは勇太の言である。
ぴょんと鈴音と女の子たちが跳ねる。
健康的な女子の華やかさで、体育会場はわっと盛り上がる。
「小鞠ちゃん……。今度、鈴音ちゃんと二人で遊びに来なよ」
「いきなり何言ってるのあんた!? なんか、声色がガチなんだけど!」
野生の勘で、勇太の放つやばそうな空気に気付く小鞠。
そこへ麻耶がやって来て、
「どーもどーも、うちの勇がすみませんー。チアに出れなくて欲求不満なんですよー」
とか謝りながら、勇太を回収していった。
「うわーん、欲求不満なんかじゃ……なんかじゃ……あーっ! チア出たかったー!!」
やっぱり欲求不満なのだった。
そんな三年生をよそに、チア合戦は大盛りあがり。
こればかりは、一組も二組も三組も無い。
学年だって関係なく、みんながみんなをもり立てるのだ。
今年は、城聖の巨人こと岩田夏芽と、城聖の軽業師こと金城勇が引退したため、演技自体には派手さは無い。
だが、新たな世代の息吹を確かに感じさせる、そんなチアだった。
少女たちが輪を作り、その中から最後に、万梨阿とエリザが宙へと飛び上がり、曲の最後に合わせる。
わーっと、周囲から歓声が上がった。
「来年の主役は鈴音ね……! あたしはチアをやるには運動神経が駄目だったけど、あんたならできる……!」
満足気に頷く小鞠なのだった。
これにて体育祭は終わり。
次からは11月度に入る予定です。