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体育祭、障害物競走に挑め

 さてさて、お次は二年生による障害物競走。

 ハードル、跳び箱、網を潜り抜けて、最後はぶら下がっているパンを咥えてゴールせよというごった煮の競争だ。

 これに参加するのは、村越龍。

 女の子になっちゃった男子三人のうち、二年生である黒沼遥の相方である。


「龍、がんばっ」

「がんばれよっ」


 遥が顔の前で小さく拳を作って応援してくる横で、二人の友人たる猪崎万梨阿。

 そして万梨阿の背中で、何か赤い影がゆらゆらしている。

 これは炎神様。


「おう、任せろ。っていうか猪崎! お前炎神様連れてきてるのかよ!」

「なんか体育祭に興味あるんだって」

「凄い神様もいたもんだなあ」


 龍は苦笑しつつ、遥の頭を優しく撫でた。


「んじゃ、ぶっちぎってくる」

「うん!」


 かくして、競技に出場する龍。

 とある、一子相伝のような武術を受け継ぐ彼は、その体運びの巧みさ、並のアスリートを凌ぐ。

 ピストルの音が響き渡り、並ぶ男子が一斉に走り出すと、龍の真価は白日の下となった。


 並ぶハードルを、まるで平らな道を駆け抜けるかの如くに突破していく。

 頭の高さも、走るペースも変わらない。

 ハードルはかなりの高さがあるはずで、跳躍を必要とするはずなのに、それが走るリズムの中に完璧に取り込まれているのだ。

 あっという間に、他の生徒をごぼう抜きにした。

 そして跳び箱。

 踏切台を蹴り、跳び箱に手をつくこともなく宙返りして飛び越えた。

 まるで猫のように柔らかく着地すると、降り立った足は既に走り始めている。


「化け物だねー。磨きがかかってるねえ……。青神流は熟練するほど人間じゃなくなるとか母さんが言ってたけど、アレは冗談じゃなかったんだねえ」


 三年生の控えからこの光景を見守る勇太。

 四神にまつわる武術を学んでいる身として、目の前の後輩がいかにとんでもないのかがよく分かる。

 そうでなくても、恐ろしい速度で障害物層を制覇する彼に、会場の目は釘付けだ。

 障害が障害になっていない。

 宙返り着地の後は、無意識に誰もが拍手してしまったほどだ。


 そして、龍は地面に敷かれた網に突入。

 目の荒いロープで編まれたこの網は、色々引っかかって大変通りにくい。

 だが、それすらもものともしないのが青神流の継承者。

 最近、師匠と立ち会って一撃浴びせることに成功したという彼は、昨年とはその動きが別物だった。

 指先が地面をえぐるように掴み、網は彼の背中を、まるで流れる川のように抜けていく。

 いっぽいっぽ、進んでいく手足の動きに遅滞は無い。

 もはや、障害物走は彼の独壇場だった。


 ただ一人、網を抜け出た龍。

 ついにはぶら下がっているパンに食いつき、肉食獣が如き荒々しさで食い千切ると、そのままゴール。

 その時には、まだ他の走者は網に入ったばかりである。

 圧倒的であった。

 周囲は、歓声を上げていいのかどうか戸惑っているようだ。

 だが、龍のクラスメイトだけは大歓声を上げる。


「やったあ! 龍、一位だー!」


 遥は大喜び。

 一位のフラッグを持った龍は、彼女に見えるようにそれをぶんぶん振り回した。

 それすらも、槍を振り回す演舞に見える。


「あれは反則だなあ……。村越くん、通常の競技に出ないのは、彼なりの手加減なんだろうなあ」


 郁己がしみじみと呟いた。


 障害物競走は、初手で村越龍という化け物が出走してしまったため、その後の男子たちの走りは和やかなものにしか見えなかった。

 この辺り、出走した彼らにとってはお気の毒さまである。


「遥、なんかぴりぴりしてない?」

「なんかね、他の女子が龍を見てるの。危ない予感がする……!」

「あー。彼、めちゃめちゃスペック高いもんねえ。そしてそのスペックを、全校に見せつけた感じになったね!」

「わーん、ライバルが増えるよう」

「増えたところで遥の圧勝じゃん。あいつ、あんた以外の女は見てないでしょ?」


 遥以上に、龍と遥の二人をよく分かっている万梨阿なのである。 

 入学以来だから、それなりに付き合いも長い。


「でもそれはそうと、村越はもっと手加減をすべき。あとでとっちめる」


 そう言いつつ、万梨阿は立ち上がった。


「万梨阿?」

「次はあたしの番! 女子障害物競走よ! おら、男子ども、よーく拝んでおけー!」


 万梨阿が吠えると、クラスの男子たちからドッと笑いが上がった。

 だが、みんな目は笑っていない。

 万梨阿の言う通り、女子の障害物走をよく拝むつもりなのである。


 ハードル、跳び箱の高さは低い。

 だが、本番は網をくぐる関門である。

 網と女子。 

 これが男たちの煩悩を煽る。


 ……ということで。

 女子障害物競走に並んだ選手は、誰もが目立ちたい女子ばかりなのだ。


 競技の始まりに、盛り上がる男子たち。

 それは二年ばかりではない。

 一年、三年ともに大盛りあがりだ。


「うおー! こんな競技が許されるのかー!」


 競技から目を離せない一年生の二人組は、一弥と淳平。


「何凝視してんのよあんたたち!」


 それを鈴音が後ろからひっぱたいている。

 そもそも、女子の姿であり、肉体的にも女子になっている一弥が女子障害物競走に興奮しているのは絵的にあれである。


「夜鳥って、女の子が好きだったんだ……?」

「ああ、だから板澤と仲がいい……?」


 一年のクラスが、妙な理解を広めていく。


「ちがーう! いや、違わないけど違う!」


 否定の言葉に困る鈴音なのである。

 そしてそして、三年生。


「万梨阿ちゃんは健康的肉付きでいいね! 大会運営、分かってるねえー」

「勇がおっさんみたなこと言ってる! まあいつものことかあ」

「勇ちゃん、は、可愛い女の子、大好き、だもんね」


 競技に興奮する勇太と、両脇の夏芽と楓。

 さすがに付き合いが長い二人は、勇太という人間がよく分かっている。

 男は郁己一筋。

 女の子は全般的に大好き。

 それが金城勇太なのだ。


「しっかし万梨阿ちゃん、それは反則だぞ……! 炎神様に手伝わせるなんて」


 勇太の目にだけ見えているのは、炎神様に持ち上げてもらったり、背中を押してもらったり、楽をしながらトップを走る万梨阿の姿なのだった。

 驚くほど仲良くなっている、女子高生と神様なのだ。


「おっかしいなあ……。うちの神棚にいたころは、炎神様はうんともすんとも言わなかったのに。万梨阿ちゃんとそんなにウマが合うのかなあ……」


 これは由々しき問題だ。

 しかし、彼女の太ももは素晴らしい。

 勇太は知性と煩悩の間で揺らぐのである。


超久々の投稿であります。

体育祭編を、あと1話で終わらせて行く予定です。

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