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いざセクハラ!? 勇太、メイド喫茶に挑む

「ふっふっふ、やるぞぉ」


 勇太が大変やる気になっている。

 二年の出し物であるメイド喫茶。その入口をくぐるなり、彼女は室内を睥睨した。

 メイド、メイド、執事、執事。

 女子高生のメイド服は、着慣れていないあたりが可愛らしく、ちょっと恥ずかしげに「ご主人様」などと言う様子はたまらない。

 男子高校生の執事服は、やはり着慣れていない上に、思春期男子が気取った風に「お嬢様」などと言うのは、大変恥ずかしいようでみんな必死の様子だ。


「うぷぷぷ……ど、どうしよう郁己。私、男の子の女の子も可愛くて仕方ないんだけど……」

「おお、両方行けるようになってしまったか。業が深いな」


 そのような事を言いつつ、郁己には相方を止めようという気配がない。


「いらっしゃいませ……あっ、金城先輩!」


 学校の有名人である金城勇の来店に、やって来たメイド少女がハッとした。


「うん、私だよ。うふふ、君かわいいねえ」

「あっ、あのっ、そこ……きゃっ」


 勇太が女性である特権を使い、さりげなく色々とまさぐっている。

 学園三大美少女と数えられる彼女と、まだあどけなさを残すメイド少女の組み合わせは実に百合百合しかった。

 自然と店内の注目が集まる。

 さすがにこれはいかんと思ったのか、郁己が勇太の脇腹にびしっと貫手を入れた。


「ぎゃっ」


 勇太が仰け反りつつ飛び上がった。


「い、郁己、何を……」

「勇、ここは健全なお店だぞ。まずは席につくんだ」

「ちぇっ」


 基本的には郁己の言うことに従う勇太である。

 窓際の座席につくことになった。

 あまり迷惑行為をしていると、いかに有名人であれ追い出されてしまうかもしれない。

 むしろ、有名な分だけ変な噂が広がってしまうだろう。


「よく考えたら、欲望を解放したらダメじゃないか勇太」

「そっ……そうだった」

「一年の頃のお前はもっとピュアだったはずなのに、いつの間にか女の立場を利用するような世渡りの上手さを身に着けて……」

「うっ、わ、私は汚れてしまったのかな……」


 二人でおかしな会話をしていると、別なウエイトレスさんが御用聞きにやってきた。

 勇太の知り合いだということで、遥である。

 どうやら、誰が御用聞きに行くかで裏で熾烈なじゃんけん合戦が行われていたようだ。

 その中で、遥が普通に勝ち抜いてやって来たのだ。


「いらっしゃいませ、金城先輩、坂下先輩」

「わーっ、遥ちゃん! 髪型も合わせたの!? すっごく可愛い!」


 やや伸びてきている癖のある髪の毛を、後ろで両方に分けて、リボンで結わえている。

 きっと、クラスの女子たちがみんなでやってくれたのだろう。

 小柄な彼女によく似合っていた。


「あ、ありがとうございます。僕、髪の毛をリボンで結んだりとか、経験なくて……ちょっと恥ずかしいんですけど」


 郁己は遥の背後で、何者かがじっと彼女を凝視している事に気づいた。

 厨房から顔だけを突き出している龍である。


「ほら、黒沼さん。早く注文聞かないと、後ろで彼氏が待ってるよ」

「あっ、そ、そうだった! じゃあ、ご注文どうぞ!」


 かくして、オーソドックスにコーヒーを頼む二人なのである。

 甘味は重いケーキの後ということであっさりと……。


「私このビッグアップルパイ!!」

「じゃあ、俺はチーズケーキ」

「郁己チーズケーキ食べ過ぎじゃない? 女子か!」

「いいだろうが。レアとベイクドで違うんだぞ」

「さっきのはレアだったっけ」

「ベイクドチーズケーキだな」

「今度のは?」

「ベイクドチーズケーキだな」

「おんなじじゃん!!」


 漫才じみたやりとりをしていると、やってくるコーヒー。

 無論、インスタント。

 だけど、こういうお祭りの場で飲むコーヒーは、ちょっと普段のものよりも特別感があったりするのだ。


「ミルクは一つずつでいいですか?」

「私は二つ!」

「俺はいらないや」

「じゃあ、やっぱり一つずつでいいですね……ひゃっ」


 遥が悲鳴をあげた。

 いきなり勇太にハグされたのだ。


「うんうん。遥ちゃん、順調に育ってるね? ふんわりしてきてる」

「そ、そうですか?」

「そ。ちゃーんと女の子になって来てるから安心してって、龍にも伝えてあげて。もう、一弥にも見習わせたいなあ」

「あいつは男に戻りたいんだろ? そっちはどうなんだ?」

「どうなんだろうねえ?」

「どうなんでしょう……」


 関係者三名、首を傾げるのである。

 どこかの教室で、噂をされた当人が大きなくしゃみをしたとか。

 ゆっくりとコーヒーを飲む。

 窓から見える空の色は、ずっと明るいまま。

 まだまだ9月って、夏なのだ。

 勇太も郁己も、初夏から晩夏まで暑いままの夏しか知らない世代。

 ほんの少しずつ、空は夕方に向かっていくのだが、日が落ちるにはずっと時間がある。


「あー……。終わってしまうねえ……」


 両手で覆うようにカップを持って、勇太がため息を吐いた。

 既にケーキは平らげていたが、コーヒーは二杯目のお代わりをしてのんびりしている。


「私たちの、最後の学園祭。終わっちゃう」

「そうだなー……。楽しかったなあ……」

「うん、楽しかったねえ……」


 永遠に続くような楽しい生活も、いつかは終りが来る。

 碧風祭はあと数時間で終わりを迎え、また月日が流れるのだ。


「……行こっか」


 勇太の一声で、戻ることになった。

 残り僅かな時間。

 精一杯楽しむとしよう。

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