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今更ながらの、究極の選択!?

「むむむ」


 金城勇太は考えていた。

 知恵熱が出るんじゃないかってくらい考えていた。

 これでも、一年生の頃に比べると頭をつかうようになった方だ。

 昨年度は学園祭の劇の脚本だって書いたし、修学旅行のレポートは、大変よい評価をもらった。

 あれっ、私って結構できる奴なんじゃないか。

 そんな風に考えるのも仕方ないといえよう。

 クラスでは人望もあり、稀代の美少女との呼び声も高く、スポーツ万能、勉強の成績は中の中。

 何かをやったら結果がついてきて、それでまたみんなに評価され、認められる。

 勇太は間違いなくリア充であった。


 だから、忘れてしまっていたのだ。

 いや、去年の秋頃に、レヒーナにつきつけられた真実を考えないようにしていた。

 自分は、もともと男だったと言う事実である。

 果たして、男のままだったら、こんな成功をつかむことが出来ただろうか。

 女になったからこそ、自分はこうやってみんなに受け入れてもらえているのではないだろうか。


「そういえば……私って中学の頃の友達が郁己しかいない……!」


 えっ、私の年収って低すぎ!? みたいなポーズを取りながら、ハッとする勇太。

 それを向かい側から、じっと心葉が見ている。


「勇太の百面相が面白いですねえ」


 嫌な性格の妹である。


「心葉ったら随分他人事じゃない」

「そりゃまあ、姉妹とはいえ他人とも言えますからね」


 そんなことを口にしながら、テーブルの上のお煎餅を(かじ)るのだ。

 勇太はむむむ、と唸った。

 この女、今年は一緒に海に行ってちょっと深くなるところに浮き輪無しで放り込んでやろう。まだ泳げないことをこちらは知っているのだぞ。

 すると、心葉がちょっと勇太を見て引きつった笑いを浮かべた。


「今、背筋がゾッとしたんですけど、何か恐ろしいこと考えてないですよね」

「何のことかなあ」


 ニヤアッと勇太が肉食獣めいた笑みを見せると、心葉は暑くもないの汗をかき、テーブル上のウェットティッシュで顔を拭いた。


「わ、分かりましたよ。相談に乗りますから」

「よろしい」


 そもそも、今回、一弥と淳平という新入生二人組が持ってきた話がきっかけで、こうやって悩むことになってしまっているのだ。

 玄神という神様が原因で、自分は女になっている。

 玄帝の里ではちょくちょくあることで、仕方ないことなのだと諦めて、こうやって女として生きてきたというのにだ。

 あろうことか、男に戻れるらしいのだ。

 しかも、今年がタイムリミットだという。

 休に選択を迫られた勇太である。

 懊悩するのも無理は無い。

 そして、今回のこの真実を掴み出してきた要員の一人が、他でもない双子の妹の心葉。

 そんな彼女がどうして他人事みたいな顔をしているのか。


「男に戻るべきかな」

「お任せします」

「あーー!! あー! あー!」

「わ、分かりましたってば! 咆哮をあげながらテーブル叩かないで!?」


 いつにない勇太の勢いに恐れをなしたようで、心葉はしぶしぶとカウンセリングの真似事を始める。


「そもそも、勇太は何を悩んでいるんですか。昔のほうが良かった? 今のほうが良かった? どうなんですか?」

「うーん、中学の頃は郁己以外とは仲が悪かったからさあ」

「あの頃の勇太はオラついてましたからね。反抗期真っ只中でしたねえ」

「いやあ、お恥ずかしい」

「で、今は?」

「大変充実してます」

「じゃあ話は早いじゃないですか」


 心葉は勇太との会話に興味をなくしたように、ブックスタンドから律子さんが読んでいるハーレク●ーン文庫的なものを手にとった。


「女のままでいればよい」

「そ、そんなに簡単に決めていいのかなあ……」

「存分に悩むがいいですよ。だって、それって今しかできないことなんですから。あと、郁己さんはどう言ってたんですか? 勇太の未来の旦那様でしょう」

「そ、それはぁ」


 頬を染めてもじもじする勇太である。


「そう、それ」


 びしいっと指差す心葉。


「え、なに!?」

「それですよ、その感情。勇太がそのまま男に戻ったら、郁己さんとの関係はどうするつもりですか。男同士ですよ。彼がそういう趣味だったらお幸せにと言う他ありませんが、そもそも人間関係が大変なことになりません?」

「そうだよねえ……」


 うーん、とテーブルの上に上体を伸ばす勇太。

 ひんやりした上板に頬をくっつけてしんなりとする。

 豊かな胸が押しつぶされて横に広がっているのを見て、心葉がケッと言った。


「郁己はさあ、私に任せるってさ。でも、彼は絶対、私に女のままでいて欲しいと思ってるはずなんだよね」

「おや、自信を持って言い切りましたね。何でそれが分かるんですか?」

「いや、だってその、まだキスまでしかして無くて、その先はお預け状態だからさ……」

「むしろ私はムッツリスケベであるあなた方二人が、まだそこまで行ってなかったことに驚きましたよ」

「ひどい!!」


 いま明かされる、妹からの散々な評価である。


「ま、郁己さんは石橋を叩いて渡るタイプですからね。考えなしの勇太が主導権を握ってたら、今頃我が家に家族が一人増えていましたよ。郁己さん抜きでね」

「失敬な!」

「絶対にないと言い切れますか?」

「それはもちろ……ん…………………………言い切れないなあ」

「ほらご覧なさい」


 家族計画はそれこそ計画的にね、である。


「さて、それじゃあ勇太、私だけじゃなくてみんなからも意見を聞いてみたらどうですか?」

「みんな……? いやいや、私がもともと男だって、知ってる人はいないし」

「楓さんなら大丈夫でしょう」

「ああ!」


 ポンと手を叩いた。

 親友である彼女なら、何かとアドバイスをくれるかもしれない。

 きっとこの、冷血な妹よりも優しいアイディアが出てくるに違いない。

 それはいい、それは素晴らしい、いますぐやろう、そうしよう。

 立ち上がり、そそくさと楓に連絡を取ろうとする勇太である。


「ああ、それから」


 心葉が続けた。


「うちの本城さんが、どうやら勇太の秘密に勘付いたらしくて、あなたを陥れるために動いてますから気をつけて」

「ええっ!? そ、それって初耳なんだけど!?」

「私も桔梗から聞いたばかりですから」

「ううう、厄介事が一度に来るのかあ……。やっぱり、私の秘密って……それ、だよねえ」


 なんだかドーンと気持ちが重くなる勇太である。

 高校生活三年目。

 四月の初っ端から、金城勇太はちょっぴり憂鬱である。

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