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学園祭当日の風景

 ついにやって来た当日。

 天候は快晴、何よりの学園祭日和である。

 勇太たちにとって、最後の学園祭なのだ。こうであってもらわなくては困る。

 ちなみに、碧風祭と呼ばれるこのお祭り。

 なんと二十年以上連続で、晴れ続きなのだとか。

 何か強力な加護みたいなものが働いているのかもしれない。


 さて、ここは校庭に設けられた、三年二組の出し物スペース。

 実に校庭の30%を占めるこのイベントは、巨大人生ゲームであった。

 やって来た外部からの家族連れは、カウンターに並んだ三人娘を見てたじろいだ。


「す、凄い美少女だ……!!」

「ちょっとお父さん!?」


 目を見開いてガクガク震えるご主人の尻をつねる奥方。

 二人が連れているまだ幼い息子さんは、ポカーンと口を開いて彼女たちを見ていた。


 勇太、麻耶、理恵子の三人娘。

 学年……いや、学園で一番の美少女と言われる三人が、一列に並んでいるのである。


「いらっしゃいませ! これ、遊び方のパンフレットです!」

「どうぞ楽しんでいってね!」

「今なら私たちからコンパニオンを選ぶことができます」

「ええっ!?」


 ご主人、鼻息を荒くしてつま先立ちになった。

 興奮し過ぎである。

 奥様からの猛烈なツッコミが開始され、見かねた男子生徒が走ってきた。


「それじゃあ、案内は僕がやりますんで……。はい、金城さんと委員長と脇田さんはカウンター戻って!」


 三人娘、ぞろぞろと戻っていく。

 彼女たちは実に、傾国の美姫と言った風合いで、並み居る家族連れのお父さんたちを誘惑して止まない。

 三人娘がコンパニオンをやれば、まさに家庭崩壊の危機なのだ。

 無論、外見的な美醜にとらわれないナイスガイなご主人もいる。


「それでは、ザ・人生モード行ってみましょー!」


 勇太がそんな家族連れを相手に、開いている人生ゲームボードを練り歩く。

 鮮やかに色づいたボードがラミネートされ、陽光に照らされてテカテカと光る。

 土台はダンボールだからいささかチープだが、校庭を使ったスケールの大きな人生ゲームという出し物は、なかなか受けた。

 コンパニオンをする生徒が、参加者の横で運命のルーレットをぐんぐん回す。

 巻き起こるのは、悲喜こもごも。

 例え数十分間の仮初の人生だって、感情移入して楽しめばエキサイトできる。

 大変盛り上がっているので、サッカー部の連中がジュースの出張販売にやって来た。


「ゲーム後の疲れに、ジュースいかがっすかー!」

「超冷えてますよー! 氷でキンキンっすー!!」

「一本ちょうだい!」

「あたしコーラ!」


 晴天の下で体を動かすゲームは、思いの外汗をかき、疲れるものである。

 ということで、商機と見てやって来たサッカー部の狙いは当たった。

 これを見ていたのが、バレー部の女子たちである。


「お好み焼き出前承りまーす!」

「これメニューでーっす!」


 長身の女子たちがエプロン姿も眩しく、営業スマイルでやって来る。


「うわーっ、夏芽ちゃんのあんなスマイル始めて見たよ……!」


 と一年生から付き合いのある親友、勇太が思うほど、バレー部のエース岩田夏芽の営業は気合が入っていた。

 ということで、


「ぶたたま!」

「私は餅チーズ!」

「海鮮あるの!? それで!」


 またまた、お好み焼きがとても売れるのである。

 人が集まってくると、その集まりがまた人を呼ぶものである。

 人生ゲーム周りに売店が移動してきて、そこで食事をしながらゲーム風景を見る人々が増え、興味を持つと遊び始める。

 あるいは、ゲームの待ち時間に食べたり飲んだり。

 ゲーム運営スタッフたちもちょうどご飯にありつけて万々歳だ。


「豚玉チーズいただきます!!」


 カウンター横の控室で、勇太が物凄い勢いでお好み焼きを平らげていく。


「うわあっ、何ていうか、そういうの見てると、確かに勇が元男だって思うわよね……」


 感心した風なのは、バレー部の手伝いが終わった夏芽。

 二人で並んで腰掛けながらの、ちょっと遅めの昼食である。

 元々、勇太は体格の割に食事量が多い方ではあったが、それもどうやら人前では手加減していたらしい。

 隠すのを止めた彼女の食べっぷりは、惚れ惚れするほどである。

 一口で豚玉の3割ほどを口に含んで、もぐもぐやって飲み下しながら、サッカー部で買ったサイダーをごくごく。

 また豚玉を食べて、一気に平らげていく。

 百年の恋も冷めてしまいそうな食べっぷりを、学園屈指の美少女がやるのである。

 かろうじて、炭酸からくるげっぷは音を立てず、口元を抑えている辺り、女子らしい部分が残っている。


「ごめん、はしたない私です」


 口を拭きながらそんな事を言ってくるので、夏芽は吹き出してしまった。


「いや、いいんじゃない。勇らしくて。でも、男どもが見たらトラウマものかもね? 勇はちょっとくらい演技して食べた方が、見た目に合ってると私は思うけどね」

「そ、そうかなあ。郁己は今までのままの私でいいって言ってくれたんだけど……」

「そこに甘えないで、努力は続けておくのがいい女ってものだと私は思うけどね。あっちだって努力してくれてるじゃん? なら、私たちだってフェアに努力して、それでお互い釣り合っていければ、ね?」


 夏芽が思い浮かべるのは、きっと小柄で可愛らしい、二年生の男子であろう。

 確かに、バレー部エースである彼女に並ぼうと、日々努力する彼のことを思うと、夏芽の言葉にも納得できる。


「うん、夏芽ちゃんすっごく良いこと言った。私はあれだ。頑張らなきゃだね」

「そうよ。私だって、バレーと恋愛の二本立て頑張ってるんだから。勇は女の子を頑張んなさい」

「そっかー……。やっぱりまだまだ普通の女子と比べるとハンデがあるのかもしれない……。私、よく恋愛沙汰の勝負で勝って来れたなあ……」


 しみじみと呟く勇太。

 その後ろで、


「金城さん! お客さんどっと来たから出てきてー!」


 悲鳴じみたヘルプを求める声がする。

 勇太は雄々しく立ち上がった。


「よし、やるしかないみたいだね。これからの事は、今日を乗り切ったら考える!」

「おう、行っといでー」


 悩める女子高生から、コンパニオンへと立ち返った親友を見送る夏芽。

 かくして、学園祭初日は後半戦へと差し掛かるのである。

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